『A LONG VACATION』基本情報ナイアガラ・サウンドとは?? 『A LONG VACATION』基本情報ナイアガラ・サウンドとは??

『A LONG VACATION』基本情報
ナイアガラ・サウンドとは??

ギタマガWEBのロンバケ特集、まずはその基本情報についておさらい! 日本屈指の名ギター・プレイヤーが合計10名以上参加した本作で、大滝詠一はどのようなサウンドを求めたのか。“ナイアガラ・サウンド”におけるギターの役割について考えていこう。

文=小川真一

『A LONG VACATION』基本情報

SIDE A
君は天然色
Velvet Motel
カナリア諸島にて
Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語(ストーリー)
我が心のピンボール

SIDE B
雨のウェンズデイ
スピーチ・バルーン
恋するカレン
FUN×4
さらばシベリア鉄道

※曲目は1981年リリース版

●アーティスト:大滝詠一
●リリース日:1981年3月21日
●レコーディング期間:1980年4月18日〜1981年2月17日
●プロデューサー:大瀧詠一
●エグゼクティブ・プロデューサー:朝妻一郎
●アレンジャー:多羅尾伴内
●エンジニア:吉田保
●録音場所:CBS/SONY Roppongi & Shinanomachi

●メンバー:安田“同年代”裕美/三畑卓次/笛吹利明/福山享夫/川村栄二/松下誠/松宮幹彦/吉川“二日酔ドンマイ”忠英/徳武弘文/村松“カワイ・ギター教師”邦男/鈴木“Hoseam-O”茂(g)、鳴島“クワイアットマン”英治/加藤賀行/横山達治/川瀬正人/福生福生太郎/ラリー須永/高杉登/片山茂光/川原正美/キムチ木村(perc)、山田“笑い上戸”英俊/山中直子/鈴木宏二/井上鑑/エルトン永田/中西康晴/安西史孝/大浜“練習熱心”和史/井川賀幸/遊眠亭主(k)、上原“ユカリ”裕/林“バラード”立夫(d)、金田一昌吾/長岡“ミッチ”道夫/細野“エレキ・ベース”晴臣/小泉僖美雄/荒川康男(b)、シンガーズ・スリー/オシャマンベ・キャッツ/伊集加代子/ラジ(cho)、Jake(flute)、吉岡孝時(tp)、 金山功(marimba & timpany)、前田憲男/松任谷正隆(strings)

永久不滅のポップスはどう作られたのか?

日本のポップス界が誇る金字塔、それが大滝詠一『A LONG VACATION』だ。通称は“ロンバケ”。81年に発売され、すぐさまベスト・セラーとなり累積の売り上げは200万枚以上になるという。

どうしてこれだけの大ヒットとなったのか。

いくつもの理由が考えられるのだが、まずは誰もが楽しめるアルバムであったことが、一番の要因なのだろう。マニアのための作品ではなく、永遠不滅のポップスを前面に押し出したことが、大成功につながっていったのだ。

この大滝詠一が作り出したエバーグリーンなポップスの音像は“ナイアガラ・サウンド”と呼ばれている。この呼称は、大滝=ナイアガラ瀑布になぞらえたものなのだが、これはフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドを意識してつけられた。

『A LONG VACATION』ではフィル・スペクター(註:下記コラム参照)に倣い、ギタリストだけでも、鈴木茂、村松邦男、徳武弘文、安田裕美、笛吹利明、松下誠、松宮幹彦など超一流のミュージシャンをそろえ、スペクター方式で同時に演奏し収録した。「恋するカレン」のイントロの心が弾むようなアコースティック・ギターの響きや、「Velvet Motel」の冒頭の歯切れ良いリズムなどは、このようなスタイルでレコーディングされた。

ここで誤解のないように書いておくが、大滝詠一が求めたのはウォール・オブ・サウンドの再現ではない。手本にはしたものの、自身の曲や歌を最大限に引き立たせる手法として、このような形式を選んだのだ。聞く側の立場からしても、フィル・スペクターに似ているから『A LONG VACATION』を買い求めたのではないはず。あくまでも主役は、大滝詠一のシルクのようにしなやかな歌声であり、リゾート感満載の美しいメロディ・ラインであるのだ。

ギタリスト的な視点で付け加えておくと、「君は天然色」の間奏のように、独特のきらびやかなエフェクトのかかったギターの音色に耳がいくかと思う。これにもアイデアの元になったサウンドがある。

60年代といえば宇宙開発の時代でもあった。ロケットに乗って宇宙に飛び出していくことが現実のものとなっていった頃だ。この風潮に音楽も影響され、宇宙的なサウンドが求められた。そのひとつが、エレキ・インスト・バンドのザ・トルネイドースの「テルスター」で、62年に発売され爆発的なヒットとなった。この曲を制作したのが、英国のプロデューサー/アレンジャーのジョー・ミークだったのだ。

ジョー・ミークは英国のフィル・スペクターとも呼ばれたが、エコーを多用した特有の音響効果と、エフェクトの効いたギター・サウンドを得意としていた。このようにして生まれたのが、ジョン・レイトン「霧の中のジョニー」(62年)や、ザ・ハニーカムズ「ハヴ・アイ・ザ・ライト」(64年)だったのだ。

「さらばシベリア鉄道」で聞かれる哀愁のこもった音色もそうなのだが、大滝詠一はこのジョー・ミークのギター・サウンドを借用している。借用というよりも、これはやはりオマージュと言ったほうがいいだろう。若き日の自分自身が影響を受けたサウンドへの、恩返しであったのだと思う。

COLUMN:ウォール・オブ・サウンドとは?

大滝が手本にしたウォール・オブ・サウンドについて、少しだけ説明しておこう。フィル・スペクターは、60年代に活躍したプロデューサーでありアレンジャー。その代表作には、ザ・ロネッツ「ビー・マイ・ベイビー」(63年)や、クリスタルズ「ヒーズ・ア・レベル」(62年)、ライチャス・ブラザーズ「ふられた気持(You’ve Lost That Lovin’ Feelin’)」(64年)などが挙げられる。

フィル・スペクターのサウンド・メイクの最大の特徴は、楽器によって音の壁(ウォール・オブ・サウンド)を作り上げること。楽器の音圧を上げるために、ギターやピアノなどを複数台スタジオに持ち込み、それぞれをユニゾンで演奏させることで、独特の音響効果を生み出していく。現在ならば多重録音を考えるだろうが、まだそのようなテクノロジーが発達する前の話。入念にリハーサルを重ね、スタジオの中で一発録りでレコーディングを行なう。随分とアナログな作業なのだが、これが見事な音の壁を出現させたのだ。

さらに特徴をあげるのならば、鳴り響き続けるパーカッションであったり、楽器同士の共鳴音であったり、ポップスが持つ華やかさをさらに増強させたのが、フィル・スペクターの作り出すサウンドであったのだ。

このスペクターのサウンドには、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンを始めとして、ザ・ビートルズのジョン・レノン、ブルース・スプリングスティーン、エレクトリック・ライト・オーケストラのジェフ・リンらが夢中になった。そしてこのサウンドを日本で継承したのが、大滝詠一であったのだ。

作品データ

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』

ソニー/SRCL-12010~12011/2021年3月21日リリース

―Track List―

【CD1】
01.君は天然色
02.Velvet Motel
03.カナリア諸島にて
04.Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
05.我が心のピンボール
06.雨のウェンズデイ
07.スピーチ・バルーン
08.恋するカレン
09.FUN×4
10.さらばシベリア鉄道
【CD2】
『Road to A LONG VACATION』

―Guitarists―

安田“同年代”裕美、三畑卓次、笛吹利明、福山享夫、川村栄二、松下誠、松宮幹彦、吉川“二日酔ドンマイ”忠英、徳武弘文、村松“カワイ・ギター教師”邦男、鈴木“Hoseam-O”茂