アクリル・ボディの衝撃!!アンペグ ダン・アームストロング・ルーサイト・ギター|週刊ビザール・ギター アクリル・ボディの衝撃!!アンペグ ダン・アームストロング・ルーサイト・ギター|週刊ビザール・ギター

アクリル・ボディの衝撃!!
アンペグ ダン・アームストロング・ルーサイト・ギター|週刊ビザール・ギター

個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今回は、ベース・アンプで有名なアンペグが生み出した“透明なギター”をご紹介しよう。1970年前後に一躍全世界の注目を集めた、幻のモデル=ダン・アームストロング・ルーサイト・ギターだ。

文=編集部 撮影=三島タカユキ 協力/ギター提供=伊藤あしゅら紅丸 デザイン=久米康大

Ampeg Dan Armstrong Lucite Guitar

Ampeg/Dan Armstrong Lucite Guitar

交換が容易なカートリッジ式ピックアップ!?

これはアンペグが生み出したダン・アームストロング・ルーサイト・ギター。まずは、クリアなボディが印象的なこのモデルが生まれるまでの物語から紹介しよう。

今日ではベース・アンプが有名なアンペグの創業は、1940年代にまで遡る。エヴェット・ハルとスタンリー・マイケルが設立した“マイケル=ハル・エレクトリック・ラボ”がその母体で、ジャズ・ミュージシャンでもあったエヴェットがアップライト・ベース用のピックアップとして“アンプリファイド・ペグ”を開発。

その略称である、“アンペグ”が社名の由来となっている。

創業当時からアンプが主力製品だったが、1960年代初頭に革新的なサイレント・アップライト・ベースを生み出し、楽器市場へ参入。これはコダックのU-Bex素材(ポリプロピレン)を使用し、ダイヤフラム式電磁ピックアップを装着したもので、ベビー・ベースと呼ばれた。さらに1963年にはイギリスのバーンズとディストリビュート契約を交わし、バーンズ製ギターにアンペグのブランド・ネームを冠して販売を始める。しかし、イギリスからの輸入コストが高く、アメリカ国内での販売価格も上がってしまい、大きなビジネスにはつながらなかった。そして、1964年にはこの契約は打ち切りになってしまう(その後のバーンズ・ギターについてはボールドウィンの記事を参照)。

その後、1966年に“スクロール・ベース”と呼ばれるエレクトリック・ベース=AEB-1/AUB-1、“デビル・ベース”という通称が付いたASB-1を開発する。これらは当時の最先端であるロック・ミュージシャンに向けて作られたが、アンペグ社内でも不評だったため、ごくわずかな生産数のままラインナップから消えてしまった。

それでもなお、アンペグはロック・シーンに本格的に参入すべく、数多くの著名ミュージシャンが頼っていたダン・アームストロングというギター・ビルダー/リペアマンを招き入れた(のちにコンプレッサーの名機=オレンジ・スクイーザーを開発)。そう、今回紹介するモデルの名前にもなっている人物である。そして1968年、ダンはアクリル素材であるプレキシグラスを採用した、唯一無二の“クリア”なモデルを生み出したのだ。

このギター(同素材のベースもラインナップ)の広告塔にはザ・ローリング・ストーンズが選ばれ、キース・リチャーズが本モデルを弾いている写真が当時のフライヤーに掲載された。こうしてアンペグのギターは、見事ロック・シーンの頂点で鳴らされたのである。

Dan Armstrong Lucite Guitarを弾くキース・リチャーズ
1968年、「悪魔を憐れむ歌(Sympathy for the Devil)」のレコーディングでダン・アームストロング・モデルを弾くキース・リチャーズ。(Photo by Mark and Colleen Hayward/Redferns)

ダンがこのプレキシグラスを採用した理由は、見た目や剛性だけではない。素材密度の高さが余計なボディ振動を抑制するため、豊かなサステインが得られるのだという。しかしその代償として、4kg強とやや重めのギターに仕上がっている。

さらに特徴的なのは、ビル・ローレンスらとともに開発した交換可能なカートリッジ式ピックアップ=“クイック・チェンジ”ピックアップ。これは、サウンド・キャラクターが違う7種類ほどのモデルがラインナップされており、好みのピックアップに瞬時に取り替えられるというものだった。これらのバリエーションにはレール・バー・マグネットが使用されたシングルコイルが多かったが、写真の個体はハムバッカーのレアな仕様だ。

それに加え、ボリューム&トーンのほかに、トーン回路のキャンセル/ハイカット(弱)/ハイカット(強)が選べる3ウェイ・トグル・スイッチも装備。ピックアップとこれらのコントロールの組み合わせにより、非常に多彩な音色が得られるわけだ。

さて、キース・リチャーズやロン・ウッドらの使用で注目を集めていたにも関わらず、このダン・アームストロング・モデルは1971年に生産終了となってしまう。理由は、ダンとアンペグとの間に生まれた契約上の問題だと言われている。

1998年と2006年に再度ラインナップに加わるが、現在は生産されていない。ぜひまたの復刻に期待したいところだ。