現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回紹介してくれる『銀河の輝映』は、ジャズの巨匠=チック・コリア(k)率いるリターン・トゥ・フォーエヴァーが1974年にリリースした作品。1枚をとおして縦横無尽に弾きまくるファンキー&エネルギッシュなギター・プレイは、当時19歳だったアル・ディ・メオラによるものだ。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2022年10月号より転載したものです。
“別の惑星から来たプログレッシブ・ロック”って感じかな。
これは僕がティーンエイジャーの頃に出会った作品で、初めて聴いたジャズ・フュージョン系アルバムの1枚だね。家の近くに中古レコード屋があって、アートワークがクールだったから手に入れたんだ。
リターン・トゥ・フォーエヴァーがどんなバンドなのか、チック・コリアが誰だかなんて当時はまったく知らなかったよ。アル・ディ・メオラなんて、まったく認知していなかったね(笑)。当時の僕はベースを弾いていたから、スタンリー・クラークのことはかろうじて知っていたけど。実際、ベースのパートは聴いてみて本当に凄いなぁと思った。
でもこのアルバムで本当に凄いのは、チック・コリアによるシンセのプレイだ。あまりにもクールだったよ。「Song to the Pharoah Kings」の妖しい感じのイントロは、まるで別の惑星からやってきた得体の知れない何かのようなサウンドだ。
で、申し訳ないけど、このアルバムのギターは一番好きではないパートかもしれない。むしろそれ以外の楽器パートが好きなアルバムだ。アル・ディ・メオラのギター・プレイは、僕の興味のあるスタイルではないからね。本作で聴けるリズム・プレイはかなり好きだけど。とにかく、ギターが好きでこのアルバムを買ったわけではなくて、音楽そのものやアルバム全体が素晴らしいんだ。ギターはあくまでもその一部、っていうことだね。
本作が面白いのは、ドラムとベースはかなりタイトでファンキーでありつつ、それでいてプログレッシブ・ロックの要素がどことなくあることだ。チック・コリアがインタールードのようにプレイするピアノもあって、それもまた美しい。“別の惑星から来たプログレッシブ・ロック”って感じかな。