Live Report|ジェフ・バクスター featuring CJ Vanston 2022年8月15日@ビルボードライブ東京 Live Report|ジェフ・バクスター featuring CJ Vanston 2022年8月15日@ビルボードライブ東京

Live Report|ジェフ・バクスター featuring CJ Vanston
2022年8月15日@ビルボードライブ東京

2022年8月13日〜17日にかけてビルボードライブ東京、同横浜にて開催された、レジェンド・ギタリスト=ジェフ・バクスターの来日公演。先日ギタマガWEBで公開したインタビューでも、本公演の意気込みを語ってくれた。今回は東京公演の最終日、8月15日の1stセットの模様をレポートしよう。

文=近藤正義 写真=Masanori Naruse

“アメイジング”なプレイヤーたちと奏でた来日公演

 13日から始まったビルボードライブ東京公演も3日目。この日のファースト・セットで通算5回目のセットである。ずっと同じ会場でやっているだけに、サウンドのチェック、MCの塩梅、そして演奏のノリ、色んなことがこなれてきたタイミングではないだろうか。そんな期待を持って迎えた開演。

 実は僕がジェフ・バクスターの演奏を生で見るのは、1976年のドゥービー・ブラザーズ来日公演以来のこと。ドゥービーに在籍したギタリストの中で一番贔屓にしていたギタリストだけに、その後のドゥービー・ブラザーズ再結成に加わっていないことは、甚だ残念。しかも脱退後は目立った音楽活動をしていなかっただけに、ニュー・アルバムを引っさげての来日公演とは、こんなに嬉しいことはない。

左からC.J.ヴァンストン(k)、ジェフ・バクスター(g、vo)、ハンク・ホートン(b、vo)。

 さて、ステージは登場して持ち場に着くや否や、いきなりのメンバー紹介。今回の来日メンバーは、ジェフ・バクスター(g、vo)、C.J.ヴァンストン(k)、ハンク・ホートン(b、vo)、マーク・ダミアン(d、vo)。ヴァンストンはスティーヴ・ルカサーのソロ・プロジェクトなど、西海岸では多くのアーティストを支えるお馴染みの実力派。ジェフのニュー・アルバムでも、共同制作者と言っても良い立場の仕事をしている。バクスターはヴァンストンをファンタスティック・キーボードと紹介し、ヴァンストンはバクスターをレジェンドと紹介。お互いをミュージック・パートナーと呼んでいた。ハンクとマークは、バクスターが絶賛するリズム・セクション。彼らは“アメイジング”という言葉で紹介された。

 そして始まった演奏。まずはインスト曲「Ladies From Hell」でスタート。バクスターはこの曲だけ、サンバーストのストラトキャスターを使用。2曲目からはレッドのストラトキャスターに持ち替えていた。アンプはジェフもシグネチャー・カプセルをリリースしているローランドのBlues Cubeを2台、ステレオで使用。足下にはマルチ・エフェクターのようなのフロアタイプの機材があり、フットスイッチをこまめに操作していた。意外な発見は、アームによるビブラートを多用していたこと。

 そして、スティーリー・ダンのカバー「My Old School」ではアルバムと同様にリード・ボーカルを披露。なるほど、これならスティーヴン・タイラーが“自分で歌えば?”と奨めたのも納得。

 アルバムではマイケル・マクドナルドが歌った「My Place In The Sun」は、ベースのハンクがボーカルも担当。ハイ・トーンの歌声はマイケルとは違うが、また別の魅力を備えている。

ジェフが手にしているのは、ローランドのギター・モデリング技術を搭載したVG Stratocaster G5。

 MCの最中にバクスターがサーフ・ギター的なフレーズを弾き始める。ヴァンストンが“サーフ・ギターはあまり好きじゃないんだけど(笑)”と冗談を言い合いながら、いきなりシンセでディストーション・リード・ギターの音色とフレージングでキーボード・ソロを弾き始める。ベンディングやピッキングのニュアンスまで良い感じで迫っている。そしてシャドウズのカバー「Apache」へ突入。ヴァンストンはギターを真似たシンセを駆使して、バクスターとユニゾンや掛け合いをキメた。

 続いてスムース・ジャズ風のインストでカバーしたスティーリー・ダン時代の持ち歌「Do It Again」。ぼんやり聴いていると何の曲だかわからないくらいの変貌ぶり。こういう、クリーンなトーンでジャジィなフレーズを絡めるのはバクスターの十八番だ。

 来日前のインタビューでは、MCでは曲に関するエピソードをたくさん喋りたいと言っていたバクスター。この来日公演がスタートした頃のステージを見た人からは、MCが長過ぎるという感想が寄せられていたが、今日のセットではそれほど長いとは感じなかった。改善したのだろうか? しかも意識してのことかどうかはわからないが、聞き取りやすい英語で喋ってくれていたように思う。

ファンにはたまらないサプライズ満載のセットリスト

 ステージも後半。「I Can Do Without」では再びベースのハンクがボーカルを担当し、中間部ではベース・ソロも披露。バクスターとヴァンストンのコンビは、再びツイン・ギター(?笑)によるバトルの世界へ突入。

 一転してアンビエントで美しいインスト「Juliet」。インタビューで言っていたとおり、ニュー・アルバムはほぼ全曲演奏するようだ。そして「Bad Move」ではドラムのマークがボーカルを担当。マークのボーカルもハイトーンで上手い。

 さて、ラストの「Insecurity」は、バクスターは演奏前にファンク・ミュージックと言っていたが、聴いた感じは80年代産業ロックのサウンドでワン・コードもの、といったところだろうか。カッティング、ディストーションのソロ、と弾きまくるバクスターを堪能できた。

 そして、いよいよアンコール。先に見た人からのネタバレで知ってはいたが、シンセのストリングスとクリーン・トーンのギターによるアンビエント風なイントロから、スティーリー・ダン時代のレパートリー「Rikki Don’t Lose That Number」が始まる。アルバムには収録されていないだけに、ライブならではのサプライズだ。ベースのハンクがボーカル、ドラムのマークがコーラスを担当。もちろん、お馴染みの間奏部分のギター・ソロは、あのままのフレーズに感激。このギター・ソロは本人ですら完コピで弾くしか許されないほどの、完成度の高さを誇っている。つまり、名演だったということだ。

 アンコールの2曲目。バクスターがいきなり弾き始めたのは、ドゥービーズ時代の大ヒット曲「China Grove」。場内騒然となったところで演奏を中断してMC。“良い曲だよね。でも、今の俺ならこうやる”と言って始まったのは、ちょっとカントリー風味なアレンジの「China Grove」。なるほど、パット・シモンズがやりそうな気もするアレンジだ。なかなかどうして、こちらも味わい深いものがある。

 ビルボードライブ東京という会場のタイムテーブルでもあるが、アンコールを含めて1時間と20分くらいのステージは丁度良いボリュームだろう。物足りないという人もいるかもしれないが、聴く側の集中力が持続するのもこのくらいが限度だ。もうちょっと聴きたいという気持ちで終わるのが一番心地よい。

 そして、なぜバクスターのギターが初期のスティーリー・ダンや全盛期のドゥービーズのサウンドにとって要だったのか? その答えがなんとなく伝わるライブ・ステージだった。それについては、また後日アップされるドゥービー・ブラザーズ特集にて述べてみたい。

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