Hedigan’sやGliderでギタリストを務める栗田将治のソロ・プロジェクト“Merchant”が、2026年4月8日(水)に2ndアルバム『STARBERRY DAYS』をリリースした。MTRを用いた多重録音で、ほぼすべての楽器を自身で演奏した本作。制作のテーマとしてリテイクを行なわなかったため、偶然の産物をそのまま楽曲に落とし込む独自の遊び心に満ちた作品となっている。ギター・マガジン初登場となる栗田に、彼の現在を形作る音楽的背景や楽曲制作について語ってもらった。
取材・文=森部真衣 ライブ撮影=Tatsuo Suzuki

中学生くらいの時から
MTRを使って多重録音をするのが趣味だった。
栗田さんはギター・マガジン初登場となるので、ギターを始めたキッカケから教えてください。
父親が若い頃に趣味でギターを弾いていたので、ギターが家にあったんです。僕が中学1年生の時にクイーン+ポール・ロジャースのライブがさいたまスーパーアリーナで開催されたんですよ。本当は父親が友人と一緒に観に行くはずだったんですけど、その人が行けなくなっちゃったらしくて、代わりに僕が行くことになったんですね。ライブの前に少しはクイーンのことを知っておきたいと思って、CDを買ったり、家にあった音源を聴いているうちに好きになって、実際にライブを観に行ったらそこで一気にハマっちゃったという。
いいですね(笑)。
しかもライブが始まった瞬間、普段騒ぐことのない父親が“うぉー!”って野太い声を上げていきなり叫んでいて(笑)。その帰り道、父親に“ブライアン・メイくらいギターが弾けるようになったらどのくらいすごいの?”って聞いたんですよ。そうしたら“世界一上手い”って言うから、“じゃあギターを練習しよう、世界一上手くなろう”と思ったのを今でも覚えてます。
栗田さんのプレイ・スタイルや、楽曲を作るうえでのルーツになっている人は誰ですか?
楽曲を作るうえで一番影響を受けた存在は、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンです。『Pet Sounds』(1966年)を最初に聴いた時、自分の肌に合ったのかすごく感動しちゃって、ギターを始めて曲作りするようになった頃からずっと大好きです。今でも普段から一番よく聴いているのはビーチ・ボーイズですね。
ギタリストはいろいろ好きな人がいるけど、ミック・ロンソンが好きです。激しさもあり、メロディアスでもあり、楽曲全体に貢献するフレーズを弾いていて、革新的でありながらちゃんとロックンロール・マナーに則っている感じが好きなんですよ。あとはレス・ポールも好きですね。多重録音の親でもあるし、宅録の親でもあって、発明家みたいな人だと思います。
最近気になっているアーティストはいますか?
今パッと思いつく若い世代のバンドでは、ザ・レモン・ツイッグスが大好きですね。古くからのロックに影響されたポップでストレートな曲も、変わった曲も作るし、作品リリースのペースも速いので新作を追うのが楽しいです。たぶんルーツや好きな音楽も自分と近いんだと思っています。
栗田さんはHedigan’sやGliderでも活動していますが、なぜソロ・プロジェクトを始めようと思ったのでしょう?
中学生くらいの時からMTRを使って多重録音をするのが趣味だったんですよ。その頃から遊びでバンドも組んでいて、ビートルズとかローリング・ストーンズみたいなオールド・ロックのカバーを中心にやっていたんですけど、自分のライフワークの1つとして、バンドとは関係ない曲を家で作っていたんです。なのでバンドとは別に、気軽に作った曲をさらっと発信する機会があればいいなと昔から思っていたんですね。それでコロナ禍でライブ活動がなくなった時に1人で宅録に集中した時期があって、その流れでリリースしたのが1stアルバムの『Dolphin Sane』(2024年)です。
ソロとバンドで、楽曲制作の違いはありますか?
地元の埼玉県本庄市に1977年から続く“Studio Dig”っていうレコーディング・スタジオがあって、縁あって僕と兄貴(栗田祐輔)で引き継いだんですよ。それまでのGliderのアルバムは外部のスタジオでレコーディングしていたんですけど、Studio Digを引き継いでからはそこで制作するようになって、贅沢な話ですけどMerchantでもMTRを持ち込んでスタジオで宅録してるんですよね(笑)。だからバンドとソロの境目がなくなってきました。
レコーディング環境は同じなんですね。
ただ、バンドはメンバーが集まって一緒に音を出すのが一番の醍醐味だと思うんです。今回のアルバムでは兄の祐輔が歌詞を書いて、1曲だけシンセを弾いてもらっているんですけど、それ以外は全部1人で作っているので、そこが決定的な違いですね。
今回のアルバムは
ガッツのあるロックにしようと決めていました。
アルバムの話を聞かせてください。「MG9」はハードロックのようなヘヴィなリフで始まりますが、どんなイメージで制作しましたか?
ティーンエイジ・ファンクラブの『The King』(1991年)に「Heavy Metal 6」っていうガチャガチャしたローファイなインストの曲が入ってるんですけど、一見ナードっぽくもある普通のお兄さんたちがリハスタで爆音でセッションして遊んでるだけみたいなサウンドが面白いと思ったんです。それに影響されて遊び心のあるインストの曲を作ろうと思って、「MG9」を1曲目に持ってきました。
この曲に限らずなんですけど、今回のアルバムは最初からガッツのあるロックにしようと決めていましたね。1stアルバムはフォークに近いような内向きなサウンドだったんですよ。その頃のライブはアコギで弾き語りすることが多かったんですけど、今は良い仲間と出会ってトリオのバンド編成でライブをやっていて。そしたらやっぱり、バンドってそれぞれの個性が混ざりあって良いなと思ったんですよね。
チャイムのような高い金属音が聴こえますが、ヘヴィなサウンドの中にこういった音を取り入れるのは珍しいですよね。
これはコードを無視しておもちゃみたいな鉄琴を叩いているんです。ストゥージズの1stアルバム(『The Stooges』/1969年)でも同じようにドローンみたいなことをやっている曲があって、そのイメージでした。今回のアルバムでは、“間違えてもなるべく1テイクで終わらせること”を1つのコンセプトにしていたので、よく聴くとミスって違う音も叩いています(笑)。
曲の最後の音のリリース部分はシュワシュワとしたエフェクトがかけられていますが、この音は何で作りましたか?
KORGのおもちゃみたいなシンセサイザーでノイズを出しています。僕は機械音痴なのでそのシンセサイザーを上手く扱えなくて、ちょうどその時近くにいた兄貴に弾いてもらいました。録音中に兄貴に初めて曲を聴かせて、その場で“ウィーン”っていうノイズを出してもらったんです。兄貴はどこで曲が終わるかも把握していなかったので、曲が終わってからもしばらく鳴らしてるんですよね(笑)。普通だったらそれを切ったりフェードアウトさせたりするんでしょうけど、今回はそのままにしています。
「ANTIHERO」では、エレキ・ギターのソロの裏でアコギのアルペジオを弾いてますよね。これは最初から考えていたアレンジでしょうか?
ダイナソーJr.の『Green Mind』(1991年)はノイジィなエレキ・ギターが大きく聴こえるけど、その裏でアコギがキレイに鳴っていて、個人的にはフォークっぽい香りのするアルバムでもあるなと思ったんです。「ANTIHERO」はそのイメージで作りました。『Green Mind』はバンドが分解状態でJ・マスキス(vo,g)がドラムを叩いたりしていて、その情報を知って逆に興味がわいて好きになったんですよね。
「TUESDAY」のサビは変則的なノリが良いフックになっていますね。
自分の曲作りのクセかもしれないですけど、メロディがあっちこっち行ったり、リズムも前のめって入ったり、入らなかったりするのが好きなんですよね。ポップなんだけどちょっと変なところもあるというか。そういう曲作りのひねりは、XTC から影響を受けているかもしれないです。
普段の楽曲制作はギターで行なっているんですか?
今回のアルバムは全部ギターです。でもHedigan’sやGliderでは鍵盤で作ることも多いですね。鍵盤は素人なので間違って弾いちゃっても、“あ、この響き良いな”ってそのまま使ったりするんです。ギターで作曲をすると、なんとなく“どこを押さえるとどんな音が出る”っていうのがわかっちゃうので、自分の頭にはない発想で曲を作りたい時は鍵盤を使うことが多いですね。自分の中にあるイメージをストレートに持っていこうと思ったらギターを使います。

“これ1日で録ってるよね?”みたいな
アルバムが好きなんです。
「HAIR SALON」のハーモニカやアコギのフレーズには、カントリーっぽい要素を感じました。
「HAIR SALON」はニール・ヤングを意識しました。ビグスビーを揺らしたり、ハーモニカを首からぶら下げて吹きながらギター・ソロも弾いちゃうのがかっこいいなと思いますね。
「ZIGZAG LOVE」の中盤のフレーズではスライドを使用していますが、どういった効果を狙ったのでしょうか?
デヴィッド・ボウイの『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』(1972年)に入ってる「Hang On To Yourself」のフレーズのオマージュなんですよね。録音時に兄貴が提案してきたアイディアだったんですが、隠し味で入れたいなと思って入れました。
「CAREMONIA」はギターのリバーブがザラついていて、独特の空気感が出ていますね。
今回のアルバムは録った音を最終的に全部MTRに移して自分でミックスしたんですけど、リバーブはアンプ内蔵のリバーブと、そのMTRに入っているエフェクトも使ってます。基本的にはレス・ポールからマーシャル・アンプに直でつないで録った曲が多かったんですけどね。
「CAREMONIA」ではスタジオのエンジニア(伊藤広起)が持っているビンテージのフランジャーを借りてつないで弾いたので、その質感もすごく出ているかなと思います。
今作にはエレキ・ギター2本にコード弾きのアコギを加えている楽曲が多いですが、理由はありますか?
ティーンエイジ・ファンクラブの『Bandwagonesque』(1991年)みたいなサウンドのイメージが頭にあったんです。曲によっていろんな楽器を使い分けて幅広い音を出すよりも、一貫した同じような音でアルバムを作りたかったんですよね。“これ1日で録ってるよね?”みたいな印象のアルバムが好きなんです。なので、弾き語りの曲以外は基本エレキ・ギター2本とアコギ1本っていう編成にしました。
B級の面白さに気づいて
反応してくれる人がいたらいいな。
栗田さんはレス・ポールを弾いている印象が強いですが、今作のレコーディングで使用した機材を教えてください。
今回のアルバムはほぼレス・ポール・スタンダードでレコーディングしていて、「STARBERRY DAYS」みたいな曲でジャキジャキした音を出したい時とか、スピード感のある曲ではレス・ポール・ジュニアも使っています。
今回メインのアンプはマーシャルのJCM900とJCM800ですね。アンプの音量を上げて歪みを作ってギターを直接つないだり、曲によってはBOSSのFZ-5(ファズ)を踏んだりもしました。ちなみに、Hedigan’sのライブで持ち回っているアンプはRolandのJC-60で、今回のアルバムでも何曲か使いました。
JC-120じゃないんですね。
JC-60は貰い物なんです。ライブのリハーサルの時、会場に置いてあったJC-120と自分のJC-60を弾き比べてみたらJC-60のほうが好きな音だったんですよね。もともとJCの音も好きだし、JC-60はコンパクトだしなんとか持ち運べて丈夫なので、ライブでは気に入って使っています。いつも安定して自分の好きな音を出したいんですよ。
最後に、栗田さんが思う今作の一番の魅力とは?
Merchantのテーマでもあるんですけど、B級の面白さに気づいて反応してくれる人がいたらいいなとは思います。“普通、これはもう1回歌い直すでしょ?”みたいなテイクが入ってる曲もあると思うし、作り込みすぎないラフな感じというか、そういう“勢いで作ったような音楽”が僕もリスナーとして好きなので、同じようにそういうものを楽しんでくれる人が少しでもいたら嬉しいですね。
Kurita’s Guitars
栗田のメインは、ギターを始めた頃に祖父から譲り受けたレス・ポール・スタンダード。ニール・ヤングやレス・ポールの影響で、20歳くらいの時にVibramateを使用してビグスビーB7を取り付けたそうだ。
ジャキジャキしたサウンドを出したい時に使用するのは、御茶ノ水の楽器店で購入した2018年製のレス・ポール・ジュニア。もとのカラーは黒っぽいサンバーストだったが、トップのみブラウン・カラーにリフィニッシュ。本器のビグスビーB7はボディに穴を開けて取り付けたという。
ピックアップを頻繁に切り替え、ギター側のボリューム/トーン・ノブで細かく歪み具合をコントロールすることが多いとのこと。Hedigan’sではRoland JC-60を使用しているため、BOSSのBD-2(オーバードライブ)で基本の歪みを作り、ソロなどでブーストさせる時はFZ-5(ファズ)をオンにする。最近のライブではFZ-5の代わりにElectro-HarmonixのLittle Big Muff Pi(ファズ)を使用することもあるそうだ。
弦はErnie BallのRegular Slinky #2221(.010〜.046)。ピックはJim DunlopのTortex Triangle 0.73mmを使用している。
作品データ

『STARBERRY DAYS』
Merchant
KEYAKI RECORDS | IDL
KYK0005
2026年4月8日リリース
―Track List―
01. MG9
02. ANTIHERO
03. TUESDAY
04. PIANO
05. HAIR SALON
06. ZIGZAG LOVE
07. SHORT SLIP
08. CEREMONIA
09. STARBERRY DAYS
Merchant 2nd Album 『STARBERRY DAYS』リリース記念
“Merch and Destroy”
【東京公演】
<日時>
2026年5月22日(金)Shimokitazawa THREE
Open 19:00 / Start 19:30
<出演>
Merchant (BAND SET):栗田将治 (vo,g)、 井上真也 (b)、 大塚薫平 (d)
<チケット>
・前売り券……3,000円(+1drink)
・当日券……3,500円(+1drink)
・学生料金……2,000円(+1drink) ※学生証を提示
■チケット購入
https://livepocket.jp/e/y9phk
【埼玉公演】
<日時>
2026年5月29日(金)埼玉熊谷モルタルレコード
Open 19:00 / Start 19:30
<出演>
Merchant (BAND SET) :栗田将治 (vo,g)、井上真也(b)、大塚薫平(d)
<チケット>
・前売り券……3,000円(+1drink)
・学生料金……2,000円(+1drink) ※学生証を提示
■チケット購入
https://mortar-record.com
※お名前・公演日・希望枚数・連絡先を明記のうえ、お申し込みください。
<お問い合わせ>
keyakirecords@gmail.com

