スウィート・スポットを刺激するギター・プレイで
アンサンブルを魅力的に輝かせた待望の最新アルバム
2020年1月にバンドの“再生”が発表され、解散した2012年2月の閏日以来となる活動を再開させた東京事変。彼らがフル・アルバムとしては10年ぶりとなる新作『音楽』を完成させた。
ギタリストの浮雲は、今作でも強烈な香りで存在感を放つプレイを披露。シンプルながら耳をつかんで離さない“魅せるフレージング”で楽曲を鮮やかに彩っている。
オープニングを飾るヒップホップ・ナンバー「孔雀」では、タメの効いた“後ノリ”のリフがいびつながらも欠かせない要素として鳴り響いており、狙いすましたようにグルーヴのスウィート・スポットを刺激する。また「青のID」では、歌のバッキングながらハミングするかのような“歌うコードワーク”で華を添えており、リズミカルで小気味いいプレイで躍動感を与えているのが見事。自由奔放なフレーズながらも素晴らしい音楽として成立させてしまうセンスの高さを垣間見ることができる。
一転して「赤の同盟」では、オブリを中心にアンサンブルの隙間を縫い合わせていくような引き算のプレイと“チャカポコさせない”天邪鬼なワウ・プレイで魅せる。「獣の理」では引き締まった歪みサウンドでくり出す一筆書きのようなギター・ワークが印象的。派手に音色を切り替えずとも指先の機微で表情の濃淡を描き分けるテクニックは特筆すべきポイントだ。また過剰に歪ませた凶暴なファズ・ギターでアンサンブルを乱暴に上書きしていく「薬漬」も聴きどころのひとつで、後半に進むにつれて描き出される壮大なサウンドスケープに聴き手は思わず息を呑むことだろう。
加えて浮雲は「紫電」や「黄金比」、「闇なる白」、「銀河民」、「一服」を始め、各所で色気溢れるボーカル&コーラスを担当しているのも忘れてはならない。男女の歌声が重なり合って生まれるコントラストがアクセントとなり、楽曲をより魅力的なものへと昇華させているのだ。彼の歌声はバンドの表現に欠かすことのできない重要な存在になっていることも、ここに書き加えておきたい。
一聴してキャッチーなのに誰にも真似できないオリジナリティで刻印されたシグネチャー・フレーズの数々……神出鬼没に登場しては残り香を残して去っていくその姿に憧れを抱くプレイヤーは多いことだろう。紛うことなき、現代のギター・ヒーローが奏でる珠玉の“音楽”をじっくりと堪能してほしい。