INABA/SALASの3rdアルバム『ATOMIC CHIHUAHUA』に伴う全国ツアー、『INABA/SALAS TOUR 2025 -Never Goodbye Only Hello-』が開催された。2020年の2nd『Maximum Huavo』リリース後のツアーはコロナ禍で中止になってしまったため、8年ぶりとなる2度目のツアーだ。最新作の楽曲だけでなく、スティーヴィー・サラス本人が再現するのは難しいと語るギター・アレンジに凝った2nd収録曲をライブで初体験できることも嬉しい。ここではツアー中盤にあたる2025年3月23日のLaLa Arena TOKYO-BAY公演の模様をレポートしたい。
文=鈴木伸明

ゴージャスなステージに響くエモーショナルなソロ
開演前のステージは紗幕で覆われており、2ndアルバム『Maximum Huavo』に収録された「CELEBRATION 〜歓喜の使者〜」が流れると、そのイントロに合わせて踊りながら登場するメンバーのシルエットが映る。
稲葉浩志とスティーヴィー・サラスの影が大きくなり、ディストーション・ギターがかき鳴らされてスタートしたのは「Burning Love」だ。幕が落とされると、そこにはギラギラに輝くゴージャスなステージ・セットがあり、1曲目から一気に会場はヒートアップ。スティーヴィーはワウを効かせたエモーショナルなギター・ソロを響かせた。
続く「U」、「Violent Jungle」と休む間もなく、ノリの良いナンバーでたたみ掛けてくる。抜けの良いギター・サウンドが心地いい。さすがにファンクの申し子だけあって、ワウ・ペダルのコントロールが絶妙で、エモーショナルなギター・フレーズに引き込まれる。手にしているのは、オール・ホワイト・フィニッシュのFramusのシグネチャー・モデル、Idolmakerだ。
短いMCを挟み、パープル&ブラックのIdolmakerに持ち替えてプレイされたのは、1st『CHUBBY GROOVE』(2017年)収録の「OVERDRIVE」 。ワウ・ペダルにより個性を際立たせたギター・ソロで見せ場を作る。
続く「Boku No Yume Wa」では、スイスのギター・ブランド、S71のカスタム・モデルを手にシャープなトーンを響かせた。左用のボディにフロイド・ローズが搭載されたギターで、アームによるビブラートで繊細なバッキング・プレイを展開。
次の「DRIFT」は、しっとりとしたピアノとギターのバッキングが絶妙で、ここでは白のIdolmakerのフロント・ピックアップを使用したクリーン・トーンが活躍していた。
ベース・ソロから始まったのは、ファンキーなグルーヴの「ERROR MESSAGE」。スティーヴィーはS71を駆使した切れ味の良いカッティングで会場を揺らしていく。

2人のつながりを象徴する20年前のソロ曲
パープル&ブラックのIdolmakerに持ち替えてスタートしたのは、稲葉のソロ曲「正面衝突」。2004年の『Peace Of Mind』に収録されているナンバーで、原曲にはスティーヴィーが参加しており、MVにも登場していた。
スティーヴィーは、この曲を2006年の自身のソロ作『BE WHAT IT IS』にて「Head On Collision」というタイトルでカバー。そこに稲葉はボーカルで参加している。20年以上にわたる2人のつながりを象徴する曲でもあり、息の合ったプレイの理由がわかる。
ハウリングを交えたスイッチング奏法のカオスを経て、途中からスティーヴィーのソロ曲「Do Your Own Thang」へ。1996年にスティーヴィー・サラス・カラーコード名義でリリースされた『Alter Native』収録の彼の代表曲で、2番は稲葉が歌いあげた。
再び「正面衝突」に戻って、狂熱のセッションは終了したが、このシーンは間違いなく今回のライブの1つの山場となっていた。
再びMCを挟んで、自粛期間中にお互いの自宅スタジオでのセッション動画が話題となった「IRODORI」を披露。この2nd収録の名曲も、ツアーが実現していなければライブで聴くことができなかったことになる。
ここからはステージ上は2人だけになって、アコースティック・コーナーが始まった。
スティーヴィーはテイラーのカスタム・モデルを手に美しいアルペジオをプレイして「ONLY HELLO part1」へ。ギターとボーカルだけでも見事な世界観を構築していく。
ブルース・ハープとギターだけのブルース・セッションを挟んで、稲葉のソロ曲「マイミライ」では一転、激しいコード・ストロークでのプレイ。アコースティック・ギターでも彼らしいロック感をしっかりと伝えていた。
ギター・リフの応酬が生み出す熱いステージ
メンバー紹介、スティーヴィーのパンキッシュなギター・ソロに続いて、「Demolition Girl」や「YOUNG STAR」と、後半戦はノリの良いナンバーが続く。
エッジの効いたカッティングからスタートする「Mujo Parade ~無情のパレード〜」は、ファンク・ギタリストの真骨頂とも言える切れ味を堪能できた。躍動するリズムに乗る稲葉の軽快なステップに引っ張られて、場内はさらにテンション・アップ。
続く「KYONETSU 〜狂熱の子〜」では、会場一丸となった手拍子で大きなクライマックスを迎えた。ピッキング・ハーモニックスを交えたリフの豪快さが白眉だった。
ザ・ポリス風のアルペジオが絶品の「EVERYWHERE」で大きなグルーヴを演出して、本編最後の「SAYONARA RIVER」はさらにヒートアップして、会場中が大きく手を振る光景が爽快だった。
アンコールの「AISHI-AISARE」では、銀色に輝くクローム・フィニッシュのIdolmakerが登場。指板のポジション・マークが光るステージ映えするギターを手に、豪快なリフの応酬で勢いを加速させる。
続く「TROPHY」では、全員一体となった合唱が起こった。
ラスト・ナンバーは「ONLY HELLO part2」で、スティーヴィーはスタンドにテイラーをセットして冒頭のアルペジオをプレイ、途中からは背中にかけたエレキ・ギターにスイッチするという技を披露した。スケールの大きなアレンジが耳に残るこの曲で会場の盛り上がりは最高潮に達し、最後はスティーヴィーのダイナミックなストロークでフィナーレを迎えた。
フェアウェル・ツアーになるかもしれないという事前告知もあったが、現役で走り続けている2人だけに、ブランクを感じさせる部分など一切なく、隙のないパーフェクトなステージを披露してくれた。
それぞれの本拠地での今後の活動にも大きな期待を寄せたいが、このタッグでの活躍も見せてほしい。そう期待せずにはいられないほど、胸に響く灼熱のライブだった。

作品データ

『ATOMIC CHIHUAHUA』
INABA/SALAS
VERMILLION RECORDS
BMCV-8074
2025年2月26日リリース
―Track List―
- YOUNG STAR
- EVERYWHERE
- Burning Love
- DRIFT
- LIGHTNING
- ONLY HELLO part1
- ONLY HELLO part2
―Guitarist―
スティーヴィー・サラス