現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回紹介してくれるのは、ニュージーランド出身のシンガーソングライター、コナン・モカシンが2013年にリリースした2nd『キャラメル』。ソフトな音像がベッドルーム・ポップ的な雰囲気を感じさせる1枚だが、奇妙なギター・サウンドや不穏な音程のフレーズが時折り顔をのぞかせる、ミステリアスなアルバムだ。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2022年8月号より転載したものです。
すべてがソフトで、溶けていくような、ヘンなギター・アルバム。
2013年に出た比較的新しい作品だけど、これは確実にギター・アルバムだよね。コナン・モカシンは変態的かつとってもヘンなギタリストで、彼のスタイルっていうのは本当に独特なものだ。
ブルースに影響を受けてきた人であることはわかるのだけど、奇抜なあのスタイルを作り上げるためには相当な経験があったんだと思う。このアルバムのタイトルが示すように、なんと言うかすべてが溶けていくようなサウンドなんだ。セクシーでありながらも気味が悪いし、とにかくヘンなんだよ(笑)。
このアルバムを聴いた時、どうにかしてサウンドを真似られないかなと思って、自分なりに試してみたことがあるよ。コーラス、フェイザー、フランジャーを同時にオンにして、トレモロ・アームでピッチを急激に落としたり、上げてみたり……一応トライはしてみたけど、気味が悪いだけのサウンドになってしまったね(笑)。
このアルバムは、録音当時に彼が住んでいた東京のホテルで録音したらしいんだ。ドラムは小さなキットのようなヤツを部屋に持ち込んで、ソフトに叩いていたらしいよ。そのおかげですべてがソフトなサウンドになっている。ラウドな箇所なんてまったく存在していないんだ。まるでピロー・トークをしているような感じでさ。
メロディ的にはとても美しくて、これほど美しいメロディで紡がれたアルバムなんてほかに聴いたことがない気がするよ。ボーカルもかなりヘンな感じなんだけど、それがアルバムにミステリアスなものをもたらしているんだよね。