現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回の1枚は、初期ダンスホール・レゲエ・シーンで活躍したシンガーソングライター、バーリントン・レヴィの『ロビン・フッド』。ギターにはアール・チナ・スミスが参加。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年8月号より転載したものです。
ハードなリズムとスウィートな歌のコントラスト。無人島で聴きたいね。
8月ということで、今回は僕が好きなレゲエ・ミュージックでも紹介してみようか。
これはバーリントン・レヴィというシンガーの作品で、その美しい歌声から“メロウ・カナリア”なんて呼ばれている人だよ。70年代後半に“ダンスホール・レゲエ”というスタイルがジャマイカで生まれたんだが、そのシーンのごく初期にあたる作品がこのアルバムだ。
ダンスホール・レゲエというのは、簡単に言うと打ち込みなどを多用したクラブ・シーン寄りの音楽で、いわゆるルーツ・レゲエよりもテンポが速いのが特徴と言えるだろうね。
それでこのアルバムは、ジャマイカではわりと知られた“サイエンティスト”というダブのエンジニアによってミックスされている。彼の手腕によって、アルバムのリズムがかなりハードにキマっているよ。そのハード目なサウンドとコントラストをなすように、バーリントン・レヴィは実に美しく歌い切っているんだ。
彼はレゲエ音楽シーンを見渡しても特に特徴的な声を持った人でね。このアルバムでは実にスウィートかつイノセントに歌っていて、そこがたまらなく好きなんだ。歌っている歌詞の内容にもマッチしているしね。
ちなみにギター的には、オーソドックスな裏打ちのバッキングがメインで、たまにリード・ギターが入るぐらいだけど、カリッとした音作りが面白いね。まぁでも、聴きどころはギターじゃなくて、あくまでリズムと彼の歌に素晴らしさがあるよ。無人島に持って行きたいアルバムの1枚かな。