メイズ『ゴールデン・タイム・オブ・デイ』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ 第6回 メイズ『ゴールデン・タイム・オブ・デイ』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ 第6回

メイズ『ゴールデン・タイム・オブ・デイ』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ 第6回

現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。

今回のアルバムは、アメリカのソウル・バンド、メイズの『ゴールデン・タイム・オブ・デイ』。リード・ギターのウェイン・トーマスが奏でるメロディアスなリード・パートは必聴だ。

文=マーク・スピアー、七年書店(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2021年10月号より転載したものです。

メイズ
『ゴールデン・タイム・オブ・デイ』/1978年

ソウルの魅力が凝縮された極上のメロウ・グルーヴ

77年にデビューし、80年代後期にかけて活躍したアメリカのソウル・バンド、メイズの2ndフル。ラテンやアフロなど、多彩なフレーバーをまとったグルーヴが心地いい作品だ。洗練されたプレイにソウルの魅力が凝縮されており、リード・ギターのウェイン・トーマスによる表題曲のメロディはその真骨頂。50 Centのサンプリング・ネタ「I Need You」も収録。

クルージングに出たり、庭でバーベキューをやる時に聴くべき作品。

 これはとにかく、堅苦しく聴く必要なんてまったくない素晴らしきソウル・アルバムだ。何かを学ぶためにこの作品を聴いたことなんてただの一度もないさ。シチュエーションとしては、リラックスしている夜に聴くというよりも、そのタイトルどおり“その日のゴールデン・タイム”、つまり1日で最も気分がハイな時に聴くべきものかな。クルージングに出たり、庭でバーベキューをやる時なんかにお薦めだよ。特にタイトル・トラックはお気に入りの曲の1つだね。

 使われているコード、演奏のクオリティはもちろん、ギターのパートもアメイジングだよ。このアルバムがきっかけで僕もフェイザーのエフェクトを手に入れたところがあるしね。あと、ボーカルと相補し合うような単音のギター・ラインは特筆すべきものだ。タイトル曲「Golden Time of Day」を聴けば肌で感じてもらえるはずさ。

 ちなみに一応言っておくが、まるでロック・ギター・ヒーローのようなド派手なギターが鳴っているわけではないよ? こういうのばかりを紹介するのが僕の性分っていうのは、そろそろわかってくれるだろう(笑)。ギターはクールな楽器だけど、その前に僕は何よりもまず音楽を愛している。特定の何か一部だけをピックアップして、“この部分が好き”という風に音楽をとらえていないんだ。

 このアルバムで歌っているのはフランキー・ベヴァリーだけど、彼は最高のシンガーの1人だ。彼のようなトーンのボーカリストを僕は聴いたことがないよ。細かな歌唱テクニック云々というわけじゃなくて、彼が作り出す“テクスチャー”(質感)が素晴らしいと僕は思っている。ムード、とも言うべきかな。

 そして、彼のボーカルと響き合うようにギター、ベース、ドラム、その他の楽器すべてがダイナミックに鳴っている。こうして“1つの壮大な絵”を作り上げているのが最高だ。まさにこれこそ僕が美徳とする、理想的な音楽の形さ。

マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール

テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。