ネオソウルらしいレイドバックしたグルーヴ、シーケンスなタッピング・フレーズ、ロックやジャズの要素も感じるメロディ・プレイなど、バックグラウンドの幅広さを匂わせるナイア・イズミ。彼の独創的なギター・スタイルに影響を与えたのは、どのようなギタリストだろうか。本人がピックアップした4人とお気に入り作品を紹介しよう。
文=福崎敬太
No.1/ジョン・マクラフリン
ナイア・イズミが影響を受けたギタリストとして、まず始めに名前が挙がったのがジョン・マクラフリンだ。マハヴィシュヌ・オーケストラ、エレクトリック・マイルス期を支えたギタリスト……などとは、もはや説明不要だろう。NYの音楽メディア『Relix』の企画用に組まれた、“最新作に影響を与えたプレイリスト”には「Joy」が入っている。ギターを始めた当初は、R&Bなどではなくマハヴィシュヌ・オーケストラなどのほうをよく聴いていたそうだ。また、特に「Joy」が収録されているシャクティの『Shakti with John McLaughlin』がフェイバリットで、“このアルバムでジョンがやったことには驚かされたね。パーカッションも凄まじい”と語っていた。
マハヴィシュヌ・オーケストラ解散直前の1974年にマクラフリンが組んだのが、このシャクティというバンド。本作は1975年7月5日にサウス・ハンプトン大学でライブ・レコーディングされたもので、ムリダンガム、ガタム、タブラといったインドの打楽器と、ギター、バイオリンによって演奏された。L.シャンカールのバイオリンがエスニックな雰囲気を醸し、マクラフリンのギターは超絶。即興性の強いトリッキーな速弾きが耳を引く。ちなみにジャケ写で抱えているギターはギブソンに特注した1本で、通称“シャクティ”。エイブラハム・ウェッチャー(Abraham Wechter)が製作した、スキャロップド指板で共鳴弦付きのエレアコだ。
No.2/スパンキー・アルフォード
ネオソウルの隆盛で再評価されているジャズ/ゴスペル・ギターの名手、チャーマーズ・“スパンキー”・アルフォード。ラファエル・サディーク擁するグループ=トニー・トニー・トニーの『House of Music』(1996年)への参加を皮切りに、ディアンジェロやアンジー・ストーンなどのバックを務め、ソウル界隈の後進ギタリストに多大な影響を与えた。近年では、ディアンジェロ・バンドでその系譜を引き継ぐアイザイア・シャーキーが、フェイバリットに挙げていることでもお馴染みだろう。教会音楽と密接に関わってきたナイアにとって、ゴスペル・ルーツを持つスパンキーははずせないようだ。アルペジオのボイシングなどにその影響が垣間見えるだろう。
No.3/ロバート・フリップ
ナイア・イズミの楽曲ではプログレッシブなアプローチも随所で聴けるが、なるほど、ロバート・フリップからの影響あり。説明するまでもないが、キング・クリムゾンのギタリストであり、レジェンド。ナイア自身は“ロバート・フリップが80年代にキング・クリムゾンでやっていてことも好きだったね。曲というより、彼のインタビューにも表われている「考える姿勢」に影響を受けたんだ。70年代の彼は周囲と似たことをやっていたけど、80年代からかなり独自の道を歩むようになった。エコノミー・ピッキングを始めたり実験をして、さらに開花していったんだ”と熱っぽく語ってくれた。
キング・クリムゾンの第一期解散から7年後、1981年にリリースされた『Discipline』。エイドリアン・ブリュー(vo,g)、トニー・レヴィン(b)が加入しての初作品だ。ナイアのお気に入りは冒頭曲「Elephant Talk」で、“様々なテクニックと実験が詰まっていて驚いたね。ほかの誰とも異なるものに美しさを感じるんだ”とのこと。同曲のシーケンスなフレージングはナイアの「Personal Heaven」の間奏に近いものを感じるし、トニー・レヴィンのチャップマン・スティックの音運びは、彼のタッピング・スタイルに影響を及ぼしている……ように思う。
No.4/ジョー・パス
ジャズ・ソロ・ギターの巨匠、ジョー・パス。もちろんトリオや歌伴などでも名演を残しているが、ナイアは“『Virtuoso』は素晴らしいし、バンドじゃなくてソロ・ギターにこそ彼の素晴らしさが最も表われている”と語る。また、“僕はスタジオ盤よりもライブ盤が好きで、リアルな命が吹き込まれている気がするんだ”とのことで、弦の擦れる音や息遣いまで聴こえてくる生々しさが好みのようだ。ジャジィなボイシングも使うナイアにとって、パスのコード・アプローチは参考になるものがあったのかもしれない。