新世代のシンガー・ソングライター/ギタリスト、崎山蒼志の連載コラム。1人のミュージシャンとして、人間として、日々遭遇する未知を自由に綴っていきます。 月一更新です。
デザイン=MdN
感覚を大切に。最近の私の教訓です。
ギターを弾くのは自宅であることが最も多いため、エレキも自宅の小さいアンプやインターフェースに挿したPC上で弾くことばかりです。自宅でのアンプは、ブラックスター FLY 3 Watt Mini Ampを使っています。手のひらに乗っかるサイズです。
ローがしっかりしていて、歪んだ時のミッドのバイト感も凄く好きなアンプですね。また淡いグリーンが大好きな私にとって、サーフ・グリーンがあるこの商品は有り難く、見つけ次第すぐ購入を決意しました。色違いで何個も欲しい、コンパクトで素敵なアンプです。
インターフェースは、M-AUDIO AIR 192|6を使用しています。そして私のPCのDAWソフトLogicへ。プラグインもLogicにあるものを使ってます。プラグイン内のFuzz For Daysという設定の時の音が好きで、音楽制作中のアクセントとしてよく使ってしまいます。
しかし、このような簡易的なつなぎ方では大体が(素晴らしいアンプ・シミュレーター・プラグインもあったりモノによりますが)、なんとなくチープな音色になってしまいがちです。特にクリーン・トーンはそう感じます。
げんなりしますか? いいえ、それを逆手にとって、かっこよく聴かせてしまうミュージシャンも多いように思えるのです。ミックスなどでトータルの音のバランスは良いけれど、どこかデモっぽさの残る音源がYouTubeなどでヒットし、リアルタイムでそれらを好んで聴いていた私は、その気取らない音像にクールさを感じます。
ジ・インターネットのメンバーでもあり単独でも活躍するスティーヴ・レイシーのギターの音作りなんか、いかにもライン録音っぽく、なんならインターフェースからスマホのGarageBandにつないでギターを録音し、制作していたりします(そういった制作風景の動画もYouTubeにあります)。
全体としてはどんなにリッチでミックスの良い音楽でも、スティーヴ・レイシーのギターの音作りはライン録りっぽさの残るまま、それこそが気取らないかっこよさ、彼らしさにつながっていると感じるのです。アンプの、ふくよかでリッチで綺麗で、あらゆるニュアンスを繊細に拾ってくれるような音ではないけれど、DAWにギターをそのままインした特有のチャキチャキ感に、フェイザーをかけたような音は何とも言えぬ魅力を放っています。
個人的にスティーヴ・レイシーは『Apollo XXI』(2019年)というアルバムがお薦めです。随所のフレージングだったり、抜群の作曲センスが堪能できます。彼のコード進行や、小指を使ったコードで歌うような奏法には私自身非常に影響を受けました。また彼のしなやかでフランクな佇まいはとても憧れます。
アメリカのシンガー・ソングライター、クレイロなんかも、最初の音源はMV含め自家製感が全開で愛らしく、彼女のピュアな感性がそのまま濃縮されている、アイディアや曲の素晴らしさが際立ったものに感じられます。
私も憧れて、ある種ローファイなベッドルーム・ミュージックっぽい、それらしいことをやってみようとPC前に向かい意気揚々と取りかかるのですが、難しい。私が思うにこういった表現こそ簡単でなく、アイディアやセンスが問われるものだと思うのです。機材の良さ、音の良さも大切ですが、センスやアイディア、感覚を大切に。最近の私の教訓です。
クレイロの昨年リリースされたアルバム『Sling』はローファイ感とは打って変わった極上な、デッドでファットな音像のスタジオ・アルバムで、曲にはクレイロらしいループっぽい要素もありつつ、パーソナルな温かみ、切なさのあるこれまた素晴らしいものでした。何処かジョニ・ミッチェルを感じさせられるような。話が次々飛んでしまいがちですが、ジョニ・ミッチェルの『Hejira』(1976年)のギターのクリアでダイナミックな音像は、ベッドルーム・ミュージックとはまた全然違った、魅力的な音だと思いました。ステレオ感!
著者プロフィール
崎山蒼志
さきやま・そうし。2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガー・ソングライター。現在19歳。2018年、15歳の時にネット番組で弾き語りを披露、一躍話題に。独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。