パット・マルティーノは何が偉大だったのか?唯一無二のプレイ・スタイルとサウンド パット・マルティーノは何が偉大だったのか?唯一無二のプレイ・スタイルとサウンド

パット・マルティーノは何が偉大だったのか?
唯一無二のプレイ・スタイルとサウンド

パット・マルティーノ追悼特集の最後は、彼のプレイ・スタイルとサウンドを考察しつつ、その偉大さについて語らせてもらいたい。

文=久保木靖

楽器は移ろっても終止一貫した強固なトーン

1960年代にはおもにギブソンのJohnny SmithやL-5CESといったフルアコ、1970年代はサム・クーンツ製カスタム・モデルやソリッド・モデルであるギブソンL-5S、復帰後のマルティーノを支えたのはエイブ・リヴェラのScepterやパーカーのカスタム・モデル、そしてギブソンやベネデットのシグネイチャー・モデルといった小振りのソリッドやセミ・ホロウ構造のギターだった。

アンプは当初フェンダーのTwin Reverbを使っていたが、1970年代半ばからは世界的な普及を見せていたローランドのJC-120もメインの仲間入り。ツアー先での調達を考慮した場合、こういった有名モデルで音作りをするのが合理的と考えた結果だ。復帰後は、アコースティック・イメージ製Clarus 2Rのヘッドに、レイザーズ・エッジ製もしくはマーシャル製、メサ・ブギー製などのスピーカー・キャビネットを組み合わせたりもしていた。

このように愛器が移ろっても、ナチュラルに歪んだ強固なトーンは終止一貫。それはアンプの歪みというよりは、1弦〜6弦が015〜052もしくは016〜058とも言われる太い弦をエクストラ・ヘヴィのピックではじいていくという、強靭な手首が生み出していたのではないか。そんなマルティーノの唯一無二とも言えるプレイ・スタイルを改めて振り返っておきたい。

より“ギター的”な斬新アプローチの開発

正確無比なフル・ピッキングとロマンチックな表現は少年時代に仕込んだジョニー・スミス由来のもの。オクターブ奏法やコード・ソロはウェス・モンゴメリーの十八番であった。シーケンス(リフレイン)・フレーズはグラント・グリーンやオルガン奏者のフレーズが念頭にあったかもしれない。

そして、息の長いフレーズを圧倒的な速さで弾き倒す。これに一役も二役も買っているのが、“マイナー・コンバージョン”という考え方だ。これを駆使することで、定形のブロック・ポジションを切り替えながら様々なコード進行に対応できるようになる。

アップテンポの曲においては、100%のアドリブ、つまりその場で思い浮かんだメロディだけでソロを構築していくことは困難であり、ある程度ポジションを限定した上で音を連射していくという手法が有効だ。現にマルティーノはさまざまな場面で活用可能な手癖的パターンをいくつも持っていた。ちなみに、ジョン・マクラフリンも(マイナー・コンバージョンではないが)同様のアプローチを行なっている。

コンテンポラリー・ジャズ・ギタリストのルーツとしてジム・ホールの存在は計り知れないが、ホールが管楽器や鍵盤楽器の視点でアドリブのコンセプトを構築したのに対して、マルティーノはギターの構造に即したコンセプトを導入したという点が興味深い。ちなみに、マルティーノは1970年代後半にGIT(のちのMI)の講師を務めているが、同校がフランク・ギャンバレやスコット・ヘンダーソンといったロック〜フュージョン・ギタリストを多く輩出しているのは無関係ではないだろう。

“神の領域”とも言える独自の世界観

マルティーノの真価はここから。まず、高速で連射した音の羅列が波打つかのように、状況に応じて大小アクセントをつけていったこと。これはもともとサックスなどの管楽器でしか成し得なかったことなのだ。チャーリー・クリスチャンの登場以降、“ホーンライク”という言葉がしばしばギター・プレイを形容する言葉として使われるが、マルティーノはまさにホーンをも凌駕する速弾きとアクセントを可能にした最初のギタリストでもあった。

次に、バラードにおける極太トーンが作り出す神秘の世界観。例えば、『We’ll Be Together Again』ではエレピをバックに太い音色で歌いまくっており、ここに単なるギターのシングル・ノートの存在感を遥かに超えた(とは言えサックスとも違う)、独特すぎて喩える言葉が見つからないほどに美しい音空間を創造した。これは『Exit』収録の「I Remember Clifford」にも言えること。これを“神の領域”と言わずになんと表現しようか……。

『ギター・マガジン2022年1月号』
特集:もしもペダル3台でボードを組むなら? Vol.2

ギター・マガジン2022年1月号では、パット・マルティーノの追悼特集として『両手に神が宿った瞬間。〜1970年代のミューズ期作品に酔いしれる〜』を掲載。絶頂期の1つである1970年代のミューズ・レーベル時代を振り返りながら、ジャズ・ギター・ジャイアントを偲びたい。ぜひギタマガWEBの特集とともに読んでみてほしい。