【後編】鈴木迅(Laura day romance)が語る、『合歓る – bridges』での自由な楽曲制作と自身のギター観 【後編】鈴木迅(Laura day romance)が語る、『合歓る – bridges』での自由な楽曲制作と自身のギター観

【後編】鈴木迅(Laura day romance)が語る、『合歓る – bridges』での自由な楽曲制作と自身のギター観

2025年12月24日(水)にアルバム『合歓る – bridges』をリリースしたLaura day romance。本作は、2月に発表した『合歓る – walls』と連なる2部作の後編となる。すべての楽曲の制作を手がける鈴木迅(g)が、“やりたいことにストップをかけず全部詰め込んだ”と語るとおり、そのアレンジやサウンドはどこまでも自由で、特にギターに関しては不穏なノイズあり、メロディアスなアコギあり、壮大なサウンドスケープありという、正真正銘のギター・アルバムとなっている。インタビュー後編では、各楽曲のサウンドメイクやフレーズの作り方を教えてもらった。

取材・文=小林弘昂

鈴木迅

ほかの音がキレイであればあるほど
インパクトが出る。

「分かってる知ってる|yes, I know」は、左右のアコースティック・ギターのアルペジオがキレイですね。どのように作っていったんですか?

この曲は5/4拍子で、冒頭から出てくるリフは2年前くらいに作ったんですけど、当時の自分は5/4拍子のリフにメロディを当てることができなくて、ずっと放置していました(笑)。

そんなに前からあったんですか!

その時はギターを弾きながら全部のデモを録っていたので、自分はこのリフと一緒に歌えなかったんですよ。でも、今回からパソコンでDTMを扱えるようになって、リフをくり返し再生しながら鼻歌でメロディを付けることができたんですね。

ちなみに楽曲を作る時、メロディと歌詞のどちらが先行かは決まってますか?

例えば良いコード進行が浮かんだ時、それと一緒に何らかの歌詞を歌うようにしてるんですよ。どんなに何も思い浮かんでいなくても、目に映ったものの名前を言ってみたりして。そうやって適当に歌詞を入れていくと、メロディに合った言葉が必然的に残っていくので、自分の場合は基本的に同時なんですよね。

ギターの話に戻りますが、Laura day romanceの楽曲には左右で違ったアルペジオを弾いているものが多いですよね。1つのフレーズを考えている時に、もう1つのフレーズも思い浮かんでくるのでしょうか?

これに関しては、めっちゃ地道なんです。ひたすらギターを弾いて、それを全部録って、“これが一番良かったな”っていうフレーズを選んでいくんですよ。“絶対に良いぞ!”っていう1本目のフレーズができたら、もう1本は自分がピンとくるところまで作り続けるという。

2本の音の重なりなども気にしながら作ってるんですね。

そうなんです。1本目のフレーズに対して適当に合わせていくと、自分の予想していなかった響きが出てくるんですよ。それは濁りでもあるんですけどね。そういうギター特有の偶発的な響きをアレンジに取り込んでいこうと試行錯誤しています。

そういう時は同じコード・ポジションから探っていくんですか? それともコード・トーン・ハーモナイズで響きを変えてみたり、違うポジションで試すことも?

芯を食った質問ですね(笑)。でも本当に、“なんとなくでやっている”としか言いようがなくて。同じポジションから始めることはないですけど、“これくらいの音程の距離が欲しい”とか“ここでルートは鳴っていて欲しい”みたいなものはぼんやりとあって、それを手探りで当てていく感じです。

「プラトニック|platonic」からはジャズやソウルのエッセンスも感じられました。そういった音楽からの影響は?

オールド・ソウル的なムードを感じさせたいなとは思っていました。サウンドもアナログっぽいオルガンやエレピの音で作ろうとは考えていましたね。

普段からジャズやソウルは聴きますか?

ソウルはとても好きなんですけど、ジャズはまだ好きなアルバムが少なくて、あんまり詳しくないです。まだ手を出すのはやめておこうかなという感じなんですよね(笑)。

そうなんですね。でも、この曲のコード進行からはジャズの雰囲気も感じました。

たしかにバッキング・パターンはボサノヴァっぽかったりして、いろいろ混ざっている曲ですね。

迅さんがよく使うコードはありますか?

普通のCコードのような響きは、どこか嘘っぽくて好きではなくて(笑)。1つの音を固定して、それに対してほかの音を動かすのが昔から好きで、オン・コードが多いんですよ。知識や音感もあんまりないので具体的な名前で言えるわけではないんですけど、“なんとかオンなんとか”みたいなコードをけっこう使ってると思いますね。

ルート音を動かしていくんですね。

そうです。ルート音だけが動くコードで曲を作ることが多いですね。最近は特に使うコードが複雑になっていますけど、複雑だと思われないようにはしています。

「プラトニック|platonic」の間奏にはコンソールで歪ませたようなサウンドが入っています。この音は迅さんがよく使っている印象でした。

図星です(笑)。コンソールの歪みはとても好きですね。プラグインのものを使うこともあるんですけど、昔からJHS PedalsのColour Boxというエフェクターを持っていて、レコーディングではよく使います。レディオヘッドの「Bodysnatchers」とか、そういうギターの音が好きなんですよ。ほかの音がキレイであればあるほど良いスパイスになるというかインパクトが出るので、この曲は特にギャップが生まれるかなと思いました。

この歪みが出てくると、一気にギターに耳が惹きつけられます。

聴いている人がビックリしますよね。ヒット・チャートにランクインする曲で出てくるはずのない音だと思うので、そういうのを入れていきたいです。

鈴木迅

どんどんメロディがコードの外に出ていって
ソロにコードをつけてたんです。

「ランニング・イン・ザ・ダーク|running in the dark」はニュー・オーダーやキュアーのようなベースラインが特徴的で、UKロックからの影響を感じました。

Aメロのコーラスがかかった単音フレーズはベースじゃなくてバリトン・ギターで作ったんですけど、たしかにキュアーのイメージがありましたね。これは“雨の中を走る”という曲なので、湿度感みたいものが欲しかったんですよ。あとづけではありますけど、イギリスの湿度の高さや曇っている感じを意識していました。そういう雰囲気を出すために、キュアーやジョイ・ディヴィジョンに寄っていったところはあるかもしれないですね。

この曲の間奏はすごく浮遊感のあるサウンドですよね。どうやって作ったんですか?

Line 6 DL4のREVERSEモードで作ったと思います。この部分、面白いですよね。

楽曲の湿度感からインスパイアされて出てきたサウンドですか?

そうですね。自分の中では、困ったらとりあえずこういうことをしてみるんです(笑)。フレーズだけで情景を作るのは難易度がすごく高いんですよ。情景の中にフレーズを溶かすという意味では、エフェクトを上手に使うことが大事な気がしています。

「肌と雨|skin and rain」ではギターがメロディをたくさん弾いていて、今作の中で最も聴きどころがある楽曲だと思いました。

たしかに……! キング・クルールがめっちゃ好きなんです。少しだけジャズをかじった若者が、それっぽくジャズをやる“フェイク・ジャズ”的な要素もあって。

なるほど!

すごく素敵だなと思っていて。「肌と雨|skin and rain」でやりたかったのは、そういうものだったんです。キング・クルールが出演した『Tiny Desk Concert』のイメージで作りたかったので、アルバムの中でトラック数を一番少なくして、楽器数も最小限にして各フレーズを聴き取りやすくしました。なので、珍しくギターのフレーズが鮮明に聴こえるんだと思います。

ベースもランニング・フレーズを弾いていて、少しだけジャズに寄せている印象がありました。

そうですよね。でも、その塩梅が難しいんですよ。どちらかというと、いろんなノイズを入れてダブっぽくしました。

SNS全盛のこの時代、アルバム・フォーマットに抱いている希望はありますか?

どの業界もそうだと思うんですけど、今の音楽業界は合理的になっていますよね。制作に予算をかけたらその分お金を稼がないといけないし、シングルを配信するんだったらわかりやすい曲にしなくてはいけない。でも、アルバムの中だと“こういう曲があってもいいよね”っていう価値観がまだ残っていて、そういう曲にこそ惹かれる人がたくさんいると思っています。音楽により深く入っていく時は、そういう曲を見出すことが大事じゃないですか? そういう“自分だけが好きな曲”の存在が、アルバムの中では非常に重要な要素になるんですよ。

そうですね。余白を残しておくというか、リスナーに委ねる部分もあっていいという。

アルバムを出すことは、様々なタイプの曲の居場所、そんな曲たちが好きな人の居場所を用意することだと思うんです。それがアルバムの持ってる大事な部分ですね。1つのアーティストでもいろんなことができるし、いろんな表現方法があることを提示するためにアルバムがあるのかなと思います。

最後に、迅さんが思う今作の一番の聴きどころを教えてください。

「後味悪いや|sour」のギター・ソロは、すごく良い感じに弾けたと思っています。決まったコード進行の上でソロを弾いていくという方法は非常に狭い範囲で泳がされている感じがあって、自分としては嫌なんですよ。この曲はギターで弾いたメロディがどんどんコードの外に出ていって、最後にソロにコードをつけたんですよね。ソロが楽曲を引っ張っているという意味では、かなり面白いことができたんじゃないかなと思います。サウンド感も含めてインパクトのあるものが最後にできたので、とても達成感がありました。

作品データ

『合歓る – bridges』
Laura day romance

ポニーキャニオン
PCCA-06451
2025年12月24日リリース

―Track List―

01. 何光年?|how far…?
02. ライター|lighter
03. 分かってる知ってる|yes, I know
04. プラトニック|platonic
05. ランニング・イン・ザ・ダーク|running in the dark
06. 肌と雨|skin and rain
07. 恋人へ|Koibitoe
08. making a bridge|橋を架ける
09. orange and white|白と橙
10. 後味悪いや|sour

―Guitarist―

鈴木迅