『80年代シティ・ポップの名盤40』の第3回。今回は角松敏生と彼がプロデュースした杏里の作品に加え、彩恵津子、秋元薫、中原めいこ、桐ヶ谷仁のアルバムを紹介します。参加したギタリストたちの名前も要チェック!
文・選盤=西山隆行 協力=ガモウユウイチ
角松敏生
『ON THE CITY SHORE』
●リリース:1983年
●ギタリスト:角松敏生、土方隆行、太田恒彦、青山徹、今剛
青空を駆け抜ける爽快さ
事務所移籍後の初作品で、自身で全曲の作詞作曲、アレンジ/プロデュースをした作品。夏や海をイメージさせるリゾート・ミュージックのサウンドが心地良い。本作から角松サウンドに欠かせない存在となった青木智仁(b)が参加。その青木のグルーヴ上で今剛が弾く「DREAMIN’ WALKIN’」のソロは、伸びやかで青空を駆け抜けるような爽快感。
角松敏生
『AFTER 5 CLASH』
●リリース:1984年
●ギタリスト:角松敏生、土方隆行、太田恒彦、青山徹
カッティングの凄みを体感
ダンサブルなプログラミング・ビートを土台にパワフルなベースと華やかなシンセが響き渡り、キレのよいカッティング・ギターが楽曲のスピード感を巧みに演出。1曲目から待ったなしで角松ワールドへグイグイと引き込まれる快感。ノンストップで夜の高速道路を駆け抜けるような、スリリングなグルーヴは流石の完成度。
角松敏生
『GOLD DIGGER〜with true love〜』
●リリース:1985年
●ギタリスト:角松敏生、土方隆行、太田恒彦、北島健二、今剛
大人のミッド・ナイト・タイム
当時NYで最先端だったスクラッチなどを用いて、ブラコンやニュージャック・スウィング的な要素を取り入れた5thアルバム。都会の夜を過ごす大人の雰囲気をイメージさせるサウンド・メイクのセンスが超クールだ。「Springin’ Night」、「Tokyo Tower」など歌に寄り添うカッティングは渋く、「It’s Too Late」の今剛の鋭いソロに心打たれる。
角松敏生
『SEA IS A LADY』
●リリース:1987年
●ギタリスト:角松敏生、土方隆行、幾見雅博
メロディアスな音のしぶき
自身初となるギター・インスト・アルバム。リゾート・サウンド全開でメロディもカッティングも全てにおいて“角松サウンド”を堪能できる。「MIDSUMMER DRIVIN’ “REIKO”」後半では、速いパッセージの駆け上りや攻めた速弾きなどが登場するなど、聴きどころは多し。「LOVIN’ YOU“SAWAKO”」のエレアコによるブルージィなフレーズも魅力的。
杏里
『Heaven Beach』
●リリース:1982年
●ギタリスト:松原正樹、今剛、青山徹、矢島賢、安田裕美、笛吹利明
ギターが全面的に響き渡る名作
前作から大きく方向を転換、夏や海をメイン・テーマにしたシティ・ポップへの挑戦が見事に成功した1枚。のちに大きな功績を一緒に残していく角松敏生ともこの作品からタッグを組み、角松が楽曲を提供している。全曲でセンス溢れるギター・サウンドが鳴り響いており、一流スタジオマンたちのハイレベルな腕前を堪能できる。特に今剛のリードやカッティングが絶品。
杏里
『Timely!!』
●リリース:1983年
●ギタリスト:角松敏生、松原正樹、土方隆行、松木恒秀
角松プロデュースの最高傑作!
杏里のボーカルと角松プロデュースの相性は誰もが認めるベスト・コンビネーション。真夏を表現した明るくエネルギッシュなサウンドを軸に、美しいメロディ・ラインが印象的だ。「CAT’S EYE」や「WINDY SUMMER」で聴ける角松のカッティングや、松原正樹のスピード感あふれる駆け抜けるソロは流石の安定感。夏全開のシティ・ポップ大名盤。
彩恵津子
『PASSIŌ』
●リリース:1986年
●ギタリスト:鳥山雄司、吉川忠英
デジタルとアナログの融合
彩の透明感があり伸びやかなハイトーン・ボイスを鳥山雄司が全面サウンド・プロデュース。高度な打ち込みサウンドを駆使し、デジタルとアナログのバランス感に個性が光る。ダンサブルな楽曲ではスパッと抜けるカッティングが炸裂し、「狼ガール」ではスリリングで伸びやかなソロが飛び出す。「とめて、パシオ」ではエフェクティブなソロがインパクト大だ。
秋元薫
『Cologne』
●リリース:1986年
●ギタリスト:鳥山雄司、吉川忠英
艶の世界観に惹かれる名盤
松任谷由実のバックで歌っていた秋元を武部聡志が見出し、武部や鳥山雄司などが全面でバックアップ。ソロ名義では唯一のアルバムとなるが、デジタルなサウンドもふんだんに使いつつ、秋元が書く妖艶な歌詞の世界観を見事に表現したアーバンなシティ・ポップ。「ナルシスト」の間奏では強烈な鳥山雄司のソロが炸裂、終わり際のアーミング・ダウンがクール!
中原めいこ
『ミ・ン・ト』
●リリース:1983年
●ギタリスト:松原正樹、椎名和夫
歌うように響くチョーキング
初夏のキラキラと輝く海を連想させる、伸びやかで透明感のある歌声。中原自身による歌詞のキュートな世界観が、軽快で明るいサウンドと見事にマッチした極上のシティ・ポップ作品。「眠り姫」の抜群のタイミングでフェード・インする後奏のソロ、「アナタの魔法にかかりそう・・・」間奏でのチョーキングが唸るソロなど、ギター的見せ場も多し。
桐ヶ谷仁
『Windy』
●リリース:1981年
●ギタリスト:松原正樹、吉川忠英、笛吹利明
松原正樹ファンも必聴な一枚
夏の終わりを感じさせるような哀愁をまとい、ビブラートを使わずストレートに伸びる歌声がとても個性的。男心の強さと弱さを歌う山上路夫の歌詞にもグッとくる。松原正樹が全面的にサウンド・プロデュースをしており、技巧派集団パラシュートのメンバーがバックのサウンドを固める。「夏がすぎて」、「ひとりだけのワルツ」では松原の泣きのソロがたまらない。
*本記事はギター・マガジン2021年6月号にも掲載しています。
『ギター・マガジン2021年6月号』
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