個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今週は、東海楽器が興した初のエレキ・ギター・ブランド=ハミング・バードから、尖りまくった姿勢が表出したかのような曲線美を持つ、100Sをフィーチャー!
文=編集部 撮影=三島タカユキ 協力/ギター提供=伊藤あしゅら紅丸 デザイン=久米康大
Humming Bird 100S
モズライトを独自解釈した曲線美!
戦後間もない1947年に、ピアノとハーモニカの研究開発を目的に設立された東海楽器研究所(のちの東海楽器株式会社)。1961年に鍵盤ハーモニカ=“ピアニカ”を発売し波に乗ると、1964年に新工場を設立しさらなる成長を目指す。そこで目をつけたのがギターだった。
東海がギター作りを始めたのは1965年で、当時の“エレキ・ブーム”を横目に見ながら、まずはその技術の地盤を固めるためにクラシック・ギターを作り続けたのだ。
そしてその生産工程が安定した1967年、エレキ・ギターの研究を始め、同年11月14日に初のエレキ・ギター・ブランドとして“ハミング・バード”の名を冠したモデルが発売された。
この“ハミング・バード”という名前は、実はピアニカのブランドとして用意されていたものだそう。
ハミング・バード発足時の機種は190Sと230S。特に230Sはファズ回路を内蔵させたモデルで話題となった。
今回紹介するハミング・バード100Sは、1968年に普及モデルとして生産が始まったラインナップのうちのひとつで、同時期に発売された中でも75Sに次いで安価なモデルだった。当時の価格は10,000円。
上位モデルの200Sより小柄なボディで、独自の解釈でモズライトをデフォルメした曲線やジャーマン・カーブを持つ。このあたりは、先輩のグヤトーンの(やはりモスライトを意識した)LG150Tをさらに鋭角的にデフォルメしたラインとも取れるが、結果的にこのシャープなホーンや独特なシェイプが圧倒的な個性を放っている。
プリセット・コントロールの付いた200Sと比べてコントロール類はシンプルで、フロント&リア・ピックアップのオン/オフ・スイッチ、ボリューム、トーンのみ。ピックアップはやはりサプライヤーのものと思われ、やや出力は低いがエフェクターのかかりはいいようだ。
エレキ・ブームの象徴であるモズライトをモチーフにしながらも、この個性が出せる東海、おそるべし。
ちなみに、このハミング・バード・ブランドは発足から約1年で生産中止となってしまうが、その後もクラシック・ギターは作り続ける。そこで磨かれた技術力、徹底的なリサーチをもって、1970年代後半にトーカイ・ブランドのエレキ・ギターは、本家以上に精緻な復刻で一世を風靡する。さらにその技術を発展させ異種マテリアルのタルボを生み出し、オリジナル・ラインに復帰していく。
ハミング・バードのギターは、そんなトーカイの歴史の原点ともいえる個性的なピースだ。