現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回の1枚は、アメリカのジャズ・ヴィブラフォン奏者、ロイ・エアーズが1988年にリリースした『ドライヴ』。ギターにチャック・アンソニーが参加した、ジャズ・ファンク・アルバムだ。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年9月号より転載したものです。
ロイ・エアーズ
『ドライヴ』/1988年
クラブ・シーンで評価の高い
都会派ジャズ・ファンク
アメリカのジャズ・ヴィブラフォン奏者=ロイ・エアーズのジャズ・ファンク・アルバム。アシッド・ジャズやレア・グルーヴ、クラブ・シーンで高く評価された隠れた名品だ。クロスオーバーやディスコの要素も混じりつつ、都会的にソフィスティケイトされたファンク感覚がクール。ギタリストはチャック・アンソニーが参加し、ソロにカッティングにギター鳴りまくり。
昔のクラブ・シーンを思わせるムード。僕もDJでかけるほど大好きだ。
今回は僕がDJをプレイする時にお気に入りのギター・ミュージックを紹介しよう。
僕はクラブ・ミュージックが好きで、中でも今ほどクラブ音楽の定義が固まっていなかった頃のものが最高なんだ。このロイ・エアーズのアルバムは、まさにそんな僕の琴線に触れた作品で、実際に僕もDJでよくかけているよ。
もしかしたら、かのラリー・レヴァン(DJ)が「パラダイス・ガレージ」(77年〜87年まで存在したマンハッタンのディスコ)でプレイしていたかもしれないし、ひょっとしたらシカゴでは、若き日のフランキー・ナックルズ(DJ)がこのレコードを夜な夜なプレイしていたかもしれない。そんな想像が膨らむ、ムーディで都会的なグルーヴを楽しめるよ。
ロイ・エアーズはアシッド・ジャズの父と呼ばれる存在で、「Everybody Loves The Sunshine」や「Running Away」といったトラックで知られている。このアルバムは80年代的なソフィスティケイトされた感覚があり、タイトなアンサンブルが聴きどころだ。ギターもかなりいい感じに鳴っているから、ギター・サウンドが好きな人にお薦めのダンス・ミュージックだね。
ただ、これはギター・プレイヤー向けのアルバムではないことを言っておく。あくまで、サウンドやフィーリングを楽しむミュージシャンのためのアルバムだよ。最後に入っている名曲「Chicago」を聴いて、ぜひ細かいプレイなどを抜きにムードを味わってほしい。
そういえばこれのジューク/フットワーク・リミックス(高速BPMの3連符リズムなどが特徴のシカゴのクラブ・ミュージック)を何年か前に聴いたことがあるけど、とてもクールだったね。
マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール
テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。