芸術家が生み出した唯一無二の個性!フレイムズ ロック・オーヴァル|週刊ビザール・ギター 芸術家が生み出した唯一無二の個性!フレイムズ ロック・オーヴァル|週刊ビザール・ギター

芸術家が生み出した唯一無二の個性!
フレイムズ ロック・オーヴァル|週刊ビザール・ギター

個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今回はミラノのブランド=フレイムズの銘を冠した超個性的な1本を紹介しよう。生み出したのはイタリアのメーカー=ヴァンドレ・ギターズで、モデル名は“ロック・オーヴァル”。ビザール・ファンとしては絶対に見逃せない!

文=編集部 撮影=三島タカユキ 協力/ギター提供=伊藤あしゅら紅丸 デザイン=久米康大

Framez by Wandre Rock Oval

Framez by Wandre/Rock Oval

外見もスペックもすべてが独創的

魅惑的というか幻想的というか、なんとも摩訶不思議なギターである。この“ロック・オーヴァル”というモデルは、イタリアのメーカーであるヴァンドレが1961年頃に生み出した1本(ボブ・ディランの映画『Don’t Look Back』に登場して、マニアの度肝を抜いたギターでもある)。

ヴァンドレ・ギターズはヴァンドレ・ピオリが1950年代末にイタリアのカブリアゴで立ち上げたメーカーで、今回紹介するモデルを見ればおわかりのとおり、ユニークなコンセプトのギターを生み出してきた。もともとピオリはミラノ出身で、彫刻も行なう芸術家でもあったのだ。彼が生み出すギターは、プロダクト・デザインというよりもアートと呼ぶほうがふさわしいだろう。

写真のモデルには“フレイムズ(Framez)”というブランド名が冠されているが、これは本器に搭載されているピックアップを作っていたブランドである。なお、フレイムズがピックアップ製造を担っていたのは1960〜1963年で、その後は同じくイタリアのダヴォリ(Davoli)が1965年まで担当する。そのため、ダヴォリ・ブランドからもピオリが製作を手がけたモデルが出されていた。

また、アメリカでの流通を担ったドン・ノーブル社では、“ノーブル(Noble)”ブランドが掲げられたほか、ダラス(Dallas)やアヴァロン(Avalon)など、さまざまな銘のモデルが存在する。イギリスでのディストリビュートを担当していたVOXの親会社であるジェニングス社(JMI)のために作られたものには、JMLブランドが冠された。

特徴しかないこのロック・オーヴァルだが、いくつか注目ポイントを書いておこう。

まずはなんと言ってもこのボディ形状。シングル・カッタウェイをデフォルメした大胆な曲線だが、ボディはカーブド・トップとバックを側板を介さずにくっ付けてエッジをサフェーシングしているというユニークな構造(つまり変則ホロウ・ボディである)。また、スプレーぼかしされたマルチ・カラーのボディ・フィニッシュも印象的で、まったく同じカラーは存在しない。

ピックアップ・マウント部と一体化したピックガードは後述するアルミネックと接続されていて一体化しており、全体でティルトできるようになっている。ブリッジもピックガードと一体化で、弦と垂直になるように4本の溝が掘られており、そこにブリッジ・サドルを差し込むというユニークな仕様だ。テイルピースはアメリカンV8に影響されたような“W”がキャスティングされているが、弦のストレスを受けるには華奢な印象で、デザイン先行の感は否めない。ここは、ビオリはバイクのカスタムパーツも製作していたことがあったとのことで、なるほどとうなづける。

ピックガード
独特なピックガードには“Wandre”のサインが刻まれている。
ヘッド
プラスティックの付き板の端にアルミニウムのヘッド本体が確認できる。

ヘッド部のラミネートされていない部分を見てわかるとおり、ネックはデュアルミニウム(Duraluminum)と呼ばれるアルミ製。3フレット部分には“mod Rock Oval Wandre”の文字が刻まれているほか、ポジション・マークもよく見るとすべて異なる模様の素材である。こういった細部にもピオリのアーティスティックなセンスを垣間見ることができるので、要注目だ。このようにあまり演奏には向いてないと思えるモデルだが、このあとのダヴォリ・ブランドの機種は、はるかに楽器寄りに作られていて実用性がある。それだけにこのロック・オーヴァルはよりアート性が高いと言えるだろう。

さて、このヴァンドレは1970年に工場を売却し、ギター作りから離れてしまう。その後はアート・レザークロスの製造に転向した。約10年ほどしかギターを作っていないのに加え、手の込んだモデルが多かったため生産数はかなり少ない。市場でヴァンドレ製ギターを見つけたら、とりあえず弾いておこう!

本モデルは伝説のムック本=『ギター・グラフィック』の第一弾で表紙を飾ったことで知っている人も多いかと思う。Kindle版がリリースされているので、こちらも要チェック!!