現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回の1枚はジャズ・シンガー、ジミー・スコットの『ザ・ソース』。1970年にリリースするも、契約問題で即回収されてしまったという幻の1枚だ。ギタリストにはビリー・バトラーとエリック・ゲイルが参加。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年11月号より転載したものです。
ジミー・スコット『ザ・ソース』
/1970年
声変わりをしていない
無垢な歌にとろけるジャズ作品
70年にリリースされるも、契約問題で即回収されたという幻のアルバム。ジミー・スコットは生まれつきの病気で声変わりすることがなかったため、その無垢な歌
声が美しく響くスローなボーカル・ジャズが堪能できる。ピアノやストリングスと調和するように甘く響くギターも素晴らしい。ギタリストはビリー・バトラーとエリック・ゲイルが参加している。
このアルバムを聴くと、シンプルにため息が出てしまうね。
ジミー・スコットは、時代を超越する最高のジャズ・シンガーの1人だ。
このアルバムを聴くと、シンプルにため息が出てしまうよね。声変わりを経ていない彼のボイスには心を突くものがある。歌い回しやフレージングも素晴らしくて、みんな聴くべきだよ。自分が何の楽器を弾くかなんてことに縛られず、優れたミュージシャンの妙技に耳を傾けるべきだ。特に、これを読んでいる君がミュージシャンならね。
この作品にはエリック・ゲイルが参加しているらしいけど、ギターが一番というわけではない。というか、彼が弾いているのを今の今まで知らなかったよ(笑)。でも、それで良いんじゃないかな。
このアルバムでエリック・ゲイルが残した素晴らしい仕事は何か? そう問われたならば、“僕が彼の存在に気づかなかったこと”だと答えたいね。すべてが音楽としてスッと僕の中に入ってくる、グレイトなサウンドだよ。
まあ、ギター・マガジン的には“このボーカリストがスゴイんだぜ!”なんて語られても肩透かしを食らうかもしれない。でも、アレンジメントだとか、ほかに聴くべきところはいっぱいある。そうやって音楽を楽しむのが僕は好きなんだ。それが一周回って、僕のギター・プレイに影響を与えてくれているよ。
そうなると、僕はもはやギタリストだとは言えないのかもしれないね。だとしてもかまわないよ。だってこのアルバムは、どう考えたって素敵だからさ。ギター・リフだけが際立っているような、つまらないアルバムとは違うんだ。
マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール
テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。