『ギタリストなら絶対に聴くべき名盤40』シリーズの第8弾は“スウィング・ジャズ”。戦前に確立された粋なスタイル、古き良き時代に思いを馳せましょう。その第1回目のテーマは「エディ・ラングとジャズ黎明期のギタリストたち」です。
文・選盤=久保木 靖
エディ・ラング
『Jazz Guitar Virtuoso』
●リリース:1977年(1927〜32年録音)
●ギタリスト:エディ・ラング、ロニー・ジョンソン、カール・クレス
ジャズ史上初の本格ギタリスト
主にソロやデュオといった小編成での演奏を収めたもので、クラシックの小品のような味わいの曲が並ぶ。力強く素早いパッセージを見せる「Pickin’ My Way」や、極上のメロディとバッキングでジョンソンを唸らせる「Blue Room」、ジャンゴもカバーした「A Little Love〜」など、すべてが至宝! 使用ギターはギブソンL-5だ。ジャズ・ギターはここから始まった!
エディ・ラング
『The Quintessential Eddie Lang 1925-1932』
●リリース:1998年(1925〜32年録音)
●ギタリスト:エディ・ラング、カール・クレス、ロニー・ジョンソン
時代を先取りした名演の数々
サイドマンとしての演奏を多く含んだコンピ盤。堂々としたシングル・ノートのソロと洒落たバッキングで圧倒的な存在を示す。ベース音やカウンター・ラインを絡めながらの「I’m Coming Virginia」は将来のギター像を指し示したマスターピースだ。ルイ・アームストロング(tp)やベッシー・スミス(vo)らとの共演を通してギターの地位向上にも寄与。
ディック・マクドノウ&ヒズ・オーケストラ
『1936-1937 In Chronological Order』
●リリース:2009年(1936〜37年録音)
●ギタリスト:ディック・マクドノウ、カール・クレス
早逝の名手が率いたビッグバンド
エディ・ラングに追いつけとばかりに1920年代後半に登場してきたマクドノウだが、ラング同様に34歳と短命であった。本作は生前に率いていたオーケストラ演奏を集めたもの。ボーカリストがいることもあってギターが全面に出ているとは言い難いが、「All Gods Chillun〜」や「Between The Devil〜」ではクレスとのトリッキーなツイン・ギターが楽しい。
V.A.
『Pioneers Of The Jazz Guitar』
●リリース:1977年(1928〜37年録音)
●ギタリスト: ディック・マクドノウ、ジョン・カリ、トニー・ガットゥーゾ、他
黎明期の小編成がてんこ盛り!
ジャズ黎明期のギタリストを収めたコンピ。カリ&ガットゥーゾといったマイナーなスタジオマンの演奏が聴けるのも嬉しい。「Chasing Buck」はソリッドなプレイが光るマクドノウの独奏だ。2曲収録されたニック・ルーカスは1920年代に人気を博したシンガー兼ギタリストで、ギブソン初のシグネチャー・モデルを手にしたレジェンドである。
ジョージ・ヴァン・エプス
『Once In Awhile』
●リリース:2014年(1946〜49年録音)
●ギタリスト:ジョージ・ヴァン・エプス
7弦パイオニアのビンテージ録音
当初は6弦ギターだったものの、低音側に1本(開放でA音)加えた7弦ギターで自らのスタイルを完成させたヴァン・エプス。このコンピはピアノ&テナー・サックスとの変則トリオが中心だが、だからこそ、メロディとコード、ベース・ラインを同時に奏でるという高度な技を存分に堪能できる。「Tea For Two」などは一般的なギター・トリオ編成。
ジョージ・ヴァン・エプス
『Mellow Guitar』
●リリース:1956年
●ギタリスト:ジョージ・ヴァン・エプス
芸術の粋に達したリッチな響き
アルバム単位での制作はこれが1st。ここではグレッチの7弦エレクトリックを手にしている。ベース・ラインやカウンター・ラインを取り入れたハーモニー・プレイは輝きを増し、特にドラムとのデュオ「What Is This Thing〜」と「Let’s Do It」でのスリリングなボイシングは鳥肌モノだ。「I Never Knew」のスウィンギーなリズムもたまらない!
カール・クレス&ジョージ・バーンズ
『Two Guitars(And A Horn)』
●リリース:1992年(1962年録音)
●ギタリスト:カール・クレス、ジョージ・バーンズ
対照的な2人の妙技を堪能せよ
1930年前後から頭角を現わした“コード・ソロの達人”クレスと、 エレクトリック・ギターのパイオニアの1人であり、また“シングル・ノートの鬼”とでも言うべきバーンズによる62年のライブ。クレスの変則チューニング・ギターからくり出される、クリシェを使ったメロディアスな、そしてアップ・テンポでの唸るようなコード・ソロは比類ない。
V.A.
『Jazz Masters Of Acoustic Guitar And Some Bluesmen Too』
●リリース:2003年(1927〜51年録音)
●ギタリスト:バーナード・アディスン、アラン・リュース、オスカー・アレマン etc
隠れた名曲、一聴の価値あり!
数あるコンピの中から本作を選んだ理由……それは、名手バーナード・アディスンの「Toledo Shuffle」(バンジョーのような高速アルペジオと野菜の千切りのようなカッティング!)と、C・クリスチャン以前にベニー・グッドマン楽団に在籍したアラン・リュースの「Pickin’ For Patsy」(全編アルペジオとコード・ソロで構成!)が聴けるからだ。
V.A.
『Guitar Rarities Vol.1』
●リリース:2003年(1934〜46年録音)
●ギタリスト:アルバート・ハリス、アイヴォー・メイランツ etc
ここでしか聴けないレア音源満載
バンド・リーダーとしても知られたボビー・シャーウッドや、指導者として定評のあったジョージ・M・スミスといった今や歴史に埋もれた名手を再評価したい。イギリスのアルバート・ハリスは「Dedication」でエディ・ラングに、アイヴォー・メイランツは「In Charlie’s Footsteps」でチャーリー・クリスチャンに、それぞれトリビュートしている。
V.A.
『Guitar Rarities Vol.2』
●リリース:2002年(1937〜47年録音)
●ギタリスト:アラン・リュース、トニー・ガットゥーゾ etc
これぞスウィングの奥深さ!
前掲『〜Vol.1』の続編(と言ってもリリースはこちらが先)。ポール・ホワイトマン楽団のスウィートなストリングスに乗って妙技をくり広げるリュース&ガットゥーゾ、(サウンドはまったく違うが)ジャンゴのグループよろしく弦楽器だけのクインテットで挑むアルバート・ハリス、ジョージ・バーンズをフィーチャーしたエレクトリック・デュオなど珍品揃い。
*本記事はギター・マガジン2021年8月号にも掲載しています。
『ギター・マガジン2021年8月号』
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