2022年のアニメ放映後も、アルバムを発売するなどしてアニメ・ファン、音楽ファンの双方から人気を集める『ぼっち・ざ・ろっく!』。2023年5月21日に、その劇中で登場する“結束バンド”によるライブ・イベント“結束バンドLIVE-恒星-”が、Zepp Haneda(TOKYO)で開催された。ここでは、当日のライブの模様をレポートしよう。
文=錦織文子 写真提供=アニプレックス
『ぼっち・ざ・ろっく!』は主人公でギタリストの後藤ひとりがひょんなことからバンドに加入し、ギター/ボーカルの喜多郁代、ドラムの伊地知虹夏、ベースの山田リョウというメンバーと共に“結束バンド”として音楽活動を行なう、漫画原作のTVアニメ。2022年12月の最終回放映後、その“結束バンド”の1stアルバム『結束バンド』も発売され、音楽面でも高い評価を受けている。
この日は、メイン・ボーカルの長谷川育美(喜多郁代役)を中心に、青山吉能(後藤ひとり役)、鈴代紗弓(伊地知虹夏役)、 水野朔(山田リョウ役)という声優陣が登場し、生バンドをバックに結束バンドの楽曲を披露するというファンにとって待望のイベントであり、チケット発売直後に即完売したというだけあって、大入り満員の会場は開演前から凄まじい熱気で溢れていた。
『結束バンド』の“全楽曲”を生演奏で披露
さて、いよいよライブが開幕。本日の演奏メンバーである、生本直毅(g)、五十嵐勝人(g)、山崎英明(b)、石井悠也(d)が暗転したステージへ入場すると、一発目からインスト演奏をくり広げ始めた。
突き上げるようなロック・ビートに始まり、G&LのASAT Classicを使って鋭いバッキングでアンサンブルに切り込んでいくのは、リズム・ギターの五十嵐。喜多郁代のギター・パートを担当するのが彼だ。
それに続くように、豪快なギター・ソロを聴かせるのはリード・ギター兼バンマスである生本で、この日は後藤ひとりのパートを担い、ギブソン・レス・ポールで骨太なサウンドを轟かせた。
インスト演奏の途中で、本日のメイン・ボーカルである長谷川が登場し、そのまま1曲目「ひとりぼっち東京」がスタート。会場は一気に大歓声に包まれた。チャーミングでありながらもロック・テイストをまとった長谷川の歌声と、徐々にドライブ感を高めていくアンサンブルとの相性はバッチリだ。
続いて、切れ味抜群のリフからスタートする「ギターと孤独と蒼い惑星」。劇中のバンド・サウンドが見事に再現され、サビ後のテーマ・リフやギター・ソロではどっと声が湧き上がる。結束バンドが単にアニメとしてだけでなく、純粋にロックとして楽しまれている光景が見受けられた。
“ここからは明るく元気に”という長谷川のMCのあとは、パワー・コードによるパワフルなバッキングでスタートする「ラブソングが歌えない」に始まり、「Distortion!!」や「ひみつ基地」などのキャッチーな楽曲を聴かせてくれた。
そして、長谷川が一旦退場する代わりに登場したのは、山田リョウ役の水野朔。彼女がボーカルを務めた「カラカラ」を披露。
冒頭から炸裂するイントロでは、変拍子に乗せたテクニカルなギター・ワークを自在に紡いでいく。マスロックやポスト・ハードコアをも彷彿させるアグレッシブで技巧的なアプローチがクールだ。
アニメ本編バージョンの再現に会場が沸く!
ステージは後半へ。MCを挟んだあと、幽玄なアルペジオに始まり、高揚していくハードなインスト演奏がくり出される。次の曲は何かと期待を膨らませているところに、「あのバンド」へ突入した。なんと、アニメ本編の第8話で後藤ひとりが独演するギター・ソロをそのまま再現! サイケな妙味も感じるオルタナ然とした轟音ギターや、ドライブ感を表現するように詰め込まれたチョーキングの嵐など、キッズの心をくすぐるプレイはなんともたまらない。
その後、しとやかなアルペジオが染み入る「小さな海」のあと、今度は伊地知虹夏役の声優、鈴代紗弓がステージへ登場。アニメ本編のEDテーマの1つ「なにが悪い」をスタート。持ち前のハイトーン・ボイスで、キャッチーなポップ・チューンを高らかに歌い上げる。
ここでボーカルは長谷川に戻り、新曲「青い春と西の空」を初披露。今の季節にぴったりな爽やかなチューンだ。生本はこの曲だけ、ストラトキャスターへ持ち替えていた。全編をとおして透き通ったトーンを聴かせ、ソロではアームを駆使して熱を帯びたプレイをかます。アルバム収録曲とはまたひと味違ったサウンドスケープを提示しており、結束バンドの新たな一面を垣間見た。
続いて、アニメ本編第12話の劇中曲「忘れてやらない」。ここで改めてバンド・メンバーが紹介された。名前が呼ばれると、五十嵐は歯切れの良いカッティングを、生本はトリルやチョーキングなどを駆使した縦横無尽なソロを聴かせ、大歓声が湧いていた。
その流れのまま、同じく本編第12話の「星座になれたら」。ワウを効かせた軽快なカッティングが心地良い。そして楽曲中盤では、劇中バージョンの喜多郁代&後藤ひとりのギター・パートが演奏された。喜多のパートにあたる、ジャキッとしたサウンドによる明快なバッキングを五十嵐が披露すると、続いて生本が後藤パートの滑らかなスライド・ソロで明るく流麗なメロディを紡いでいく。劇中でもエモーショナルなシーンであっただけに、胸に迫る掛け合いだった。
ライブ本編のラストは、「フラッシュバッカー」。2本のギターによるアルペジオが美しく重なるイントロから始まり、徐々に高揚していく曲調と共に、豊潤なサステインを効かせながら感情的に轟くソロを堪能できた。
後藤ひとり役の青山による
アジカン名曲でのギター・ソロ!
長い拍手が続き、いよいよアンコール。なんと後藤ひとり役の声優、青山吉能がエピフォン・レス・ポール・カスタムを持って入場。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの名曲「転がる岩、君に朝が降る」を青山自身が歌いながら弾いてみせたのだ。
さらに驚くは、弾き語るだけでなくギター・ソロまで披露していたこと。懸命に最後まで弾きこなすと、会場は大喝采が起こった。
昨年8月〜今年3月まで実施されていたアニメ連動YouTube企画「ギターヒーローへの道」でギターを練習していた青山だが、実は企画第2弾として2ヵ月ほどの期間で本曲のギターを練習していたそうだ。演奏後、その達成感を嬉しそうに実感しつつも、“見て! ヤバいんだけど!”と緊張で手が震えている様子を訴えかけていた。
ライブも終盤となり、新曲「光の中へ」を初披露。“光の中へ”というタイトルや歌詞の意味は、後藤ひとりがステージへ上がっていくことを連想させるもので、結束バンドが新たな境地へ到達しようとしていることを暗に示しているようだった。そして、疾走感の溢れるギター・フレーズの中には随所に絶妙なチョーキングを織り交ぜられ、その技巧が光るアプローチには後藤ひとりのギタリストとしての余裕すら感じた。
“まだ聴いてない曲、あるよね!?”という長谷川のMCで、ラストはアニメ本編のOPテーマ「青春コンプレックス」。冒頭の痛快なリフは会場にいる観客たちが口ずさむほど、すでに馴染みのあるフレーズとなっていた。
アンコールを含めてぴったり2時間。MCでは来春予定の“劇場総集編公開決定”が発表されるなど、盛りだくさんの内容だった。
また、どの曲にもギター的な見どころが詰め込まれており、そのスタイルも変幻自在……おそるべし、後藤ひとり。メディアミックスから生まれた経緯も含めて、現代の“ギター・ヒーロー”という在り方に新たな可能性を感じた。
もちろん、喜多郁代パートの歯切れの良いバッキングが、“結束バンド”の醍醐味であるエッジィでロックなテイストを加味してくれていることも忘れてはならないと感じた。
改めて、結束バンドの楽曲や編曲の良さ、ギター・サウンドのカッコ良さを見せつけられたライブだった。今後もリアルでのバンドの活躍に注目していきたい。
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