現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回紹介してくれるのは、インド映画で活躍したパキスタン生まれの女優兼歌手=サルマ・アガが1985年にリリースした『サルマ・アガ・イン・パキスタン』。インドを感じさせる歌い回しが映える作品だが、アンサンブルに登場する楽器が多彩で、1枚を通して耳を飽きさせないのがマークのお気に入りポイント。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2022年9月号より転載したものです。
旅気分ではなく、作品としてのプロダクションを楽しむべきインド音楽。
彼女は女優かつシンガーとして活躍してきた人で、パキスタン出身だけどインド映画でよく知られた存在だ。インド映画の多くは劇中での歌唱シーンとなると、アフレコのようにプロのシンガーが歌うのが普通なんだ。しかし彼女に限っては、自身の声で歌っているようだよ。
彼女の声はピュアで本当に素晴らしい。インドっぽい独特の歌い回しも大好物だね。そして、僕はこのアルバムのプロダクションが気に入っている。素晴らしいメロディに溢れているし、民族楽器だけでなくストリングスやキーボード、シンセも混ざるアレンジがクールだ。
で、何よりも超ファンキーなんだ(笑)。「Pyare Aaja」って曲を聴いてほしいけど、細かいドラムにギターのカッティングが乗り、ビザールなファンクだよ。とにかく踊れる感じだね。
ちなみに、このアルバムは映画と関係ないけど、映画のサウンドトラック盤を買うことってあるよね? そこに関しては少しこだわりがあって、単なる曲のコンピみたいなサントラはあまり手を出さないんだ。特に欧米のエンターテインメント映画だと、ポップ・ソングの寄せ集めだったりする。それでもいいけど、僕は「その映画のためだけに作曲されたもの」に魅力を感じるよ。
琴線に触れるようなものがあれば、確実にそのアルバムを探しに行って手に入れるね。ただインド映画となると本当に観ていないものばかりで、純粋に音楽だけに惹かれて聴いているよ。
話を戻すと、とにかくプロダクションの良さを感じてほしい1枚だ。インド音楽として旅気分で楽しむのではなく、単純に作品としてそのサウンドに興奮してほしいね。