2025年は34周年となるL’Arc-en-Cielが、2年半ぶりとなる東京ドームでのライヴ”L’Arc-en-Ciel LIVE 2025 hyde BIRTHDAY CELEBRATION -hyde誕生祭-“を開催した。1月29日に誕生日を迎えるhydeが「“ワガママ”にL’Arc-en-Cielをプロデュースする」という、いつもとは趣の異なった公演となった。kenのギタープレイにも注目しつつ、2日目となる1月19日のレポートをお届けしよう。
取材/文=鈴木伸明 ライヴ写真=Toshikazu Oguruma、Yuki Kawamoto、Hiroaki Ishikawa、Tetsuya Matsuda
バンドアレンジの中をなめらかに躍動していくギターフレーズ
ステージ上の巨大LEDスクリーンが真っ赤に染まり、34年を意味する「X X X i V」の文字が浮かび上がる。そこから白を基調にしたhydeの誕生を示唆するような美しい映像が流れたと思いきや、場面は一転、ガラスを頭突きで叩き割り、上半身裸のhydeが飛び出してくるというインパクトの強い映像でライヴはスタートした。
オープニングは「DRINK IT DOWN」。ダークなテーマメロディとゴリゴリのギターサウンドが融合したイントロで、客席のテンションは一気にあがる。kenが手にしているのは、ハムバッキングを2発搭載して、黒と濃紫に塗装されたハードテイルのフェンダーのプロトタイプだ(以下:HHプロトタイプ)。赤く照らされたステージに妖艶なヴォーカルが流れる「X X X」、デジタルビートを切り裂くギターのリフが見事な「CHASE」と、バンドのダークな魅力が詰まったナンバーを立て続けに披露して、場内の空気をひとつにまとめていく。

ここからkenは、シグネチャーモデルであるホワイトのExperiment #1に持ち替えて、伸びやかなロングトーンが印象的な「fate」へ突入。歌のバックでは、ペグとナット間をピッキングした効果音を絶妙なタイミングで入れていく。クランチ気味のカッティングでスタートした「花葬」では、フロントピックアップを使ったロングトーンのテーマを響かせた。
“Experiment #1”をプレイする時は、ワイアレスではなくシールドケーブルを使用していた。この曲のように単音バッキングでの繊細なニュアンスのトーンを生み出すためのこだわりかもしれない。
幻想的なムードで導き出された「EVERLASTING」では、kenの指弾きによる繊細なバッキングに加えて、tetsuyaもゼマイティスの12弦ギターをプレイしてアルペジオを響かせるなど、ギターの見せ場が続いていく。

HHプロトタイプに持ち替えての「接吻」では、ワイルドなコードカッティングで曲を先導して、アグレッシヴなギターソロを展開。kenは花道を通ってセンターステージへ進み、そのままソロコーナーへ突入した。緩急をつけたメロディアスなフレーズでひとつのドラマを作っていく。東京ドームの中心に立ち、ギター1本だけで全観客を沸かせる勇姿は痛快だ。

kenが花道から戻ると続けてtetsuyaのベースソロのコーナーに突入した。歪ませたベースサウンドでハウリングを起こし、独自のワールドを構築したまま「In the Air」へ流れ込んだ。黒のフレアコートから白いワイシャツ&ネクタイに着替えたhydeが、フラッグを振り回しながらセンターステージに出てtetsuyaと並んで歌い上げる。この光景を期待していたファンは多かったに違いない。

軽やかなピアノのイントロから始まった名曲「the Fourth Avenue Café」でステージはさらに華やかになっていく。kenのエモーショナルなギターソロ、緩急をつけたバッキングで曲に彩りを加えていくさまが印象的だ。続いてhydeがギターを抱え、歌い出した瞬間に会場が大きく揺れた。絶対の名曲「HONEY」だ。コーラスワークからワウを駆使したギターソロへとkenの見どころが多いのもポイント。単なるコードプレイではなく、フレーズを弾きながら曲を盛り上げる完成度の高いバッキングに改めて聴き入ってしまった。
ピアノのイントロからゆったりと歌い上げていく「いばらの涙」では、開放感のあるギターソロを放ち、炎の映像と火柱の演出でスタートした「Shout at the Devil」ではワウを駆使したフレーズを奏でた。バンドアレンジの中をなめらかに躍動していくギターフレーズが心地よい。

最上級の演奏で彩ったバースデイパーティ
短いインターバルのあと、センターステージでのスペシャルコーナーが始まった。「真実と幻想と」のイントロのピアノが鳴り出すが、そこに絡む決めのギターフレーズがプレイされないまま曲は進んでいく。のちのMCで、ギターにピックが挟まったままチューニングしてフレーズが弾けなかったとのこと。前日のライヴではhydeが「CHASE」の途中でミスをしたことがニュースになっていたが、「人のふり見て我がふり直せ」と笑顔で語っていたhydeが微笑ましかった。誰かにトラブルがあってもそれを補ってライヴを進行していく。こんな場面にも、長年4人で積み上げてきたバンドの絆の強さを感じることができた。
なお、センターステージでkenが手にしていたのはPaisley Fantasy。曲の中でもピックアップセレクターやボリュームを細かくコントロールして絶妙なトーンを作り出す。冒頭のトラブルの借りを返すかのように、エンディングでは熱くエモーショナルなフレーズを轟かせた。

誕生祭の特別イベントとして、観客全員でのクラッカーのお祝いが行われた。その後、祝福ムードが充満する中で演奏されたのは、オルガンの音色に乗ってしっとりと歌い出す珠玉のバラード「雪の足跡」。滑らかに音をつないで抑揚を生み出すギターソロも見事だった。メインステージに戻り、エンディングまではギアを上げて一気に突き進んだ。
最新曲「YOU GOTTA RUN」では、サステインの効いたコードアルペジオがスリリングに曲を前進させていく。大きなバルーンが舞い、割れると中から小さな風船が飛び出すという演出も盛り上げに一役買っていた。花火とともに「Caress of Venus」へ。メロディアスなギターソロ、効果的にディレイをかけたバッキング、ユニバイブで揺らしたギタートーンが曲の表情を豊かにしていく。「READY STEADY GO」ではメンバーそれぞれが左右いっぱいに動きまわり、kenはステージ袖の先端でギターソロを決める。強力なグルーヴが渦巻き、興奮は絶頂へ。

ラストの「あなた」では、hydeの甘美なヴォーカルラインとkenの絶品のアルペジオの絡み合いがクライマックスに向かって熱を帯びる。hydeはサビを観客に任せて、大勢の歌声が降り注ぐ中で横たわる場面も。ラストは「ハッピーバースデイトゥーユー」のメロディをバンドで奏でて、約3時間のパーティは幕を閉じた。
全体の演出が見事だったことは言うまでもなく、ギターだけに注目しても、楽曲ごとに繊細にトーンを調整したダイナミクスの効いたプレイが秀逸で、存分に楽しめた。kenとtetsuyaから花束とプレゼントをもらったhydeは、笑顔で観客に何度もお礼を述べていた。色褪せない楽曲と最上級の演奏に満たされた極上のバースデイパーティを楽しんだファンは、満足げな表情を浮かべて東京ドームをあとにした。来年は35周年を迎えるL’Arc-en-Cielが、この次にどんな一歩を踏み出すのか、期待して待っていたい。
