今回は、トニック、サブドミナント、ドミナントについて説明します。これらはコード進行というものを理解する上でとても役立つ概念です。
文・図版作成=ギター・マガジン編集部
はじめに
トニック(tonic)、サブドミナント(subdominant)、ドミナント(dominant)という用語は、コード進行についての説明が載っている教則本や音楽理論書には必ずといってよいほど登場します。これらについて本講座では初心者向けに、またなるべく感覚的に説明したいと思います。
まず用語の意味を知る前に、ギターを持って次の3つの単純なコード進行を弾いてみて下さい。
- C → F → G7 → C
- C → G7 → C
- C → F → C
ロー・コードの指板図も示しておきましょう。
この3つはどれもCで始まりCで終わるコード進行になっています。最後のCでは「着地した感じ」あるいは「元に戻ってきた感じ」、「終わった感じ」が出ると思います。
次に、今の3つのコード進行の最後のCを弾かずに、その手前のFやG7で止めてしまう、ということもやってみて下さい。
- C → F → G7
- C → G7
- C → F
これらはおそらく「宙に浮いたままの感じ」、「元に戻っていない感じ」、「終わっていない感じ」がするはずです。
ここで紹介したコード進行はごくシンプルなものですが、これらにトニック、サブドミナント、ドミナントを理解するためのエッセンスが入っています。それぞれのコード進行から受けた音の印象を覚えておいて下さい。
トニック、サブドミナント、ドミナントとは?
さて、コード進行の中に置かれたコードは、機能別にトニック、サブドミナント、ドミナントのいずれかに分類できます。先ほどのコード進行でいえば、Cはトニック、Fはサブドミナント、G7はドミナントです。
ではそもそもトニック、サブドミナント、ドミナントとは一体何なのでしょうか? いつものように『ハンディ版 音楽用語事典』(現在は絶版)から引用します。
トニック【tonic】
キー(調)の基礎となるスケール(音階)の出発点にあたる音で、主音といわれる。それ以外の音に対する支配力を持ち、トーナリティ(調性)の確立の基礎となる。また、トニック・コードの意味で使われることもある。
サブドミナント【subdominant】
トーナリティ(調性)の基盤となるスケールの第4音を指し、隣り合わせた第5音(ドミナント)に次ぐ主要な音とされる。サブドミナント・コード(下属和音)の意味で使われることもある。
ドミナント【dominant】
スケール(音階)の5度上の音を指し、トニック(主音)に次いで、調性の確立にとって重要な音とされる。
※実際の『ハンディ版 音楽用語事典』で「ドミナント」は、和名の「属音」の項目で解説されています。
以上の解説がすべて理解できなくても、とりあえずスケールの第1音がトニック、第4音がサブドミナント、第5音がドミナント、と覚えて下さい。Cメジャー・スケールでは、ドがトニック、ファがサブドミナント、ソがドミナントにあたります。
またトニック、サブドミナント、ドミナントという言葉が、実際には「トニック・コード」、「サブドミナント・コード」、「ドミナント・コード」を意味している場合も多いです。本講座でこれらの用語を使う時も、基本的にはコードのほうを指していると思って下さい。
キー=Cのダイアトニック・コードで言えば、CとC△7はトニック・コード、FとF△7はサブドミナント・コード、GとG7はドミナント・コードになります。
さて、トニック、サブドミナント、ドミナントは、それぞれ次のような性格を持ちます。
- トニック=安定している。
- サブドミナント=やや不安定であるが、ドミナントほどには不安定でない。
- ドミナント=不安定である。
ここで1つ注意してほしいのは、そのコード単体(C、F、G7)を鳴らした時にその響きが安定しているかいないかという意味ではない、ということです。コード進行の中において、そのコードがどのような印象をもって聴こえるか、という意味です。ですから、今の3行を言い換えると次のとおりになります。
- CのキーにおけるC(トニック)は安定している。
- CのキーにおけるF(サブドミナント)はやや不安定であるが、G7ほどには不安定でない。
- CのキーにおけるG7(ドミナント)は不安定である。
この安定、不安定という言いまわしは、筆者が昔読んだ音楽理論書でよく目にしてきたものなのですが、わかりにくい部分があるかと思いますので、別の言い方もしてみましょう。
- トニックには「着地感」がある。
- サブドミナントとドミナントには「着地感」がない。
まずこの2つに分類してしまいます。トニックには「着地感」がある、というのは、コード進行の中でトニックが出てくる部分には「着地した感じ」、「元に戻ってきた感じ」、「終わった感じ」がある、という意味です。またサブドミナントとドミナントには「着地感」がない、というのは、これらのコードの時には「宙に浮いたままの感じ」、「元に戻っていない感じ」、「終わっていない感じ」がする、という意味です。
そしてサブドミナントとドミナントの違いは、筆者は次の感覚でとらえています。
- サブドミナントからトニックに進むと、着地感がある。
- ドミナントからトニックに進むと、より強い着地感がある。
……まだわかりにくいですね。。
滑り台のたとえによるコード進行解説
そこでトニック、サブドミナント、ドミナントを滑り台に例えてみます。
- トニック=地面
- サブドミナント=滑り台の階段
- ドミナント=滑り台の踊り場
トニックは地面にあたります。地面に立っている時、人は一番安心でき、安定しているわけです。
サブドミナントは滑り台の階段にあたるもので、地面よりも少し高いため少し不安感をおぼえます。
ドミナントは滑り台の踊り場にあたるものです。階段よりもさらに高い位置にあるため、より不安を感じますし、「着地感」からはもっとも遠いところにあります。小さい子供ならば、ここで泣いてしまうほどスリリングな場所でもあります。
以上を踏まえて、今日の最初に提示した3つのコード進行を解説します。
C→F→G7→C(トニック→サブドミナント→ドミナント→トニック)
C→F→G7→Cというコード進行は、トニック→サブドミナント→ドミナント→トニックという動きです。
最初は地面(トニック)にいて、次に階段(サブドミナント)を昇って踊り場(ドミナント)に立ち、一気に滑り降りて地面(トニック)に着地します。高いところから一気に降りるので、強い「着地感」が得られます。
C→G7→C(トニック→ドミナント→トニック)
C→G7→Cは、トニック→ドミナント→トニックという動きです。
これは地面にいた少年が、階段を経由せずに踊り場に飛び乗り(実際の滑り台では無理!というツッコミはなしでお願いします……)、すぐに地面に戻ることにたとえられます。ドミナントからトニックへの動きは、先ほどの例と同じく強い「着地感」が得られます。
C→F→C(トニック→サブドミナント→トニック)
C→F→Cは、トニック→サブドミナント→トニックという動きです。
地面にいた少年が階段に上るのですが、踊り場には行かず、すぐ地面に戻ることに例えられます。階段(サブドミナント)から地面(トニック)に降りたことで「着地感」はありますが、踊り場(ドミナント)からスロープを滑って地面に着いた時ほどの強い着地感はありません。
サブドミナントまたはドミナントで終わるコード進行
今回の本講座の最初に、コード進行の最後のCを弾かずに、その手前のG7やFで止める、ということをやっていただきました。
- C → F → G7
- C → G7
- C → F
これらは、サブドミナントあるいはドミナントという、「不安定な」コードでコード進行を終えた場合に、どんな感じがするかを体験していただくためのものでした。滑り台のたとえで言えば、踊り場か階段に取り残された状態なので、なんとも落ち着きが悪いはずです。
こうした理由から、多くの曲のコード進行は、サブドミナントやドミナントではなく、トニックで締めるものになっています。
しかし、サブドミナントやドミナントの「落ち着きの悪さ」を逆に利用した曲もあります。有名なところではサザンオールスターズの「いとしのエリー」。あの曲のエンディングの最後のコードはドミナントで、トニックに進まないまま終わります。それがかえって、自分ひとりが取り残されてしまったかのような、物語にまだ続きがあるような、不思議な余韻となって耳に残ります。秀逸なエンディングですね。
……滑り台のたとえ、ピンときたでしょうか? 滑り台ではなく別のものに例える人も多いですし、言い回しも人それぞれです。その辺はギター教則本や音楽理論書を見て、自分にしっくりくる説明を探してみて下さい。
次回もトニック、サブドミナント、ドミナントをテーマにします。
本講座の関連コンテンツ
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【CONTENTS】
◎コードとは?コード進行とは?
◎Cの構成音と、いろいろな押さえ方
◎C6、C7、C△7の構成音と、いろいろな押さえ方
◎Cメジャー・スケールを覚えよう
◎ルートとは?度とは?
◎コードの構成音一覧
◎三和音とは?
◎四和音とは?
◎テンション・コードとは?
◎omit3とは?add9とは?sus4とは?
◎分数コードとは?
◎続・分数コードとは?
◎コードは平行移動で覚えよう
◎続・コードは平行移動で覚えよう
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