「ビートが遅れるのは恥だ、モタるくらいなら死んだほうがマシ」と豪語していたドラマーは集合時刻に関してもジャスト・ビートだった。
「俺の遅刻は癖じゃない、体質だから」と言い張るベーシストは、毎度リハなどの流れに支障が出る寸前のタイミングでの登場がお約束だ。それって、むしろ几帳面?
会社務めの経験があるボーカリストは「査定に響くから10分前行動は当然だった。早めに行って会社の周りをジョギングしてからタイムカードを押していた」と言う。ストイック?
荒くれエピソードに事欠かないRockなボーカリストも、朝まで飲み散らかした日だろうと、入り時間に遅れたことはないそうだ。「一度顔出して、居るぜアピールしたあと、どっかに隠れて二度寝すれば誰かが探しにくるまで眠れるぞ」。いや、それはどうだろう……。
楽器入り12時と伝えられたスタジオに本人が12時前に出向き、逆にスタジオやエンジニアから迷惑がられる自分のような者は「頃合いをわからぬ不粋者」と呼ばれてしまうからこれまた注意が必要。ま、何事もバランスが大切だね。
野外フェスの開催地に向かう飛行機に乗り遅れ、演奏予定時刻に1人だけ会場に着けなかったことがある。
小学生の頃から、申し訳なさそうに「ごめんなさい」としょぼくれて教室に入る遅刻くんよりも「みんな今日は早いね、どうしたの?」と悪びれないお調子者のほうが、場を暗くしなくて好きだったこともあって、その日も「いやぁ、参った参った。俺のこと乗せ忘れて飛んでっちゃうんだもんなぁ」と、ちゃらけてみせたのだが、どうも全員が伏目がちで無反応。
“完璧に間違ったぞ俺、いま……”
と気づいたものの、後悔先に立たず。どうやらスタッフが他のバンドにアタマ下げまくって出演順を変えてもらい、トリ前あたりのメチャおいしい時間を譲ってもらった直後だったらしい。申し訳ない?
それから半年くらい経って「あのあと、とてもいい時間帯での出演オファーが来たイベントを辞退して、出演順を変えてくれたバンドに枠を譲った」とスタッフから聞かされた。“一度の遅刻がそんなに尾を引いてしまったかぁ”と恐縮しまくったのを覚えている。
“もう二度と遅刻はするまい”とそのとき決め、以降守っている。
ステージに立つ側の者が、例えば道路事情などのせいで時間に遅れたとしよう。
表向きは「災難だったね、大丈夫?」的なポーズをとってくれるだろうけれど、「なんでそれを見越して早く家を出ない?」と陰で毒づかれても、文句は返せない。
なぜって裏で支える側は、キミの入り時間のさらに半日前から現場に来ているかもだし。
彼らはその時刻に現場に居なければ、どんな言い訳も使えず、問答無用でボコボコにされるか、その日徹底的に無視されるか、翌日から職を失う世界で生きているんだ。
そういうヒトからの信用をなくしたら、キミの活動すべてがうまくいかなくなるぞ。
だから自分は不粋と呼ばれても「せっかち」の側に行くことにしたのさ。
時間にルーズな奴は信頼されないんだ。
怖いんだぞォ遅刻。
アイドル誕生ものが大好きな、遅刻がちの子供をそう言って脅かしたら「じゃあ、パン屋さんになるからいい」と返された。“朝一番早いのはパン屋のお兄さん”を知らないらしい。
ちなみに俺はデジタル・ディレイが大好きです。ではまた!
いまみちともたか
INFORMATION
18年ぶりのソロ作『Uta-MONO』の詳細が発表!
本連載でもいまみち自身が制作について語っていたソロ・アルバム『Uta-MONO』が、2022年2月16日にCD&配信リリースされることが決定! そして、12月10日より“記念グッズ+CD”の特別先行予約がWIZYにてスタートする。詳細はいまみちともたか公式HPをチェック!
リード・トラックが配信スタート!
Profile
いまみちともたか
いまみちともたか◎1959年生まれ。BARBEE BOYSのギタリストとして1984年にデビュー後、佐野元春や井上陽水のレコーディングに参加するなど、多方面で活躍。ほかにも、椎名純平らとのヒトサライ、自身がホストとなってゲストを迎えるスタジオ・ライブ・シリーズ=“カメを止めるな”を主催するなど、精力的に活動中。18年ぶりのソロ・アルバム『Uta-MONO』が、2022年2月16日にリリース。