岡田拓郎をナビゲーターに迎え、カテゴライズ不可能な個性派ギタリストたちの作品を紹介する連載、“Radical Guitarist”。第3回はドイツの即興ギタリスト、ハンス・ライヒェルの『Bonobo Beach : Some More Guitar Solos』をピックアップ! 独創的なオリジナルのギターを自ら製作してまで奏でる音は、まさに“唯一無二”というほかない。“創造”という言葉の意味を、本作を聴いたうえで改めて考えてみよう。
文=岡田拓郎 デザイン=山本蛸
今回紹介する作品は……
『Bonobo Beach : Some More Guitar Solos』
ハンス・ライヒェル
FMP/FMP-0830/1981年リリース
―Track List―
01. Southern Monologue
02. Bonobo Beach II
03. Could Be Nice
04. Two Small Pieces Announced By Cigar-Box
05. Two Small Pieces Announced By Cigar-Box
06. Bonobo Beach I
07. Could Be Nice Too
ギター“創作”家が無二の楽器で奏でる
自由奔放なインプロヴィゼーション作品
米『Guitar Player』誌の「30 Most Radical Guitarists」に選ばれたインプロヴァイザー/特殊ギタリストであり、スティーヴ・クラインやネッド・スタインバーガーらと並ぶ(べき!)革命的なギター製作家でもあるハンス・ライヒェル。アコースティック・ギターのボディ部分にまでフレットを打ち込んだ“フル・フレット・ギター”を始め、ボディ中央にブリッジを付けてネックとは逆側にもフレットを打ったギター、ブリッジとテールピースの間を演奏できるよう改造されたものなど、想像力に富んだ多くの自作ギターを製作した。これらは一般的なギターの範囲を超えたチューニングや倍音、金属音などを得て、彼のギター演奏は正真正銘の唯一無二となった。
こうした奇天烈な自作ギターに加え、本作はペーター・ブロッツマンらによって立ち上げられた名門インプロ・レーベルFMPからのリリースである。彼の演奏を未聴の方は身構えてしまうかもしれないが、そのサウンドはフレッド・フリスが“……衝撃的なアヴァンギャルドではなく、衝撃的なトラディショナル(ただし、どのトラディショナルかは必ずしも明確ではない!)”と評したように、琵琶や琴、サントゥールや揚琴、コラといったアジアやアフリカの伝統的な弦楽器にも通じる、旋律的で調整のあるどこか親しみやすい響きを持っている。特に本作でのあまりにも美しい音響世界は、フォーク・ミュージック、またはアンビエント的といっても差し支えないだろう。「Could Be Nice」は名演!
ちなみにライヒェルは、様々な幾何学デザインの木片を取り付けた小型のマイクボックスを弓で擦ることによって、まるで人の声色のように自在な音色を奏でる“ダクソフォン”という楽器の考案者でもある。また余談だが、そのほかにフォントのデザインも手がけていた。
著者プロフィール
岡田拓郎
おかだ・たくろう◎1991年生まれ、東京都出身。2012年に“森は生きている”のギタリストとして活動を開始。2015年にバンドを解散したのち、2017年に『ノスタルジア』でソロ活動を始動させた。現在はソロのほか、プロデューサーとしても多方面で活躍中。