ZEN-ON(全音)ZES-120長野が生んだビザール名器|週刊ビザール・ギター ZEN-ON(全音)ZES-120長野が生んだビザール名器|週刊ビザール・ギター

ZEN-ON(全音)ZES-120
長野が生んだビザール名器|週刊ビザール・ギター

個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今週は、のちにモラレスで広く知られることになる全音から、初期モデルの血を受け継いだZES-120をご紹介しましょう。ヘッドの2トーンもレトロな雰囲気で、配色もクラシカルな印象の愛くるしい本モデル。独特なコントロールで得られる音色は幅広いんです!

文=編集部 撮影=三島タカユキ 協力/ギター提供=伊藤あしゅら紅丸 デザイン=久米康大

ZEN-ON ZES-120

ZEN-ON/ZES-120

レトロなサウンドのピックアップ

愛らしい形状、クールな配色など、現代においても魅力的に映るこのZES-120。当時の販売価格は12,000円。手がけたのは株式会社全音ギター製作所である。
ただ、全音の歴史は複雑でここに詳しく書き記すのは難しい。そのため今回は簡単な沿革だけご紹介しよう。

株式会社全音ギター製作所が発足したのは、1954年5月。しかしその歴史は“辰野木工”という長野県辰野町にあった工房から始まる。

辰野木工は家屋建築のほか家具、建具、農機具などを製造していたが、戦後間もない1946年にギター作りに着手する。その後、一部の従業員が新興楽器製造株式会社として独立し、本体は“林楽器製造”として再編成することに。この林楽器は1952年、経営難により新興楽器に吸収合併されてしまう。

林楽器の専務であった栗林国男氏はギター製作の情熱を捨てきれず、有志を募って五十鈴楽器製造を立ち上げたが、設立2年で工場閉鎖を余儀なくされた。これを救ったのが全音楽譜出版社の島田貞二社長で、ここに全音ギター製作所が生まれたのだ。

発足当時の全音は、クラシック・ギター、ウクレレ、マンドリンの製造がおもだったが、1962年頃からエレキ・ギターの開発を始め、1963年にエレキ・ギターを発売することになる。

今回紹介するZEN-ONのZES-120は、全音初のソリッド・ギターとして1963年に国内発売された3機種のうちの1本、ZES-1400Dの直系モデルだ。1400Dから120へと改称されたのは1965年頃。

当時、羨望の的だったフェンダー・ジャズマスターの流れを組むオフセット・シェイプ・ボディだが、はるかに小型なスチューデント・サイズだ。ヘッドは6ペグ・インラインだが、複合曲線を取り入れた特徴的な形でスタウファー・マーティンにも似ており、これが2トーンに塗り分けられている(当時の国産自動車もアメリカからやや遅れて2トーンが流行っていた)。

ヘッド
2トーン・カラーの配色もGOOD!

コントロールは4スイッチ&3ノブで、ボディ6弦サイドにある4つの“シーソー・スイッチ”はネック側からブリッジ側に向かって、
・フロント・ピックアップのオン/オフ
・リア・ピックアップのオン/オフ
・クリア/ソフト切替
・ソロ/リズム切替

という構成。

3つのノブはリア・ピックアップに近いものから順に
・フロント・ピックアップ・ボリューム
・リア・ピックアップ・ボリューム
・マスター・トーン

となっている。

ピックアップ
4つのシーソー・スイッチとピックアップ。

ピックアップは1400Dがアクリル・カバーのシングルコイルだったのが、120になり金属カバーのハムバッカーに変更された。これはおそらく自社製ではなく、当時のパーツ供給メーカー製(ミツヤあたりか?)と思われ、高域の抜けはイマイチだが、ツボにはまるとレトロなサウンドを奏でてくれる。

そして本器が発売されたすぐあとの1967年、全音はモラレスというブランドがヒットを飛ばすのだが、それはまたの機会にお話しよう。