第2期ジェフ・ベック・グループの名盤『Rough And Ready』&『The Jeff Beck Group』を語り尽くす 第2期ジェフ・ベック・グループの名盤『Rough And Ready』&『The Jeff Beck Group』を語り尽くす

第2期ジェフ・ベック・グループの名盤
『Rough And Ready』&『The Jeff Beck Group』を語り尽くす

第2期ジェフ・ベック・グループでは2枚の作品を残している。1971年作『Rough And Ready』と最終作となる翌年リリースの『The Jeff Beck Group』だ。ここではそれぞれの聴きどころを、ギター視点で解説していこう。ぜひ音源を聴きながら読んでほしい。

文=久保木靖

『Rough And Ready』

ソウル・マナーのワウ・ギターも
ベック流の攻撃的なサウンドで!

“モータウンのような方向性”と言っても、ベックがリーダーともなれば、バンドが単なる“歌伴”にならないのは当然と言えば当然。ソウル系バック・バンドとの大きな違いは、ドラムがアンサンブルの核になっているということ。そのコージーに触発されてベックは自身のプレイを賦活(ふかつ)させており、これは第1期JBGのロッド・スチュワートとの関係にも似ている。プロデュースはベック本人。

冒頭「Got The Feeling」は、何と言ってもワウ・ペダルを踏んだチャカポコ・カッティングに耳が釘付け。ソウル系プレイヤーの柔らかいプレイとは真逆の、エッジの立ったトーンはたじろいでしまうほど攻撃的だ。ソロは一転してスライド・ギターが支配。その雲の合間を飛んでいくような浮遊感溢れるプレイに心奪われる。

イントロのリフだけでチビりそうになるのが続く「Situation」。変拍子4小節目の絶妙なポルタメント・チョーキングだけで“参った!”っていう感じ。転換部で登場するギターとドラムのもつれながらのフィル・インや猛獣の唸り声のようなファズ・トーンには唖然とするしかないが、疾走感の隠し味となっているアコースティック・ギターのストロークも見逃せない。

2曲メドレー形式の「New Ways / Train Train」は、リズム隊とひと捻りあるギター・リフが組み合ってスライ&ザ・ファミリー・ストーンを彷彿するようなグルーヴが生まれている。曲の連結部分がこれまた聴きもので、ギターとドラムのシンクロがカタルシスを迎えると一転、ふたりによるスリリングなインタープレイが登場。この一連の流れは本作のハイライトと言ってもいい。

コーラスのかかったコード・ワークが印象的な「Short Business」と、ボーカルとベースが実にモータウン的な「Jody」は、ともにスライド・ギターがドラマチックに活用される。ファズ・ベースに導かれる「I’ve Been Used」では、ベック流R&Bギターとでも言うべきカウンター・ライン的ダブル・ストップにも注目したい。そして『Blow By Blow』の「Diamond Dust」にも通じる世界観の「Max’s Tune」で、ベックはジャズの扉を開けた。


『Jeff Beck Group』

バンドの成熟と凄みを見せつけた
クロッパー・プロデュース作

スティーヴ・クロッパーをプロデューサーに迎えて、ベックはスタックス・サウンドにパワーと鋭さとワイルドさを加えることに成功。前作のささくれ立った部分が丸みを帯びつつも、より凄みが増した印象だ。

粘っこいカッティングを見せる「Ice Cream Cakes」だが、ソロになると開放弦を絡めたトリッキー・フレーズやチョップ奏法、フィードバック、そして燃え上がるようなアーミングと、やりたい放題の演奏が気持ちいい。メジャーとマイナーが同居するジミヘン・コード的な響きと言い、この2年前に亡くなったジミヘンに捧げているかのようだ。

どんなカバー曲でも自分たちのオリジナルのように聴かせてしまう、そんなマジックを見せてくれるのが次の3曲。「Glad All Over」はロカビリーのカール・パーキンス、「Tonight I’ll Be Staying Here With You」はボブ・ディラン、「I Got To Have A Song」はスティーヴィー・ワンダー……それぞれのオリジナルだと聞かされても、正直ピンとこないほどにバンド・カラーが現われている。アレンジもさることながら、これは圧倒的なフェイク力を誇るボブの力によるところが大きい。「Tonight I’ll Be〜」のメロウなスライド・ソロも最高。

ベックのR&Bギターが堪能できる曲としては、ボブとクライヴのルーツであるカリビアン・フィーリングの中、セッション・ミュージシャンよろしくワウ・ギターでバッキングに徹する「Sugar Cane」や、ボーカル・バックのアルペジオやダブル・ストップなどを織り交ぜたきめ細やかなバッキングが絶品の「Highways」を挙げたい。

ゴッド・オブ・スワンプのドン・ニックス作「Going Down」は7分近い熱演で、間違いなく本作の見せ場。怒りに満ちたようなボーカルとユニゾンのテーマを聴くにつけ、「You Shook Me」(第1期JBG『Truth』収録)のアイディアをツェッペリンに真似されたことへのアンサーととらえるのはうがちすぎか。終盤に向けて、収録スタジオが吹っ飛んでしまったのではないかと危惧したくなるほどにギターのエネルギーが増幅していく。

“ソウル/R&Bチューンをギター・インストで演奏する”という第2期JBG結成直前のヴィジョンが実現したのが、リタ・ライトの「I Can’t Give Back The Love I Feel For You」のカバー。スライド・ギターでメロディを叙情的かつ大胆に“歌い”、後半ではそれが見事なハーモニーに発展していく。そして、それをより推し進めたのが、ワウをかけて奏でられるラスト「Definitely Maybe」だ。下降する悲しくもロマンチックなラインに、ハーモニー・ラインやカウンター・ラインが加わっていき、最終的には圧巻のオーケストレーションへ。整然としたテーマとは対照的に、大胆なアーティキュレーションを伴ったソウルフルかつジャジィなソロにも感涙必至だ。