QUBITのギタリスト、永井聖一が語る、1stアルバム『9BIT』で魅せたサウンド・メイクの技 QUBITのギタリスト、永井聖一が語る、1stアルバム『9BIT』で魅せたサウンド・メイクの技

QUBITのギタリスト、永井聖一が語る、1stアルバム『9BIT』で魅せたサウンド・メイクの技

永井聖一(g)、Daoko(vo)、大井一彌(d)、網守将平(k)、鈴木正人(b)の5人からなる新プロジェクト、QUBIT(キュービット)が2023年4月に始動した。Daokoのサポート・メンバーから派生した彼らが、“バンド”として生み出したデビュー作が『9BIT』だ。そのギター・サウンド、プレイはどのようにして生まれたのか、発起人でもあるギタリストの永井に詳しく話を聞かせてもらった。

取材/文=伊藤雅景

バンド・メンバーには、僕のわがままで声をかけたんです

QUBIT
QUBIT。左から永井聖一(g)、大井一彌(d)、Daoko(vo)、網守将平(k)、鈴木正人(b)。

QUBIT結成のいきさつから聞かせて下さい。

 このメンバーでDaokoのサポート・バンドを3年くらいやっていたんですけど、その形だとツアー行程に合わせて毎回楽曲の解体作業と組み立て作業をやらなきゃいけないじゃないですか。それに、シチュエーションやコンセプトに合わせて違う曲を詰めていくことも多いので、バンドとしての経験を積むのが難しかったんですよね。

 その環境だと、このバンド・メンバーのポテンシャルがもったいないなと思い始めてしまって。だったら、バンドとして曲を作ってパフォーマンスをしたほうが、面白いものになるんじゃないかなと思ったので、僕のわがままで声をかけたんです(笑)。

楽曲はいつ頃から作り始めましたか?

 このバンドを始めることが決まって、名刺代わりの曲を網守(将平)君が作るという話になったのですが、それが「G.A.D.」で。おそらく2023年の春先だったと思います。まずそれをシングルで出して、そのあとに2曲目の「Fast Life」を作りました。そこで、今回のフル・アルバム『9BIT』をちゃんと作らなきゃという話になったんです。そこから急ピッチで制作していきましたね。

今作の制作では、どういったギター・プレイを軸にしようと考えていましたか?

 基本的にはサポート時代からの経験で“このメンバーでどんなギターを弾いたらいいか”っていうのは頭の中になんとなくありましたね。Daokoのソロで演奏する曲はオケが打ち込みのものが多いんですが、それを毎回バンド・セット用に網守君がアレンジし直していたんですよ。その時に網守君から、シンセのフレーズをギターに置き換えるアイディアなどを色々アドバイスしてもらっていて。その経験を活かすようにしていますね。

永井聖一

網守さんがバンド・サウンドの全体像を作ることが多かったんですね。

 そうなんです。彼が音楽的なバンマスですね。作曲はメンバー全員が担当するんですけど、デモにトラックやシーケンスを色々足してくれたり、ガラッと構成を変えてきてくれたりもするので、そこが面白いですね。一回網守君のフィルターとおすことで、バンドの楽曲に統一感を持たせようとも考えています。

 ギターのメイン・フレーズに関しても、僕が考えそうなフレーズをデモに入れてくれたりしているので、そこから何も変える必要がないみたいなことがよくあるんですよ(笑)。彼はメンバーをよく見ていますね。

メイン・リフで言うと、リード曲の「Mr. Sonic」のギターは強烈なインパクトでした。

 あれ、網守君が考えたんですよ(笑)。

そうだったんですね! オクターブを重ねた音色も印象的でした。

 ハモりは重ねているかもしれませんが、あれはオクターブではなく単音で録ってますね。ステレオでコーラスを鳴らしているので、そういう風に感じるんだと思います。僕はディレイなども音源ではなるべくステレオで作りたいので、網守君が送ってくれるトラックに対して、まず自分の定位を決めてしまうんですよ。

ステレオ感が重要なんですね。

 そうですね。人によっては広がりすぎてて嫌がられたりもするんですけど(笑)。でも、自分が所属しているバンドに関しては大丈夫です。Quad Cortex(ギター・プロセッサー)を使うようになってから、とてもいい感じらしいので。

Quad Cortexのモデリングは無限に組み合わせがあるので、どんどん使いこなしていきたい

永井聖一

いつからQuad Cortexを導入したんですか?

 2023年の4月くらいですね。「G.A.D.」のレコーディングには間に合ったんですけど、まだ音作りのコツを掴む前だったので、「G.A.D.」だけは実機のアンプで録りました。

導入して、どんなメリットがありましたか?

 納得いく音色を自宅で作り込めるっていうのが一番大きかったですね。もちろん、スタジオでアンプを鳴らしてモニターをすることも大事なんですけど、アンプから先のEQなどはエンジニアさんに委ねる次元の話なので、いまいち自分のなかで手応えというか、掴みどころがなかったんですよね。まあ、Quad CortexでEQを処理した音もエンジニアさんが整頓してくれているとは思うんですけど。

ギター・サウンドのEQは、どういう傾向のセッティングになることが多かったですか?

 ボワっとしているローの部分をカットしちゃうことが多かったですね。下の帯域はシーケンスやシンセで渋滞しているので、逆にギターは上に逃すというか。

 あとは、弾く弦の数で帯域をコントロールする場合もあります。例えばパワー・コードだったら、ルートを弾くと渋滞してるな……みたいな感覚になることも多いので、5度だけを鳴らすようにしたり。

確かに、ギターはロー感がバッサリ切り落とされていますね。

 そうなんです。ここ数年、打ち込みの音色とギターの共存っていう部分はけっこう意識しているので、そのあたりは日々勉強中ですね。逆に、生楽器だけのバンドでは、自分が持っているビンテージの楽器やアンプの実機を使って、ふくよかな中音域や生鳴り感を大事にしています。

 でも、QUBITでは“たくさんあるトラックの中で、どの位置にギターを置けば曲のグラデーションが綺麗になるか”っていうのを考えていますね。ただ、自分のシグネチャー・サウンドでもあるニューウェイブ感は残したいので、ギリギリほかの楽器とぶつからないところを頑張って選んでいます。

ライブでのギターの聴きどころは?

 ギターはめっちゃステレオ感があるので、かなり聴きやすいと思いますよ。あとは、“外音が良くなった”って言われるのを目標にしているので、バンド全体の音のバランスが良かったって思ってもらえたら嬉しいですね。

ギターのステレオ感も注目ですね。

 そうですね。まだディレイや空間系は勉強中ですが、アンプのシミュレート感はとても満足しています。あそこまでクオリティが高いと、素人目に聴いたらもはや実機との差がわからないと思うんですよね。

今後突き詰めていきたいギターのサウンドは?

 やっぱり、Quad Cortexのモデリングは無限に組み合わせがあるので、どんどん使いこなしていきたいですね。それで作った未知のアイディアで、バンドのみんなと新しいのものを作っていきたいです。

作品データ

『9BIT』
QUBIT

日本コロムビア/COCB-54362/2023年11月22日リリース

―Track List―

  1. Big Mouth
  2. G.A.D.
  3. Mr. Sonic
  4. Wonder World
  5. Distance Dance
  6. Fast Life (Album mix)
  7. Room Tour Complex
  8. Neon Diver
  9. Beautiful Days

―Guitarist―

永井聖一