崎山蒼志の未知との遭遇 第20回:憧れの逆再生サウンド 崎山蒼志の未知との遭遇 第20回:憧れの逆再生サウンド

崎山蒼志の未知との遭遇
第20回:憧れの逆再生サウンド

新世代のシンガー・ソングライター/ギタリスト、崎山蒼志の連載コラム。1人のミュージシャンとして、人間として、日々遭遇する未知を自由に綴っていきます。 月一更新です。

デザイン=MdN

たくさんの「時間」が生まれる感じがたまらない。

 楽曲制作にて、時間や空間が逆再生される音像を表現したくて、前々から欲しかったエフェクターを買いました。ダンエレクトロのBack Talkです。

ダンエレクトロ Back Talk

 リバース・ディレイという機能で、弾いたフレーズが反転し、逆再生のように鳴らされます。私が購入したのはBack Talk Reverse Delayの復刻として発売されたモデルで、リバース・ディレイに特化している、激アツペダルです。

 ツマミは3つあって、まず左上から「MIX」。ディレイの音量を調節します。ツマミを右に回し切ることでディレイの音量を最大限上げると、ディレイと原音の関係性が10:0になるので、逆再生サウンドのみが残ります。これが摩訶不思議な浮遊感を作り出して、自分はとても好きなセッティングです。続いて「MIX」の隣、「SPEED」。これはディレイの反応速度を調整します。

 そして最後に「REPEATS」。ディレイのサステインの調整ができます。この3つのみ! 潔い感じが好きです。自分としましては、このツマミの組み合わせの塩梅が非常に面白くて、例えば「SPEED」のツマミを反応の一番速い、左に回し切るセッティングにして、「REPEATS」は真ん中くらい。 「MIX」は先ほど紹介した原音のほとんどない、右に全振りの位置にします。そうするといわゆるショート・ディレイみたいになるのですが、よーく聴くと原音のアタック音がなくて、かつ音がかすかにトレモロのように震えていて、とても奇妙なサウンドです。バッキングとか、アルペジオ的なフレーズで効果的に使えたら面白いんじゃないかなと思いました。

 あともう一つ、自分が大好きなセッティングは、「MIX」のツマミが真ん中くらい、「REPEATS」のツマミは一番サステインが続く位置(右に振り切り)にします。そして「SPEED」を、弾くたびにこまめに動かします! これ最高です。リバース・ディレイそのものの逆再生サウンド、「SPEED」をこまめに変えながら演奏することで、たくさんの時間(逆再生も相まって)が生まれる感じが楽しくてたまりません。パラレル世界で音が反転したり、ゆっくりになったり、速くなったりするので、なんだかクリストファー・ノーラン監督の映画を観ているような感覚があります。

 また、「SPEED」の位置を変えてすぐ鳴らす音は、新たなディレイ・サウンドとしてはっきりと反映されるので、それを繰り返していると、あらゆる場所で別の速度で本のページが捲られているような……、それも面白いです。

 抽象的な感想になってしまいましたが……、お気に入りのペダルがまた一つ増えて嬉しいです。なんせ音が良い! 原音に対して返ってくる逆再生ディレイ・サウンド、その一音一音が本当にクリアで、まるでテープ・エコーのような音の質感。感動しました。

 近頃、制作期間が続いていることもあって、過ぎていく時間に比例して機材の購買意欲が上がっていき恐ろしいですが、新しい機材との出会いはインスピレーションであり、自分のサウンドに対するボキャブラリーの増強、使い方によってはシグネチャー・サウンドになるので、大事ですよね。と、言い聞かせています……。

 ここで私が好きなギターの、リバース・ディレイ・サウンドの聴ける曲をご紹介したいです。トロ・イ・モアの「Déjà Vu」です。シンプルなドラムのビートに、和音のような役割も担うベース・サウンド。ミニマムな編成に大きく鳴る、サイケデリックなリバース・ディレイ的ギター・サウンドが粋です。心地よくかっこいい、歌のメロディもとても美しい楽曲です。ミニマムだからこそ、そのギター・サウンドが映える、そのセンス、バランス感覚に脱帽します。自分も大きくリバース・ディレイ・サウンドが鳴っている楽曲が作りたいです。センスよ、降ってきて!

著者プロフィール

崎山蒼志

さきやま・そうし。2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガー・ソングライター。2018年、15歳の時にネット番組で弾き語りを披露、一躍話題に。独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。

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