メタリカの大傑作アルバム『72シーズンズ』のリリースからはや2ヵ月。少し遅くなってしまったが、今日から数回に分けてカーク・ハメットのインタビューをお届けしていこう。今回は、制作・作曲についてと、最新のメタリカ・サウンドの鍵となったNWOBHMについてカークが熱く語る!
NWOBHMとは?
ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタルの頭文字をとった言葉。1970年代後半のイギリスで勃興したブリティッシュ・ロックのムーブメントで、アイアン・メイデン、ダイアモンド・ヘッド、モーターヘッドなどが含まれている。メタリカのメンバーが多大な影響を公言していることでも有名。
translation=Mutsumi Mae Photo by Michael Hickey/Getty Images
This article is translated or reproduced from Guitar World Issues #565, June 2023 and is copyright of or licensed by Future Publishing Limited, a Future plc group company, UK 2023. All rights reserved.
あのグレイトなNWOBHMが、今でも俺たちの中にある。
18歳の時に出会って以来、ずっと心にへばりついているんだ。
ついに新作『72シーズンズ』が完成しましたね。世界中のギタリストが待ちわびていました。
世界中に広まったクソみたいな状況に腹が立って、それが原動力になったんだ。それはアルバムのサウンドにも反映されていると思う。もしパンデミックがなかったら、かなり違ったものになっていただろうね。
前作を進化させたような、凄いギター・サウンドが鳴っていますよね。
でも、“あぁ、メタリカか。彼らは年を取り、道を見失い、普通の暮らしをしたりしているんだろう”とか何とか言うヤツらもたくさんいるけどな(笑)! そういうことを言うのは本当に簡単だ。まぁ人の人生はそれぞれだからね。
アルバム・ジャケットに描かれているギターについて、様々な憶測が飛び交っています。あれはあなたが昔に所有していた、フェルナンデスLE-1のように見えますが。
俺のは200ドルのギターだったよ! いや、これじゃ答えになっていないか(笑)。あの写真を撮影したカメラマンは、ギタリストじゃなくてね。どこかで見つけた安物の楽器を燃やしただけだと言っていたよ。ヘッドに何と書いてあったか聞いたら、“え? 覚えてないよ”だってさ! 俺も知りたいよ。なんせ君のような人達が同じ質問をしてくるので、ちゃんと知る必要があるからね。
ただ、あのアートワークには何の意味もない。メッセージもないし、企みもないんだ。単に焼けたギターがアルバム・デザインのコンセプトの一部になった。それだけだよ。
メタリカのファンやギタリストというのは、いつも点と点を結びつけて持論を考えるんです。それが大好きなんですよ。
ああ、よくわかるよ(笑)。好きなギタリストに関しては俺だって同じさ。ジミ・ヘンドリックスが使っていた弦のゲージが、長い間わからなかったんだけど、ボブ・ロックがそれを突き止めて知らせてくれたことがあった。異なる弦のセットを2~3種類組み合わせていたんだ。
それを知った時の俺はオタクそのもので、ボブに “これは凄い発見だよ、兄弟!”と返信したんだ。そしてボブに、“ジミがあるコードを弾くときは、薬指ではなく小指でネックを押さえているのに気づいているか?”と尋ねたら、彼は知らなかった。俺はくり返しビデオを見ているうちに気がついたんだ。そして面白いことに、彼のように弾いてみたらサウンドが変わった。
だから、マニアックでオタクな情報を集めてしまうという意味では、俺も皆と同罪なんだよ。
アルバムの制作はどのように進みましたか?
音楽が降りてくる、という感じだ。断片的に少しずつね。そのあと皆で集まって、それを切り刻み、またくっつける。異なるパーツが磁石を使ったようにくっつくんだ。隙間が出来た場合は、皆でそれを埋めていく。隙間はだいたい自然発生的に埋まるよ。
最初に生まれたリフには怒りや苛立ち、不安感が表われていた。その隙間を埋めるパーツは、バンドで集まって演奏し始めた時に、自然と出てきた。俺たちにはケミストリーがあるから、何も考えずに音楽が生まれてくるんだ。そして、“これはアルバムにふさわしいクールなパートだ”と思うようになる。宇宙とか神とか、よくわからないけど、どこからかインスピレーションが湧いてくるのさ。
また、今作にはバラードがありませんね?
バラードや繊細で美しいものは何も浮かばなかった。なぜかわからないけど、いつもヘヴィなリフばかりが降りてきたんだ。ジェイムズもロブもラーズも同じで、色々と手がかりはあったけれど、きちんと形になるものはなかったね。
最初からバラードなしで進めようとしたわけではないんですね。
どんなアルバムになるのか、俺たち自身も初めはよくわからない。リフと、ある種のエネルギーがあるくらいでね。
そのうち最初の1曲が出来上がってくると、全体が見えてくる。そのエネルギーに飛びついて、同じような傾向の曲をさらに書く。だから今回、4人で話をしたのは一番最初だけだ。互いに“NWOBHM風のクールなリフはあるかい?”と聞きあったよ(笑)。
確かに今回のアルバムにはNWOBHM的なリフがたくさん飛び出しますよね。
あのグレイトな音楽、NWOBHMが今でも俺たちの中にあるからさ。最初の72シーズン(人生の18年間)は頭がスポンジみたいで、俺の場合は18歳の時に、友人のジョン・マーシャルと一緒にNWOBHMに出会った。それ以来、あのサウンドがずっと心にへばりついているんだ。
そんな風に、18歳のカーク・ハメットがまだ俺の中にいて、25歳のカークも俺の中にいる。45歳のカークも、55歳のカークも、まだ俺の中にいるんだ。俺は今60歳だけど、どの年齢にも簡単にアクセスできる。隠れた自分にもアクセスできるような気さえするよ。そうやって、過去のエネルギーや感覚にアクセスすることは、それほど難しいことではないんだ。多くの人は同じことができるはずさ。
あなたたちはブリティッシュ・メタル好きとしても知られていますね。
イギリスがエレキ・ギターの世界に与えたものが大好きなんだ。イギリスの音楽は60年代以降、エレキ・ギターにとてつもない影響を与えてきた。
その先頭に立っていたのはジェフ・ベック、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジの3人だ。俺たちは彼らがやっていたことに真っ向から挑戦したんだ。彼らが生み出したもの、特にエレキ・ギターの奏法や音楽全般が大好きだし、彼らには心から感謝しているよ。
“これはロブのリフだ、これはラーズのアイディアだ”、なんてことは考えない。誰が考えたアイディアでもいいんだ。
今回のアルバムであなたは4曲を共作しています。今回はデータを失くしていませんよね!
もちろん! 俺がデータを失くしたのはもう10年近く前だよな。当時はたっぷり時間があったから、ずっとリフを録りためていた……iPhoneをなくすまではね! あれ以来、すべてバック・アップすることを学んだよ(笑)。
俺が曲を作る時はまず、“よし、クラウド上にリフ・バンクを作るから、リフのデータを入れてくれ”と皆に伝えるところから始まる。その中から、“これは曲の骨格としてふさわしいか?”と自問自答しながら、様々なアイディアを選び出すんだ。
でも、“これはロブのリフだ、これはラーズのアイディアだ”、なんてことは考えない。ただ単に音楽の一部としてとらえている。誰が考えたアイディアでもいいんだ。そこにはエゴはないよ。そこが重要なんだ。
エゴは邪魔になるだけで、物事をきちんと感じたり、見たりする能力を鈍らせる。エゴは足を引っ張る。俺たちは、最初から本能的にそれがわかっていたんだと思う。メタリカはそういうバンドなんだ。アルバムが完成したあとに、どれが自分のリフなのか、どの曲が他のメンバーのものなのかを見極めるのは、かなり難しいことだよ。
かなり特異なことですね。
まぁ単に覚えてないだけなんだけど(笑)。“これは俺のリフだ……いや、待てよ。あいつのリフだっけな? 散々弾いたから自分のリフだと思っちゃったか?”みたいな感じでね。
そういうことは、創作の過程では重要じゃない。すべてが終わればクリアになる。そこで改めて思うんだ。“俺はこのアルバムに貢献した。ナイスじゃないか!”ってね。このバンドに自分がいる意味を証明するのは、個人的な貢献度じゃないんだよ。
あなたとジェイムズは、史上最強のギター・チームとして語り継がれています。そのケミストリーの秘密は何でしょうか?
お互いの信頼感かな。俺はソリッドなリズムを刻むために彼に寄りかかり、彼は複雑なギター・パートやソロを弾くために俺に頼る。とても機能的な関係だと思うよ。メタリカではお互いの役割がしっかりと決められていて、上手くいっているよ。
また、純粋にテクニック的な観点から見ると、ジェイムズは生まれながらのギタリストだ。彼は練習する必要さえない。ただギターを手に取り、6弦を32音符で本当に速く弾くことができる。それが誰よりも上手いし、そこに簡単にスタッカートのリズムを加え、ギターをまるでドラムのように扱い、パーカッシブなモードに入っていく。そして突然、リフが飛び出してくるんだ。
見ていて本当に驚かされるし、慣れないとちょっと怖くなるよ。幸い俺は見慣れているけどね。でも、生まれながらのギタリストとしての本能があまりにパワフルなので、ついていくのが大変なこともある(笑)。
それに対して、いわば行間を彩るのがあなたのスタイルですね。
ああ、俺はインプロヴィゼーションの男なんだ。レコーディングと同じソロを弾くのは好きじゃない。即興で、それまで弾いたことのないようなものが頭に浮かんでくるのが好きなんだ。それが俺の役割だよ!
俺たちはお互いの役割を果たし、それが1つになると美しく調和する。俺たちが一緒になるといつも物事がスムーズに動く。1983年に、街のリハーサル・スタジオでヤツと一緒にプレイするようになってから、ずっとね。凄いだろ?
メタリカに加入して一番驚いたのは、前にいたエクソダスよりもずっと居心地が良かったことだった。それはジェイムズやラーズと会って、7秒くらいで気持ちが通じ合ったからなんだ。今でもそれは変わらない。
そしてもうひとつ、ジェイムズと俺はギタリストが2人いるバンドが大好きだということ。特にシン・リジィへの情熱はとても深い。レーナード・スキナードやジューダス・プリースト、アイアン・メイデンのようなバンドは俺たちとって、とても大切な存在なんだ。俺たちはその伝統を守っている。そしてそれがNWOBHM的だということなのさ。
作品データ
『72 Seasons』
メタリカ
ユニバーサル/UICY-16145/2023年4月14日リリース
―Track List―
- 72シーズンズ
- シャドウズ・フォロー
- スクリーミング・スーサイド
- スリープウォーク・マイ・ライフ・アウェイ
- ユー・マスト・バーン!
- ルクス・エテルナ
- クラウン・オブ・バーブド・ワイアー
- チェイシング・ライト
- イフ・ダークネス・ハド・ア・サン
- トゥー・ファー・ゴーン?
- ルーム・オブ・ミラーズ
- イナモラータ
―Guitarists―
ジェイムズ・ヘットフィールド、カーク・ハメット