愛器の変遷から探るエディ・ヴァン・ヘイレンのギター観 愛器の変遷から探るエディ・ヴァン・ヘイレンのギター観

愛器の変遷から探る
エディ・ヴァン・ヘイレンのギター観

エディ・ヴァン・ヘイレンがシーンに与えた衝撃は、その楽曲やライトハンド奏法などのプレイ面だけではない。当然のことながら、彼が手にしている“あの印象的なギター”もキッズの心をわしづかみにした。ここではギターという楽器に対するエディ独自の姿勢を、彼が使用してきたギターの変遷を追いながら探っていこうと思う。

文=近藤正義  Photo by Fin Costello/Redferns/GettyImages


未知のギター、
未知のサウンド。

ヴァン・ヘイレンがデビューした78年、唯一の情報だったのが30cmLPのジャケット写真。そこでエディが手にしているのは一見ストラトキャスターのようだが、これまで見たことのないギターだった。

そのレコード・ジャケットに写っていたギターとは?

デビュー作『炎の導火線』のジャケット写真。情報もない当時、エディが手にしているギターがどれほどの衝撃だったか……。

それがエディにとってのナンバー・ワン・ギター、 “フランケンシュタイン” である。70年代当時、まだビンテージ・ギターを崇拝するような考え方はなかったし、ましてやオリジナル・ギターを作るという発想も珍しかった。さらに、ギターに改造を加えるのも、まだ一般的なことではない。

そんなところへ現われたのが、メーカー不詳で異質なスペックで固められた、ホワイト地にブラック・ストライプが施されたギター。このギターにファンの目は釘付けになった。

驚くべきはネック、ボディ、その他ピックアップを始めとする部品をすべて個別に調達して組み立て、ペグやトレモロ・ブロック、回路の取り付け、フレット打ち、指板削り、ナットの溝切り、ピックアップのコイルの巻き直しとロウ漬け、ボディの塗装にいたるまでを自分でやってのけたということ。これらのスペックにはエディのギターへのこだわりが詰まっていた。

いずれにしても、我々はエディによって初めて、リア一発の1ハムバッカー、しかもボディへの直付け、さらにトーン回路を通らない、というSTタイプのサウンドを体験したのである。その後80年代のメタル・シーンではこのスタイルのSTタイプが人気を博したが、エディのギターはその先駆けと言ってもよいだろう。なお、同じ時期にエディはアイバニーズのデストロイヤーを大胆にカットしたモデルも使用していた。

使用ギターの変遷
〜理想のサウンドを求めて〜

しかしこの白いストラトはすぐに姿をくらましてしまう。まあ、我々が知らなかっただけのことなのだが、次に登場するレッド地にホワイトとブラックのストライプが入ったストラトキャスターに塗り替えられていたのだ。

さらなる改造としては、トレモロ・ユニットにフロイド・ローズが取り付けられていた。フロイド・ローズがまだ試作段階のトレモロ・ユニットをエディのところに持ってきたのが79年頃で、このギターに試行錯誤しながら取り付けて改良を重ねていったそうである。ブリッジにファイン・チューナーを取り付けたのも幼少の頃バイオリンを弾いていたことのあるエディのリクエスト。このギターは結局、完成まで3年近くかかっており、その間にはブラック地にイエロー・ストライプのストラトキャスターも登場していた。

とはいえ、初期のメイン・ギターはやはりこの手作りストラトキャスターであり、ファンの間でも最も思い入れの強いギターであることは間違いない。おそらく本人にとっても一番愛着があるのではないだろうか。そして、ペイントが変わったり、ネックが交換されたり、改造に改造を重ねたこのギターはツアーとレコーディングに明け暮れるエディのプレイを支え、数多くの名演を残して引退した。

そのあとを継いだのは、同じくレッド地にホワイトとブラックのストライプというデザインの、クレイマー5150である。80年代後期にスタインバーガーのヘッドレス・ギターも使用。

そして80年代におけるクレーマーとの契約終了後、90年代にはアーニーボール・ミュージックマンと契約し、ミュージックマンEVHを10年ばかり愛用。このモデルはのちにアクシスと名称変更されている。次にはピーヴィーでウルフギャングというボディの形に変更が加えられたギターを使用。当時のモデルにはDチューナーが搭載されていた。さらにフェンダー傘下のシャーベルとの契約で設立したブランド、EVHギターズでは細部に至るまで精巧に再現したシグネイチャー・モデルのギターとアンプを制作している。

EVHブランドのローンチ会見がフェンダーの公式YouTubeチャンネルで観ることができる。

既成のギターに満足せずに自分の求めるサウンドを追求するエディの情熱が、これらのギターを作り上げた。ことの始まりは、エディがもともとギブソン系の音が好きなのにもかかわらず、演奏性の高さやアームの使用、さらに改造の自由度という点でストラトキャスターを選んだことに始まっている。それによって、ギブソンのサウンドとフェンダーの機能性が融合してしまったわけだ。

後期になるとオリジナル・ギターの構想が完成の域に達してきたこともあり、もはやストラトキャスターのボディ・シェイプにはこだわっていない。また、エディはビンテージ・ギターも所有しているが、それはプライベートなコレクションに過ぎない。やはり、エディのプレイを支えてあのサウンドを出すには、彼が作り上げてきた歴代オリジナル・ギターでなければ不可能だ。これに異論を唱える人はいないだろう。

ブラウン・サウンドと呼ばれる、あのビッグでウォームなサウンド。ハイゲインなのに耳障りでない、歪ませているのに美しいと感じさせる驚異の音色。それらを生み出してきた歴代のギターたちに思いを馳せながらヴァン・ヘイレンの曲を味わうのも一興ではないだろうか。