今回は分数コードを含むコード進行をいくつか紹介します。
文・図版作成=ギター・マガジン編集部
前回は数ある分数コードのうち、比較的よく使われるタイプのものを紹介しました。しかし分数コードは、それ単体で弾いてみても一体何の役に立つのかがわかりにくいものです。
そこで今日は、コード進行の中で分数コードが使われた例をいくつか紹介します。
例1:三和音の転回形である分数コードを使った例
まず、三和音の転回形である分数コードを使った例を示しましょう。
次の指板図は「パッヘルベルのカノン」のコード進行です。ギターで弾きやすいようにキーをCに変え、C-G-Am-Em-F-C-F-Gという進行にしています。ここではまだ分数コードは出てきません。
※「パッヘルベルのカノン」は、バロック時代の曲ですが、このコード進行やこれを少しアレンジしたものは、今のポップスにもよく使われています。また、この曲をロック・ギター・インストにアレンジした「カノンロック」がWEBで広まったため、ロック・ギター・ファンにも広く知られるようになりました。
上の図のコード進行からベース音(ここでは「一番低い音」という意味です)の動きのみを取り出したのが次の図です。5弦3フレットのC音を起点にして、①→②→③→④→⑤→⑥→⑦→⑧の順で移動していきます。5弦と6弦をわりとジグザグに動くことがわかっていただけると思います。
さて、この「パッヘルベルのカノン」のコード進行に分数コードを取り入れたものが次の例です。Gの代わりにG/B、Emの代わりにEm/G、Cの代わりにC/Eを使い、さらに最後から2つめのFをDm7に変更しています。
このコード進行のベース音の動きのみを取り出したのが次の図です。
分数コードを使った結果、ベース音がC-B-A-G-F-E-D(ド-シ-ラ-ソ-ファ-ミ-レ)と滑らかに下降するようになりました。
※ギターのチューニングの関係上、C/EからDm7の部分はベース音が6弦開放から4弦開放の高い音に跳ぶので、ここだけは下降とは言えませんが…。
また、この例におけるG/B、Em/G、C/Eは、すべて三和音の転回形です。
※C/EとG/Bは、コードの構成音にもともと含まれる3(長3度)を、Em/Gは♭3(短3度)を、それぞれベース音に持ってきたものです。
最後から2つめのDm7はFのままでもかまわなかったのですが、ベース音の流れを極力なめらかにするためにDm7にしてみました。なおDm7はF/Dと表記してもよかったかもしれません。Dm7とF/Dの構成音は同じだからです。
例2:四和音の転回形である分数コードを使った例(その1)
次に、四和音の転回形である分数コードを使って、ベース音の動きを滑らかにした例を紹介します。
次の図はC-C7-Fというよくあるコード進行です。分数コードは使っておらず、ベース音はCが2回続いてFに進むようになっています。
次の図は、C7の代わりにC/B♭を、Fの代わりにF/Aを使うことにより、ベース音がC-B♭-Aと滑らかに下がっていくようにしたものです。
C/B♭はC7という四和音の構成音の中の♭7(短7度)をベース音に持ってきたものです。コード名をC7/B♭と書いてもかまいません。
なおF/AはFの構成音に含まれる3(長3度)をベース音にしたもので、つまりは三和音の転回形です。
例3:四和音の転回形である分数コードを使った例(その2)
マイナー系の分数コードを使ったコード進行例も1つ示しておきましょう。次の図は、Am-Am△7-Am7-Am6というコード進行を、すべてロー・コードで弾いた例です。
基本的にはコードはAmで、その中で、A(3弦2フレット)-G♯(3弦1フレット)-G(3弦開放)-F♯(1弦2フレット)という、特徴的な音の動きがあります。これは「クリシェ」(*)の一種です。ベース音は、4つのコードを通じてAのまま、まったく動きません。
※【クリシェ:cliche】
同一のコードが連続している部分に装飾的に加えられる慣用的なラインを指し、作・編曲上の技法の1つとされる。コード自体を変化させるものではなく、同じコードの中で半音または全音によるスムーズなラインを設定し、それによって同一コードの連続による退屈さからの脱出を図るもの。
(書籍『ハンディ版 音楽用語事典』より)
そして次の図は、A-G♯-G-F♯という音の動きをベース音にしたものです。ベース音が半音ずつ下がるラインになるため、面白味が出てきます。
なお、Am/G♯、Am/G、Am/F♯は、それぞれAm△7、Am7、Am6といった四和音の転回形なので、コード名をAm△7/G♯、Am7/G、Am6/F♯にしてもかまいません。
例4:テンション・コードの代わりとしての分数コードを使った例
前回は、分数コードを次の3つに分類しました。
- 三和音の転回形
- 四和音の転回形
- その他
このうちの「三和音の転回形」と「四和音の転回形」を使ったコード進行は、今見ていただいた通りです。
そして前回は「その他」の例として、C/DとAm/Dの2つを挙げました。前回はほとんど説明しませんでしたが、この2つに関しては、D7を元にしたテンション・コードを分数コードの形で表記したもの、ととらえてみて下さい。そうすると使いどころも見えてくるようになります。
まずC/Dですが、この分数コードを「Dをルートとしたコード」と解釈して名前を付けると、D7(sus4,9)になります。sus4を1オクターブ上の11とみなして、D7(9,11)でもよいでしょう。
Am/Dを「Dをルートとしたコード」と解釈して名前を付けると、D7(9,omit3)になります。
*omit3は省略してD7(9)でもよいかと思います。
要するに、C/DやAm/DはD7の親戚のようなもので、コード進行においても、ふつうはD7やD7sus4がハマるようなところに使えることが多いのです。実際に使えるかどうかは前後のコード次第ですが、ここでは思い切り説明をはしょらせていただき、実例を1つ挙げることにします。
次の図は、C-D7-Gという、Gのキーでよくあるコード進行です。
そして次の図は、D7の代わりにC/Dを使った進行です。
D7とC/Dは、それ単体で比べるとけっこう響きの違うコードですが、このコード進行の中では、わりとどっちでも良いような気がしませんか? D7と比較するとC/Dはやや浮遊感が漂うとは思いますが、曲によってはC/Dのほうがオシャレになったりします。
なお、Am/Dは、Am-D7-Gというコード進行において、D7の代わりによく使われます。またAm7-D7-G△7のように四和音が主体となったコード進行の中では、D7の代わりにAm7/Dがよく出て来ます。
以上、舌足らずな説明ですみませんが、ポイントは、分数コードはしばしば、複雑なテンション・コードを簡単に表記するために使われるということです。
たとえば同じコードでも「D7(sus4,9)」と書くのと「C/D」と書くのとでは、「C/D」のほうがパッと見わかりやすいですし、ギタリストにとっては「Cコードを押さえてから、ベースだけDにすればよい」ということで、フォームも見つけやすいはずです。
例5:ペダル・ノートを維持した結果、分数コードになったもの
さらに分数コードには、ペダル・ノートを維持した結果、分数コードになっちゃったもの、というのがあります。
次の図は、A-E-D-Aというごく単純なコード進行です。
そして次の図は、どのコードにおいてもベース音を5弦開放のA音に固定したものです。結果的にA-E/A-D/A-A、というコード進行になっています。ついでに2、3、4弦が、それぞれ全音や半音で下がっていくようなフォームにしています。また、この場合の固定されたA音をペダル・ノートと呼びます。
ベース音をAに固定した結果、E/AとD/Aというふたつの分数コードができました。このうちD/Aは三和音の転回形ですが、E/Aは一体何なのでしょうか?
E音をルートとしてコード名をつけるとEadd11となりますが、感覚的にはどうにもこうにもEadd11の転回形とは思えない響きです。
一方、Aをルートとするとコード名はA△7(9,omit)になりますので、テンション・コードを分数コードで表記したもの、と言えなくもないのですが、やはり感覚の上では、ここでのE/AがA△7の親戚的なコードであるとも思えません。
ということで、ここはあまり深く考えず、「ペダル・ノートを維持した結果として生じた分数コード」ということで良いのではないでしょうか。
今日はここまでです。分数コードの使い方はまだまだ多様なものがありますし、分類の仕方も人それぞれかもしれません。ただ、この先分数コードに出会った時、今回の内容を思い出していだだければ、わりと簡単に理解できるのではないかと思います。
さて、第6回目の「コードの構成音一覧」からは、コードの構成音をテーマとし、三和音、四和音、テンション・コード、omit3・add9・sus4、そして分数コードと、順に説明してきました。コードの構成音について解説する回はここで一旦終了となります。
次回のテーマは「コード・フォームは平行移動で覚えよう」を予定しています。
本講座の関連コンテンツ
指板図くんのギターコードブック
コード名を選ぶと指板図が表示されて、音も鳴らせる便利なWEBアプリ。弦を押さえる指の指定やコードの構成音も表示されるので、初心者には特にお薦めです。チューニング・モードもあり!
https://guitarmagazine.jp/guitarchordbook/
*本アプリはスマートフォン、タブレット、パソコン全対応です。
作ろう! マイコードブック
自分独自の指板図やコードチャートを自由に作れる多機能なWEBアプリ。音声機能、自動演奏機能、印刷機能、画像化機能も備え、ギター・コードの学習から、作曲、DTMまで、幅広い用途で役立ちます。
https://guitarmagazine.jp/mychordbook/
*本アプリはパソコン推奨です。
初心者だって大丈夫! コードが自分で作れちゃう! 指板図くんのギター・コード講座
本講座を書籍化した本です。オールカラーで144ページ。電子書籍もあります。
【CONTENTS】
◎コードとは?コード進行とは?
◎Cの構成音と、いろいろな押さえ方
◎C6、C7、C△7の構成音と、いろいろな押さえ方
◎Cメジャー・スケールを覚えよう
◎ルートとは?度とは?
◎コードの構成音一覧
◎三和音とは?
◎四和音とは?
◎テンション・コードとは?
◎omit3とは?add9とは?sus4とは?
◎分数コードとは?
◎続・分数コードとは?
◎コードは平行移動で覚えよう
◎続・コードは平行移動で覚えよう
◎フレット数の書かれていないコード・ブック
◎続・フレット数の書かれていないコード・ブック
◎コード・フォームを自分で作る
◎続・コード・フォームを自分で作る
◎自分独自のコード・フォームを作る
◇巻末スペシャル:Fコードの押さえ方と攻略法
◇付録:いろいろ確認できる4つの指板図!