Interview|BLUE ENCOUNT『Q.E.D』のギターから感じた新境地 Interview|BLUE ENCOUNT『Q.E.D』のギターから感じた新境地

Interview|BLUE ENCOUNT
『Q.E.D』のギターから感じた新境地

BLUE ENCOUNTの最新作『Q.E.D』が2020年11月にリリースされた。疾走感のある田邊駿一のバッキング、第二の歌として縦横無尽に駆け回る江口雄也のリード・ギターは以前よりも一体感を増した印象。それにより、江口のリード・ギターが楽曲により馴染み、トリッキーなプレイも今までより際立って聴こえるようになった。変わらない良さを持ちつつも着実に進化しているサウンドからは、彼らの新境地を感じさせる。この進化の理由を、江口と田邊の言葉から探っていきたい。

取材=福崎敬太 撮影=星野俊


フレーズも前に出るようになったし、
より馴染みがよくなった。(江口)

今作『Q.E.D』は、田邊さんのバッキングと江口さんのオブリの一体感が増したことで、江口さんのトリッキーなフレーズが今までよりも際立っているように感じました。今作を作り終えてギター的にどういう作品に仕上がったと感じていますか?

江口 ここ1年くらいで、ギターを極力“重ねすぎない”ようになったんです。以前までは“重ねてナンボ”みたいな風潮があって、基本的なバッキングはダブルで録るのが当たり前として定着していたんですよ。でも、去年プロデューサーの玉井健二さんと一緒に楽曲を作らせてもらった時に、そうじゃないパターンでも音像を厚くできるってことを自分たちなりに知ったんです。それによって、以前よりも僕のフレーズもより前に出るようになったし、より馴染みがよくなったっていうのはあると思います。そういうのを狙って作れるようになったと思うので、それがちゃんと伝わってうれしいですね。

重ねずに音を厚くするにはどういう方法があるんですか?

江口 全体の音域のバランスをちゃんと計算して作ることによって、ベース、ドラム、田邊ギター、江口ギターっていうのがきれいな層になって、曲として聴いた時に“まとまりとして太い音になる”っていうのがわかったんです。前まではひとつの層にたくさんの音を重ねて、変に壁にし過ぎていて。そういう音が好きだった時期もたしかにあるんですけど……。

それが悪いというわけでもないですしね。

江口 もちろん。でも、“ひとつひとつの音を鮮明に、より効果的に出したい”というのが今のムーブ的にあって、この1~2年はそれを形にしていった感じですね。

田邊さんはいかがですか?

田邊 歌の力がすごく強いアルバムなので、“歌をより引き立てるには、どうしたらいいか”ということをすごく考えましたね。それと、玉井さんにプロデュースしていただいて、ひとつ音の力で押しとおすことのすごさに出会えたというか。僕は今作でアルペジオを弾いている部分がけっこうあるんですけど、その時に“ひとつひとつの音がちゃんと粒が立って聴こえるようにはどう音作りをするか”って考えたり。今までで一番ギターの音作りに時間をかけたアルバムでしたね。

あの青い光にみんな憧れてたんですよ。(田邊)

歪みの質などサウンドも多彩で、例えば「STAY HOPE」では帯域をふたつのギターで分け合って、2本でひとつのギター・パートになっている感じがします。サウンドの住み分けで話し合ったりはするんですか?

江口 基本的には、バッキング・ギターとベースとドラムを3人でまとめて録って、そのベーシックができた翌日あたりに僕がリード・ギターだけを入れる日があるんです。なので、最初に田邊が思い描くバッキング・ギター像を作ってもらって、僕がそれをもとに“じゃあ、ここをこうを縫っていこう”、“ここの音域を攻めよう”っていう感じでテックの人と相談しながら弾いています。「STAY HOPE」だったら、“なるほどね、じゃあ少しゴリッといくか”みたいな感じで、エンジニアさんと話をしながら作っていきましたね。

田邊さんが最初に録るバッキングは、作曲の段階で自分の中にできているんですか?

田邊 基本的にはありますね。でも、僕は好きなギターの音をイメージして曲を作っていくスタイルなので、いつもディーゼルだったんです。ただ、ここ1年はずっとヒュース&ケトナーを使っていて。僕らがELLEGARDENにハマった頃って、細美(武士)さんも生形(真一)さんもケトナーだったんですよね。あの頃、そのシーンのバンドはみんなケトナーで。

江口 RADWIMPSも使ってたしね(笑)。

田邊 あの青い光にみんな憧れてたんですよ。今メインで使ってるのはディーゼルではあるんですが、一周回ってケトナーの音がまた好きになって、去年のホールの時くらいからメインのヘッドを変えてみたんです。それで、“今一番好きな音はケトナーなのかな”と思って、今作もまずはそれで作ってみたんですよ。どんな曲であれ、シンラインでもジャズマスターでも、一度ケトナーで鳴らしてみて(笑)。それが意外とそんなに逸脱する音じゃなかったんです。これまでの方程式にないところから作り始めることで、意外性のある音が出たりするので、それが楽しくて。「棘」もジャズマスターとケトナーで粒の立つ音になりましたし、そういう科学反応があったからこそ、今作はおもしろい取り組みができたと思いますね。

田邊のギターは
“歌みたいだな”って思いますね。(江口)

これまでのセルフ・プロデュースというスタイルから、玉井さんをプロデューサーに迎えてみて、ギター的に変わったことはありましたか?

江口 玉井さんとは「バッドパラドックス」、「ポラリス」、「ユメミグサ」の3曲を一緒にやらせていただいて、そこですごく勉強になったのは、歌メロに対するフレーズの当て方で。前までは、自分の中で“このリフでいきたい”っていうのがあったら、例えば、途中の経過音で1音くらいちょっと気持ち悪いところとかあっても、“行くっしょ!”みたいなところがあったんですよ(笑)。当然“その考えは、どうなんだ?”っていうことも自分ではわかってたんですけどね。でも、ちゃんと歌メロやコード感を考えた選択肢も増えたことによって、“少しディスコードになる部分があるけど、その感じもカッコ良いからあえてズラそう”っていう考え方ができるようになったんです。

田邊 玉井さんという方は、細かなニュアンスをすごく大事にされる方で、ブルエンは正直そことは無縁だったんですよね。これまでずっと、歪みバキーンと2~3本足して、“行くっしょ!”っていう(笑)。

江口 ふたりとも勢い(笑)。

田邊 楽曲のコード進行も、玉井さんから白紙の譜面を渡されて“これに今のコードを書いて”って渡したら、そのコードの間にいろいろなコードを入れてくれて。今まで出会わなかったコード進行に出会えたんです。「バッドパラドックス」も「ユメミグサ」もそうですし、「ポラリス」も、いつもどおりのコード進行の中に、“裏切り”がプラスされることによって、歌が活きるということを教えていただきました。そういう意味で、プロデューサーさん目線でのアプローチを学んだからこそ、歌い方も変わりましたね。あとは、“前ノリ”、“うしろノリ”っていう部分も自分の中ではこだわるようになりましたね。

ノリという部分だと、「バッドパラドックス」は16分のダンサブルな楽曲ですが、田邊さんのバッキングのキレが、グルーヴ感の基盤になっていると感じるんです。単音カッティングをグルーヴィに鳴らすコツはありますか?

田邊 “大きくやってみよう”とか“うしろノリでやってみよう”みたいに意図して弾くと、ベース&ドラムとのグルーヴに相違が生まれて“あ、間違えた”ってなる時がよくあったんです。それで、今回のアルバムをとおして歌いながら弾いてみたらすごく良くて。自分の手グセというか歌グセみたいなリズムをそのまま出すと、そこに対してみんなが全力でアプローチしてくれるので、一体感が増したんです。ギターと歌が同時進行というより、“歌があって、そこにアプローチしている”という解釈でやったほうがグルーヴするんですよね。

江口さんから見た田邊さんってどういうギタリストだと思いますか?

江口 “歌みたいだな”って思いますね。すべてがメロディになっているギターが好きで、歌を作る人間としてギターも歌っていたいんだと感じます。“リード・ギターは自分が歌っているメロディとは別のベクトルで歌っていてほしい”っていうことを田邊は昔から言っていて。そういうところを田邊のギターからも感じるし、田邊が弾いているリフにもその歌のメロディ感みたいなのがあるんですよね。

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