日本生まれの多国籍ギター。セルマー フレッシュマン5800|週刊ビザール・ギター 日本生まれの多国籍ギター。セルマー フレッシュマン5800|週刊ビザール・ギター

日本生まれの多国籍ギター。
セルマー フレッシュマン5800|週刊ビザール・ギター

個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今週は日本で生産され海をわたった、フレッシュマン5800をご紹介しよう。19世紀から続く老舗ブランド=セルマーが販売した本器を、ブランドの歴史とともに紐解いていく。

文=編集部 撮影=三島タカユキ 協力/ギター提供=伊藤あしゅら紅丸 デザイン=久米康大

Selmer/Futurama Freshman 5800

Selmer/Futurama/Freshman 5800

フランス発アメリカ育ち、イギリス経由の日本製。

このキュートなギター、Freshman 5800というモデルである。販売していたのは老舗管楽器ブランドとしても知られるセルマー社だ。ギタリストにとっては、アンプ製品やシド・バレットが愛したファズ=BUZZ TONEのほうがピンとくるか? このFreshmanは、その英国セルマーが発売していたバイヤーズ・ブランドになるわけだが、さらに、フューチュラマ(Futurama)という、同社のブランド内のモデルとしてカタログに掲載されたりもしている。

この英国セルマーとは、現在の“コーン・セルマー(Conn Selmer)”のことで、フランスの管楽器ブランド=“ヘンリー・セルマー・パリ(Henri SelmerParis)”とは別の会社である。それぞれの沿革は少し複雑で、ここですべてを語るのは難しいのだが、モデルの解説に入る前にその歴史を簡単に紹介していこう。

現在のヘンリー・セルマー・パリの血筋にあたるのは、1885年にアンリ・セルメールが設立した“セルマー・パリ社”。こちらは管楽器として有名だが、ジャンゴ・ラインハルトも愛用したセルマー・マカフェリを製作していた工房でもある。そして、パリ社製クラリネットを使うプロ奏者であり、アンリの弟でもあるアレクサンドルがニューヨークに渡り、“セルマーUSA社”を立ち上げる。こちらがコーン・セルマーの始まりであり、もともとパリ社製クラリネットをアメリカで販売するための会社であった。

1918年頃、アレクサンドルは弟子のジョージ・バンディに会社を託しパリへ帰国する。バンディは小売と流通ビジネスに力を入れ始め、ギターではマーティンなども取り扱うように。そして1920年代も終わりに近づく頃、バンディはセルマー兄弟からアメリカでの経営権を買い取り、ここでパリ社とは独立した会社となった。

こうしてさまざまな楽器を取り扱うようになったセルマーは、1930年代に英ロンドンにショールームを作る。この“セルマー・ロンドン”は楽器の輸入販売を手掛けており、ヘフナー製品やエピフォンのギターなどを英国向けに改良して販売していた。そしてエレクトリック・ギターの需要が高まってきた1950年代末頃から、オリジナル・ブランドとして“フューチュラマ”を立ち上げる事になる(やっと出てきた、フューチュラマ!)。

フューチュラマは、製品のほとんどをOEM生産に頼っており、その多くはスウェーデンのハグストロームが手掛けていたが、今回紹介するFreshman 5800は日本製。そのヘッド・デザインやボディ・シェイプで“はいはい”と思っちゃうツウな人にはおわかりかと思うが、やはりグヤトーンが製造していた。

よく知られているように、当時RegentやMitche、Feathe、HiToneなどのブランド名で、グヤトーン製ギターが多く輸出されており(デビュー前のシャドウズのハンク・マーヴィンが愛用していた事でもよく知られている)、英国セルマーはここに目をつけた。

販売されていたのは1950年代末頃からのようで、当時としては、比較的高い£15で販売されていた。デザインは同時期にグヤトーンが生産していたLG-50やLG-60Bなどに酷似しているが、それらが20フレットに対し、本器は18フレットでスケールもやや短い。

ボディも一回り小型で、黒白2ピースで組まれたピックガードが洒落ている。鮮やかなフィエスタレッド風のカラーが印象的だが、フェンダーのカスタム・カラーは特注だった時期なので、かなり早い導入と言えるだろう。LG50ではブラスのカバーだったピックアップは薄いウッドのカバーに変えられ、花のようなテイルピースなども相まって、非常に可愛らしいルックスを演出。なぜかブリッジはクラシック・ギターのような骨材で、この辺は黎明期の試行錯誤が表われているところか?

音はいかにも当時のグヤトーンらしく、ハイファイ・サウンドが基調の高域にリンギングが付加されたブライトなトーンで、英国の“マニア”の間で評価が高い。日本ではほとんど見かけないが、英国などでは時々程度の良い個体が流通しているレアな逸品である。