“肥えた”とこぼす知人が増えた。暖房の効いた部屋でのデスクワークがメインになったら運動不足にもなるだろうし、そりゃまぁ肥えるか、人間だもの。もう暦の上ではとっくに春なんだけど、まだしばらくのあいだ暖房は必要みたいだ。
ところで、ギターを暖房の効いた部屋でぬくぬくとさせていると、人間とは正反対のことが起きるのをご存知かしら。今まで自分の所有しているギターでは経験しなかった“ネック痩せ”にこの冬初めてぶち当たった。乾燥でネックの水分が飛んで縮まることで、フレットの端が突き出てバリが出る症状。人間で言えば“アバラ骨が浮き出る”だぞ。
慌ててメンテナンスに持っていって、バリ取りしてもらい事なきを得たけれど、いやぁビックリしたな、“初ネック痩せ”体験。弾かない時はケースに入れて保管が基本だね。
わりと長いことギターを弾いてきているくせに、基本をすっとばして過ごしてたことってほかにもあるんだろうな。エレクトリックに関して言えば、中学生で最初に手にした国産廉価版コピー・モデル以降、ずっとシングルコイル搭載のソリッド・ボディ派だったけれど、海外のジャズ/フュージョン界のギタリストに注目が集まったある時期、そのヒトらのほとんどが弾いていたせいで18〜19の頃に自分もエレクトリック・スパニッシュ(セミアコ)にかぶれ、分割払いで当時の現行モデルのGibson ES-335を購入したのが、初めてギターを弾いてギャラをもらう仕事にありついた1ヵ月後。
その仕事にありつくためのオーディションってのがイカレていて、会場に全パートの希望者を集め、無作為にトリオを組まされると「じゃ、オマエらでなんか演奏しな」と言われて1分以内に演奏始められなかったら3人まとめて失格というシステム。それに生き残り仕事にありつけた理由は、偶然組んだほかのふたりがいい感じだったのと、もうひとつ。「あの時に弾いてた国産モデルの鋭角的なトーンがとても刺激的だったからなのに……」と、買った335を持っていったその日に雇い主から言われショックだった。
たしかにシングル/ソリッドとはまったく違うから、それまでと同じ設定のアンプに挿してもモコモコだし、歪みペダルを踏めばハウるし、そのくせ生音もペラい。アコギでロー・コードを低音弦中心に鳴らした時のゴンゴンってのが好きで、“セミアコならそんなニュアンスも楽に出せるだろう”と期待してた自分はたいそう凹み、支払いも終えてない3ヵ月くらいで手放してしまった。
そんなこんなでセミアコに良い印象を持てないまま育ったのだけど、のちにオールドの335やエピフォン・カジノなどのアタリ竿に触らせてもらう機会があって、“あれはハズレ竿だったか”とやっと気がつくような遅咲きの自分にも縁があったのかな? 新設されたギター・ブランドのセミアコがいま手元にある。
「ストップ・テイルピースって、ちょっと高さを変えるだけで弦のゲージ変えなくても低音弦のゴンゴンがぶっとくなったりするんだ、へぇ〜面白い!」などと、いじくり回して楽しんでいる。まだまだギターも知らないことがいっぱいだ。また触りたくなってきたので、もう行きます。では、また!
いまみちともたか
Profile
いまみちともたか
いまみちともたか◎1959年生まれ。BARBEE BOYSのギタリストとして1984年にデビュー後、佐野元春や井上陽水のレコーディングに参加するなど、多方面で活躍。ほかにも、椎名純平らとのヒトサライ、自身がホストとなってゲストを迎えるスタジオ・ライブ・シリーズ=“カメを止めるな”を主催するなど、精力的に活動中。