ルディ・ロイストン(d)とトーマス・モーガン(b)とのトリオ編成で、10月にBLUE NOTE TOKYOで6年ぶりの来日公演を行なったビル・フリゼール。今回のライブでビル・フリゼールが使用したペダルボードを、本人の解説と共にご紹介しよう。
取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モリー 機材撮影=星野俊
Bill Frisell’s Pedalboard

必要最低限まで厳選したペダルたち
【Pedal List】
①TC Electronic / PolyTune Mini(チューナー)
②JAM Pedals / Rattler(ディストーション)
③Line 6 / DL4 MkⅡ(ディレイ)
④MXR / Carbon Copy Mini(ディレイ)
⑤strymon / FLINT V1(リバーブ/トレモロ)
⑥strymon / Ojai(パワー・サプライ)
最近はペダルのラインナップが固まってきたビル・フリゼールの足下。ツアーでの移動を考え、必要最低限のペダルのみがセットされている。ギターからの接続順は①〜⑤の番号どおり。
基本のサウンドはアンプのクリーン〜クランチ・サウンドで、歪ませる際は②Rattlerを踏む。オンにしてもそこまで歪んでいるわけではなく、サステインを伸ばしたい時に使用しているのではと思われる。ビルは90年代にProCo RATⅡを愛用しており、“これは古いRATと同じ感じではないけど、本当に微々たる違いだよ”とコメント。
③DL4 MkⅡは、おもにLOOPER機能とREVERSEモードを使用。フレーズをループさせ、その上で演奏することもあれば、ループさせたフレーズをREVERSEディレイで逆再生させるということも行なっているとのこと。本人曰く、“すごく使いやすいんだ。もっと小さくて、同じように使えるルーパーだけのモデルがあればいいなと思うくらいだよ”。
④Carbon Copy Miniは最近導入された1台。MODスイッチをオンにし、ゆっくりしたフレーズでスペイシーなサウンドにしたい時に薄くオンにしているという。
⑤FLINT V1は長らく愛用しており、“スプリング・リバーブとトレモロの組み合わせは古いアンプみたいで、とても気に入っている”とのこと。リバーブもトレモロも3つのモードを使い分けているようで、撮影時はリバーブが80年代のホール・リバーブを再現した’80sに、トレモロはハーモニック・トレモロの’61 harmになっていた。本機のリバーブは常時オンで使用。
Interview
次に君たちと会う時には
これをプレイしているかもしれないな。
ペダルボードの中身は少しずつアップデートされているみたいですね。一時期よりもペダルの数が少なくなっていますが、ツアーの移動を考慮してスリム化したのでしょうか?
そうだね。今でも“あれをボードに入れたいな”と思うことはあるけど、歳を取るにつれてペダルをどんどん減らそうと思っているんだ。DL4(③)はルーパー用で、リバーブみたいな感じでも使っているけど、最近は全部のエフェクトをオフにすることもある。そうすると、“なんか新しいぞ。「何もエフェクトを使わない」というエフェクトを使っているようだ”という感覚になるんだよね。そんな感じでペダルから離れようとはしているんだけど、何か気になるものが出てくると、“これも試さなきゃ”って思うんだ。
みんなそうだと思います(笑)。最近、Carbon Copy Mini(④)が追加されたようですね。
これは少しサステインを伸ばしたい時に使うくらいだね。かなり薄っすらとしかかけないけど、ゆっくりしたフレーズでスペイシーなサウンドにしたい時にオンにしている。モジュレーション・ボタンがあって、オンにするとテープ・エコーみたいになるんだ。本当にちょっとした使い方だけど、グッドなサウンドがするんだよね。多くのことはできない……いや、もっと多くの使い方もできるけど、僕がそうしていないだけなんだろう(笑)。でも、僕の目的のためには十分なんだ。

昔、Electro-Harmonixの16 Seconds Delayを使っていましたよね。ネルス・クラインはあなたの影響で現在も16 Seconds Delayを大事に使い続けています。今も所有していますか?
時々使っていたけど壊れてしまってね。そのあと再び入手したにもかかわらず、しばらく遠ざかっていたこともあって、使わなくなってしまったよ。でも最近、16 Seconds Delayのコピー・モデルを手に入れたんだ。まさに日本に来る直前に届いて、まだ試せていないんだけどね。ウルグアイ製のペダルなんだけど、あまりにもソックリで信じられなかったよ。名前を忘れちゃったけど、完全なコピーだけど小さめに作られていて……。
MANECO LABSのSixteen seconds delay reissueですか?
それだ! 見た目はまったく同じなんだけど、箱から出した時に“何だこれは!?”って思ったよ。オリジナルはけっこうな大きさだったのに、かなり小さいんだ。でも、オリジナルでやれていた変なことが全部できるらしいね。だから次に君たちと会う時にはこれをプレイしているかもしれないな。16 Seconds Delayって、ギター用の機材というよりは別の楽器みたいなものだよね。
そんな感じですよね(笑)。現在、エフェクトを使ったソロでの即興やサウンド・コラージュに対する興味はありますか?
うん、あるよ。でも僕が“やりたいな”と日々強く思うことは、アコースティック・ギター1本だけで演奏することなんだ。ここ数年、小さな部屋でペダルも何も使わずにプレイするコンサートをいくつか行なっている。それが僕の夢でもあるんだよ。50年かかってやっと、“よし、怖がらずに演奏できるはずだ”と試せるようになったんだ。ペダルは時に安全網みたいなものになる。怖くなると“これを踏もう”と、何かを隠すみたいになるんだ(笑)。
以前、歪みはBig Muff系なども入っていた時期がありましたが、現在はRAT系のRattler(②)がレギュラーとして定着しています。キャリアを通じてRAT系が好みなんですか?
そうなんだろうね(笑)。古いRATは家にまだあって、昔はそれをよく使っていたんだ。最近使っているこのペダルは古いRATと同じ感じではないけど、本当に微々たる違いだよ。

DL4 MkⅡはルーパーとして使っているんですよね?
うん。昨夜のライブはルーパーだけを使ったよ。たまに逆再生とかも使うけど、基本的にはルーパーだけ。すごく使いやすいんだ。もっと小さくて、同じように使えるルーパーだけのモデルがあればいいなと思うくらいだよ。

例えば「Levees」ではリバース・ディレイを使用していますよね。
昨夜はその曲をプレイしていないけどね。ほかの何曲かでは、ループを逆再生するといった形でリバースを使っている。
FLINT(⑤)は長らく愛用している1台ですね。お気に入りのポイントは?
リバーブとトレモロの両方が入っているところかな。リバーブは3種類あって、そのうちの1つはアンプに内蔵されているスプリング・リバーブみたいな感じなんだ。トレモロもリバーブとの相性が良くて好きだね。昨夜はトレモロを1回しか使わなかったけど、すごく良いよ。スプリング・リバーブとトレモロの組み合わせは、古いアンプみたいでとても気に入っている。

今回のライブで使用している’65 Deluxe Reverbにもスプリング・リバーブとトレモロが内蔵されていますが、アンプでも代替できるのでしょうか?
もちろん。たぶん問題ないだろうね。
あなたは以前、“1台しかペダルを使ってはいけないと言われたらリバーブを選ぶ”と発言していました。様々な選択肢がある中、FLINTを使い続ける理由は?
うーん、たぶんビンテージっぽいからだね。あとはトレモロも入っているから。これってズルになるかな(笑)? でもペダルを全部取り除くとしたら、最後まで残るのはFLINTだと思うね。
FLINTには女性の顔のシールが貼られていますね。
ああ、それは僕の娘なんだ(笑)。

