メタリカのプロデューサー=グレッグ・フィデルマンが語る、『72シーズンズ』の舞台裏とレコーディングで使ったギター/アンプ メタリカのプロデューサー=グレッグ・フィデルマンが語る、『72シーズンズ』の舞台裏とレコーディングで使ったギター/アンプ

メタリカのプロデューサー=グレッグ・フィデルマンが語る、『72シーズンズ』の舞台裏とレコーディングで使ったギター/アンプ

『Death Magnetic』のエンジニアとしてメタリカ作品に携わって以来、『Lulu』(2011年)、『Hardwired… To Self-Destruct』(2016年)、『S&M2』(2020年)、そして最新アルバム『72シーズンズ』と、4作連続で共同プロデューサーを務めたグレッグ・フィデルマン。今回はそんなフィデルマンに、『72シーズンズ』制作の舞台裏、レコーディングで使用した機材などについて大いに語ってもらった。

translation=Mutsumi Mae Photo by David Tan/Shinko Music/Getty Images This article is translated or reproduced from Guitar World Issues #565, June 2023 and is copyright of or licensed by Future Publishing Limited, a Future plc group company, UK 2023. All rights reserved.

ジェイムズはあのフライングVを手にすると、すぐに速いリフを弾きたがるんだ!

『72シーズンズ』の制作をスタートさせた時、サウンドの方向性などについて、メンバーとはどんな話をしましたか?

 当時はコロナの隔離期間だったので、まずはリモートで曲を作ってみようということになったんだ。普段のように会って話すことができなかったからね。“隔離期間が終わるまでに、リフや曲のアイディアをまとめてみようか?”って感じだったよ。

 そのあと、『Helping Hands Concert & Auction』(20年11月に行なわれた生配信のチャリティ・ライブ)のために集まることになったので、ショウの前後1週間ずつ長く滞在して、それぞれが曲を持ち合い、実際に作業してみたんだ。みんな早くアルバム制作に取りかかりたったし、一緒に演奏するのが楽しみで仕方がなかった。あとはひたすら突き進んだよ。

バンドの中ではアルバムの方向性について、何か具体的な狙いがあったのでしょうか?

 まず、前作の『Hardwired… To Self-Destruct』から大きくはずれる必要はないと全員が思っていたよ。あとは、全員が同時に演奏することで生まれるエネルギーやライブ感を前面に出したいということを話した。先にドラムだけを録音して、残りは全部オーバーダブっていうやり方はやめようってね。

 だから、このアルバムのほとんどは4人が同時に演奏したライブ・テイクなんだ。レコーディングしている時はみんな、“スゲー最高だ! この感覚を超えることはない!”って感じだった。歌詞はまだ完成していなかったから、ボーカルは後から重ねたりもしたけど、当初のシナリオ通り、ライブ感を保つことができたと思うね。

今作の歪みの質感は『Hardwired… To Self-Destruct』にかなり近い印象を受けます。レコーディングではどんな機材を使ったんですか?

 カークはグリーニー(59年製レス・ポール)とESPのマミーだ。彼はマミーと同じようなESPのギターを100本くらい持っているんだが、マミーだけは明らかに音が違う。

 ジェイムズは『Kill ‘Em All』時代から使っているエレクトラ製のフライングV(下写真)で、あのギターも物凄いサウンドだよね。ジェイムズはあのVを手にすると、すぐに速いリフを弾きたがるんだ! だから、速い曲は間違いなくあれの音だよ(笑)。

エレクトラ製のフライングVを弾くジェイムズ・ヘットフィールド。
エレクトラ製のフライングVを弾くジェイムズ・ヘットフィールド。Photo by Richard Rodriguez/Getty Images

 それと、基本的にジェイムズのパートはすべてオーバーダビングしていて、ギターを3本重ねることもある。重ねる場合は、いつもESPのEET FUKエクスプローラー(MX220/下写真)を使っていた。これは彼が最初に手に入れたESPじゃないかな。あれも信じられないようなサウンドだよ。

 あとは、赤褐色のスネイクバイト(ESP製のシグネチャー・モデル)だ。15~20種類のスネイクバイトを試してみたんだけど、赤褐色のやつがほかのより良い音がしたんだ。というわけで、ほとんどの曲はフライングVかスネイクバイト、オーバーダブはFUKエクスプローラーって感じだな。あと、ミッド・テンポやスローな曲ではレス・ポールも使ってたね。

1989年ニューヨークにて。ジェイムズの愛用しているESP製のEET FUKエクスプローラーは初期キャリアを代表する1本だ。
1989年ニューヨークにて。ジェイムズが手にするESP製のEET FUKエクスプローラーは、初期キャリアを代表する1本だ。 Photo by David Tan/Shinko Music/Getty Images

スローな曲で低音が必要な時はディーゼルを使うんだ。

メタリカのレコーディングは、アンプ・サウンドもかなり複雑に重ねていることが多いですよね。

 ジェイムズは今回、ホセ・アレドンドがモディファイした60年代後半〜70年代前半のマーシャルのスーパーリードをずっと使っていたよ(編注:ホセはエディ・ヴァン・ヘイレンのマーシャルをカスタマイズしていたエンジニア。ブラウン・サウンドはホセの手によって生まれたと言っても過言ではない)。

 『Hardwired~』の時はうまく機能しなかったんだけど、ホセの手がけた機材に詳しいデイヴ・フリードマンに調整してもらったら、とてつもないサウンドになってね。ジェイムズも興奮していたよ。結局、全曲でこれを使った。アルバムから流れてくる音がまさにそれだよ。

 さらにジェイムズは複数のアンプを組み合わせていて、曲によってそれが変わる。ずっと愛用しているメサブギーMark IIC++と、ホセのマーシャル、少なくともこの2台はいつもあったね。

 あとはウィザードの100Wのヘッド、ディーゼルのヘッドかな。特にスローな曲で、低音が必要な時はディーゼルを使うんだ。ほかのアンプでは出せない凄い低音が出るからね。それと、ケンタウルスのペダルもよく使っていたよ。

カークのギター・アンプはどうでしょう?

 カークはソロとバッキングでアンプを使い分けるんだ。バッキング用にはフリードマンを何種類か使っていたね。HBE Deluxeの時もあれば、デイヴ・フリードマンが改造した初期のHBEヘッドもあった。中でも79年製のマーシャルJMP(50W/マスター・ボリューム付き)、あれは素晴らしい音だったよ。

 ソロではもう少しザラザラしたサウンドのJMP(100W/マスターボリューム付き)とメサブギーのデュアル・レクチファイヤーを組み合わせていた。あとはカークのシグネチャー・モデルのランドール・ヘッドもあったかな。凄くクリアで明確なミッドレンジが得られるので、強烈に歪んでいても一音一音がはっきり聴こえるんだ。

2人はキャビネットへのこだわりも強いですよね。

 キャビネットは山ほどあったけど、ジェイムズは大体最後はメサとマーシャルにマーシャルのキャビ、ディーゼルにメサのキャビという組み合わせだったね。カークは古いマーシャルのキャビネットに30Wか25Wのセレッションを組んでいた。ソロでは“ブラック・シャドウ”というラベルのついたメサブギーのキャビネットを使ったよ。スピーカーは多分、80年代半ばに作られたエミネンスだと思う。あれも凄く良い音だったね。

カーク・ハメット(左)とジェイムズ・ヘットフィールド(右)
グリーニーを手にしたカーク・ハメット(左)とスネイクバイトを弾くジェイムズ・ヘットフィールド(右)。Photo by Jeff Kravitz/Getty Images for P+ and MTV

アレンジする時は、過去の曲をイメージすることもあるかな。

作曲やアレンジをする際に、過去の名曲を参考にすることはありますか?

 意図するわけじゃないけど、色々なスタイルが欲しくなってしまうことはあるかな。例えば速くて激しいスラッシュ・ナンバーがあったら、ミドル・テンポの「Creeping Death」のような曲や、「Sad But True」のような曲も入れたくなるよね? 「Sad But True」はメタリカがヘヴィであることを示す典型さ。

 ただ、初めからそういうカテゴリーに当てはまるように曲を書くわけじゃない。“ヘヴィなリフがあるから、とりあえずやってみよう”って感じなんだ。とにかくアイディアはたくさんあったからね。

 一方で、アレンジする時は、過去の曲をイメージすることもあるかな。例えば「Too Far Gone」のあるパートに取りかかり始めた時には、皆でそれを“Leper セクション”と呼んでいた。そのパートが「Leper Messiah」を思い出させるからなんだ。

 ヴァース、コーラス、ブリッジと呼ぶ代わりに、何かに例えて言い表わすのさ。それはメタリカの曲じゃない場合もある。例えばある曲の一部は“サバス・リフ”と呼ばれていたりね。実際にサバスのリフを弾いているわけじゃないんだけど、彼らがそれを弾くと『13』の頃のブラック・サバスと似ていると思ったので、そう名づけたんだ。

今作の「Inamorata」のリフなどは、まさにサバスの雰囲気がありますね。

 あの曲のキーはC♯、もしくは他の奇妙なキーだ。あれはライブ前のチューニング・ルームでウォーミング・アップをしていた時に思いついたリフだね。

 ジェイムズが思いついたんだけど、どうしてC♯だったのかはわからない。この曲に取りかかった時、変なキーだからAかEで試してみたら、なぜかクールじゃなくなった。それで、もっと低いキーにすればヘヴィなサウンドになるかと思ったんだけど、それも違った。だから、C♯でヘヴィな曲を書くというチャレンジをすることにした。このキーだと開放弦をあまり使うことができないから、他のキーでは思いつかなかったようなアイディアが出てきたんだからね。

では最後に、今作の仕上がりについていかがでしょうか?

 最初に言ったように、今回は過去数枚のアルバムに比べて、共同作業の時間を増やそうと話し合ったんだ。4人全員が別々に作業するのではなく、一緒にアルバムを作り上げたいと思っていたからね。だから、曲作りもレコーディングも、できる限り同じ部屋で行ない、意見を言い合った。皆で作り上げることを目指し、それを達成できたと確信しているよ。

カーク・ハメット(左)とジェイムズ・ヘットフィールド(右)。
ESP製マミーを手にするカーク(左)。ジェイムズが手にするのは珍しい蛇柄のスネイクバイト(右)。Photo by Kevin Mazur/Getty Images for Global Citizen

作品データ

『72 Seasons』
メタリカ

ユニバーサル/UICY-16145/2023年4月14日リリース

―Track List―

  1. 72シーズンズ
  2. シャドウズ・フォロー
  3. スクリーミング・スーサイド
  4. スリープウォーク・マイ・ライフ・アウェイ
  5. ユー・マスト・バーン!
  6. ルクス・エテルナ
  7. クラウン・オブ・バーブド・ワイアー
  8. チェイシング・ライト
  9. イフ・ダークネス・ハド・ア・サン
  10. トゥー・ファー・ゴーン?
  11. ルーム・オブ・ミラーズ
  12. イナモラータ

―Guitarists―

ジェイムズ・ヘットフィールド、カーク・ハメット