PLAYING
注目モデル4本を弾く。
ここからはお馴染みの試奏コーナー。70年代から日本のスタジオの第一線で活躍し続けるギタリスト、土方隆行が注目のニュー・モデル4本を斬る!
取材・文=井戸沼尚也 撮影=星野俊
※本記事はギター・マガジン2021年10月号に掲載された『ナッグス・ギターズ トップ・ビルダーが練り上げる美しきハイエンド・ギター』を再編集したものです。
Chesapeake Series
Choptank T-Trem Hollow-body
チェサピーク・シリーズ/チョップタンク Tトレム ホロウボディ Serial #360
767,800円
協力:イケベ楽器店(☎︎03-6433-7969 https://www.ikebe-gakki.com)
アコギ的な材構成とホロウ構造による芳醇な倍音
648mmスケールのChesapeakeシリーズの看板モデル、Choptankをベースに、Chesapeakeトレム・ブリッジ付きのホロウ・ボディに仕上げたモデル。アフリカン・マホガニーバック、シトカ・スプルース・トップと、アコースティック・ギターのようなボディ材構成が興味深い。見た目はTLタイプの要素を感じるが、そのシェイプからは想像できないほど幅広いサウンドを生み出すことができる。フロントPUにはローラーのLollartroneを搭載し、この甘い音とブライトなリアの音の対比がユニークだ。
HIJIKATA’S VOICE
クリーンが抜群!
それと、トレモロが本当に凄いです。
まず、生音がしっかりしていますね。ネックの感触もすごく手に馴染みます。やや細めなんだけど肉付きはいい、あまり出会ったことがない形状ですね。アンプを通した音は、良い意味でTLタイプのバキッとした音とは違う感じです。フロントPUはかなりウォームで、ES-335的な感じも出せますよ。それでいて、リアPUにするとパキパキした音も出せます。歪ませた音も良いけど、クリーンが抜群なので、僕ならクリーン主体で使いたいですね。それから、このトレモロ・アームは凄いですよ! ちょっと触っただけでダイレクトに音程が変化します。チューニングの狂いもないし、サステインも十分。ぜひ試してもらいたいですね。
SPECIFICATIONS
○ボディ:シトカ・スプルース(トップ)、アフリカン・マホガニー(バック)
○ネック:メイプル
○指板:イースト・インディアン・ローズウッド
○スケール:648mm
○フレット:22
○ピックアップ:ローラーLollartrone(フロント)、リンディ・フレーリン・ブルース・スペシャルT(リア)
○コントロール:ボリューム、トーン、3ウェイ・セレクター
○ペグ:ゴトー
○ブリッジ:チェサピーク・トレム
○カラー:バイオリン(セミ・グロス)
Chesapeake Series
Severn Trem HSS
チェサピーク・シリーズ/セヴァーン・トレムHSS Serial #1166
778,800円
協力:イシバシ楽器店(☎︎03-3233-1484 https://www.ishibashi.co.jp/store/ochanomizu.html)
太くまろやかな音までカバーするオールマイティな高級HSS
ジョー・ナッグスが初めて自身で開発したモデル、Severn。STタイプを思わせるフォルムだが、これもセット・ネック構造だ。ボディがマホガニー・バック、メイプル・トップという組み合わせだということもあり、リアのハムバッカーを選択するとファットでバイト感に富んだサウンドも楽しめる。指板&ヘッドストックに独特な色味と模様のペイルムーン・エボニー(斑入り黒檀)が貼ってあるのも、ルックス面の良いアクセントになっている。
HIJIKATA’S VOICE
セットネックとボディ材がポイント
生音が太く、リアの歪みが最高!
これも生音が大きくて、低音が太く感じます。アンプにつなぐと……リア・ハムバッカーの歪みが良いですね! ハードなフレーズを弾くには最高ですよ。クリーンにしても、ボディ材やセット・ネックの影響かと思いますが、リアPUはすごくメロウですね。70年代のファンクやソウルでは意外とリアのハムバッカーなどでカッティングをしていたりするんですが、そこに近いニュアンスが出せます。でもフロントやセンターでは十分にSTタイプ的な音も出せますから、このギターはとにかく守備範囲が広いですよ。あとは、やはりこのブリッジが最高で、アームの効きが素晴らしい。変な遊びもなく、ジェフ・ベックのようにアームをコントロールできますよ。
SPECIFICATIONS
○ボディ:メイプル(トップ)、マホガニー(バック)
○ネック:メイプル
○指板:ペイルムーン・エボニー
○スケール:648mm
○フレット:22
○ピックアップ:リンディ・フレーリン・ブルース・スペシャル(フロント&センター)、ベア・ナックルSSX HB(リア)
○コントロール:ボリューム、トーン、3ウェイ・セレクター
○ペグ:ゴトー
○ブリッジ:チェサピーク・トレム
○カラー:チャコール・バースト
Influence Series
Keya
インフルエンス・シリーズ/ケヤ Serial #243
737,000円
協力:フーチーズ(☎︎042-316-6113 http://hoochies.info)
良材と独自のブリッジが生む極上のリッチ・トーン
628mmスケール、12インチ・ラジアスの指板、オリジナル構造のブリッジを持つInfluenceシリーズのモデル、Keya。メイプル・トップにカヤー(マホガニーの一種)バックのボディ、マホガニー・ネック&インディアン・ローズウッド指板という定番の材構成。もちろん、セット・ネック構造だ。ダブル・カッタウェイの24フレットというのもポイントで、それによりフロント・ピックアップでも低音がダブつかない、クリアなサウンドとなっている。ボディが薄く仕上げられているのもポイントだ。
HIJIKATA’S VOICE
オープンに響き、抜ける音。
これは良いギターですね。
……凄い。これは凄い音ですよ。詰まったところがまったくなく、音が前にダーンと出てきます。響きが凄くオープンで、抜けてくるんですよね。素のクリーンだけでずっと弾いていたくなる。このブリッジ、駒のうしろの短い弦のところで倍音が出ていて、それがさらに豊かな音にしていますね。よくできています。それから、24フレットなのでフロント・ピックアップの位置が少しブリッジ寄りにズレるんですけど、それによってローが少しすっきりして、良い方向に働いています。リアと切り替えた時のバランスも凄く良いですよ。音の粒立ちもあるし、ネックも弾きやすいです。良いギターですね。
SPECIFICATIONS
○ボディ:メイプル(トップ)、マホガニー(バック)
○ネック:マホガニー
○指板:イースト・インディアン・ローズウッド
○スケール:628mm
○フレット:24
○ピックアップ:ベア・ナックル・ミュール×2
○コントロール:ボリューム、トーン、3ウェイ・セレクター
○ペグ:ビンテージ・クルーソン
○ブリッジ:インフルエンス・ブリッジ
○カラー:ビンテージ・バースト
Influence Series
Kenai Reef of Life ‘2021 LTD
インフルエンス・シリーズ/ケナイ・リーフ・オブ・ライフ’2021LTD Serial #1253
オープン・プライス(市場実勢価格2,200,000円前後)
クロサワ楽器店(☎︎03-3492-7148 https://www.kurosawagakki.com)
芸術品のような存在感 ナッグス最高峰の1本
本器も628mmスケールを有するInfluenceシリーズの1本。とにかくゴージャスな指板の“Reef of Life”インレイ、ボディ・トップのメイプル材の杢目、ボディ・カラーの“Reef of Life”アクア・フェードのフィニッシュの見事さに眼を奪われる。芸術品のような圧倒的な存在感を持っているが、楽器としてのポテンシャルも高い。ナッグスのコンセプトどおりの豊潤な倍音、ロング・サステイン、弾きやすさ、安定したピッチなど、すべてを備えたナッグスの最高峰の1本と言って良いだろう。
HIJIKATA’S VOICE
異次元の鳴りと弾きやすさ!
ピアノを弾いているような感じです。
これは高いだけのことがありますよ。音がクリアで深みがあります。発音がとにかくきれい。このクリアさは、ネックがメイプルというところに関係していそうですね。レンジも広いし、どのポジションを弾いても鳴らないところがない。まるでピアノを弾いているような感覚です。それから、弾きやすさが本当にヤバいです。ナッグスはどのギターもしっかり調整してありましたが、これは異次元(笑)。弦高がここまで低くて、まったく音詰まりやビビリがないのは本当に凄いですよ。ネックのグリップはやや太めですが、弾きにくい感覚はありません。これは、ギターが主役の音楽で使うべきですね。そうでないと目立ちすぎちゃう。そのくらい、音も見た目も存在感があります。
SPECIFICATIONS
○ボディ:メイプル(トップ)、マホガニー(バック)
○ネック:メイプル
○指板:イースト・インディアン・ローズウッド
○スケール:628mm
○フレット:22
○ピックアップ:セイモア・ダンカン・キャンディ×2
○コントロール:ボリューム×2、トーン×2、3ウェイ・セレクター
○ペグ:ビンテージ・クルーソン
○ブリッジ:インフルエンス・ブリッジ
○カラー:“リーフ・オブ・ライフ”アクア・フェード
TOTAL IMPRESSION
試奏を終えて
ハイエンド特有の冷たさがない、
音楽的な音がするギター・ブランド。
最後は土方による総評をお送りする。40年以上のキャリアを持ち、数多のギターを弾いてきた氏が感じたナッグスの真髄とは?
そもそも、4本とも生鳴りが良いんですよね。
今回、4本のナッグスを弾かせてもらってまず感じたのは、どれも生鳴りが良いということ。低音弦から高音弦まできれいに鳴るんですよ。これはたぶん、すべてセット・ネックという点が影響しているんだと思います。どのギターもまず鳴らしきることをベースにしていて、その上でキャラクターの味付けがされているように感じました。木材もそれぞれ違うんだけど、メイプルならメイプルの中で良いものを、マホガニーならマホガニーの中で素晴らしいものをきちんと選んである感じで、シンプルにクオリティが高いです。
改めて4本を振り返ると、最初のChoptankには良い意味で裏切られた印象です。もっとTLタイプ的な音がするかと思ったら、弾いてみると意外とウォームで、ボディの構造や材の選定が効いている感じでした。PUの選択次第で硬い音も出せるので、守備範囲が広いですね。Severnも、ボディ材がいわゆるSTタイプとは違うから、まろやかなカッティングのニュアンスも出せて、それでいてシャープなクリーンもいける。で、2本ともトレモロ・アームの精度の高さに驚かされました。
Keyaは、乾いた良い音がしていました。明るいフロント・ピックアップの音が特に良かったです。最後のKenaiは、圧倒的に完成度が高かったですね。華美なギターはどうしても観賞用で音が良くないイメージもありますが、これは非の打ちどころがない。どれか1本を選べと言われたら、これが欲しいですね(笑)。
僕はセッション・ワークを長年やってきましたけど、4本ともすぐにでも仕事で使えるレベルですね。調整も完璧ですし。アメリカのギターの、味というかちょっと雑なところはなくて、でもハイエンド・ギターにありがちな冷たいところもない。非常に音楽的なギターだと感じました。この良さは弾いてみないとわからないと思うので、もし楽器店見つけたら触ってみるといいんじゃないでしょうか。
土方隆行 PROFILE
ひじかた・たかゆき/1956年生まれ。小学生の時にベンチャーズに憧れギターを始める。70年代からスタジオ・ミュージシャンとしての活動をスタートし、吉田美奈子や徳永英明、小沢健二などをサポート。さらにアレンジャー、プロデューサーとして、エレファントカシマシやスピッツなど多くのアーティストを手がけている。
製品に関するお問い合わせは、コルグお客様相談窓口(☎0570-666-569)まで。