Knaggs Guitarsトップ・ビルダーが練り上げる美しきハイエンド・ギター Knaggs Guitarsトップ・ビルダーが練り上げる美しきハイエンド・ギター

Knaggs Guitars
トップ・ビルダーが練り上げる美しきハイエンド・ギター

HISTORY
ナッグス・ギター史。

このブランドはどのようにして誕生したのか? 本稿でもうちょっと詳しくナッグスを知ってみよう。

文=井戸沼尚也 写真提供=Knaggs Guitars
※本記事はギター・マガジン2021年10月号に掲載された『ナッグス・ギターズ トップ・ビルダーが練り上げる美しきハイエンド・ギター』を再編集したものです。

トイレすらない裏庭で始まったナッグス進撃のストーリー

 美しいギター、倍音が豊かでサステインが長いギターを探しているなら、絶対にチェックするべきブランドがナッグス・ギターズだ。近年、改めて注目を集めているハイエンド・ギター・ブランドだが、その歴史はあまり知られていないように思う。そこで、ナッグスの歴史を紐解いてみよう。

 ナッグス・ギターズを立ち上げたジョー・ナッグスは、もともとはミュージシャンとして活躍しつつ、塗装業で生計を立てていた人物。PRSを立ち上げたポール・リード・スミスとは旧知の仲で、創業して間もないPRS(生産が追い付かず、塗装待ちのギターが山積みだったという)に、塗装と製造業のプロとして参画し、プロダクション・マネージャーの地位を得る。それからは本格的にギター製作を運営する立場に回り、アーティスト向けプロトタイプの製作、それを一般販売する製品に応用したGuitar of the Monthシリーズの製作、そしてPRSの最高峰であるプライベート・ストックの責任者までのぼり詰める。しかし、本来の職人気質が頭をもたげ、マネジメントを窮屈に感じるようになったジョーは、週末には自身で考案したオリジナル・ギターを製作するようになっていく。

 最初にデザインしたのはSTモデルをホロウ化させたようなSevern。当時はチェサピーク湾にちなんでChesapeakeというブランド名を付けており、9年間SevernとChoptankを作り続けた。2005年頃には、これらをPRSに導入することが検討されたが叶わず、そのこともあってナッグス・ギターズとしての歩みが始まろうとしていた。

 結局、ジョー・ナッグスはPRSを離れ、元PRSのメンバーだったピーター・ウルフ、ジョン・イングラムらとともに2009年8月に会社を設立。マーケティングを行なう知人から“ブランド名はほかのブランドと同様にルシアーの名前にすべきだ。しかもKnaggsは目立つからぜひそうすべきだ”と提言されてナッグス・ギターズへと社名を変更した。確かに、世界的に見るとオーヴィル・ヘンリー・ギブソン、レオ・フェンダー、そしてポール・リード・スミスなど、偉大な創業者の名前がブランド名として定着しているケースは多い。ナッグスも、その例に倣ったというわけだ。少し遅れて、PRSのプライベート・ストック部門に在籍していたダニー・デド(CNCプログラミングのスペシャリスト)も合流し、当時のナッグスの基本的な陣容が整った。

 ナッグスがスタートした当初、製作はメリーランドのデントンにあったダニーの家の裏庭で行なわれていた。しかし電力はおろかトイレすらないなど環境としては問題が多く、新しい物件を探していたところ、グリーンズボロに1912年に作られた煉瓦造りの工場の跡地を発見。そこには電力だけではなく、スプレー用のブースや排気システムも配備されていたため、そこをリノベーションした。それが現在も活動の拠点となっているグリーンズボロの工場だ。

身の丈以上にビジネスを拡大しない徹底した品質至上主義

 ナッグスの作るギターのラインは、大きく分けて2つ。648mmスケールのChesapeakeシリーズと、628mmスケールのInfluenceシリーズだ。現在は、アーティスト・モデルのSignature、一点モノを扱うCreationシリーズもあるが、あくまで主軸は先述の2つのラインである。会社がスタートしてからはInfluenceラインの拡充を図り、Kenai、Keya、Chena、Sheyenneといったモデルを次々に設計した。いずれも指板ラジアスは12インチ(約305mm)で、テイルピースとチューン・オー・マティック・タイプ・ブリッジが一体化した“インフルエンス”と名づけられたブリッジをマウント。ジョー自身がナッグス・ギターズのテーマである“豊かな倍音とサステイン”を実現するためにハードスティールを使用してデザインした、オリジナル構造を持っている。

 一方のChesapeakeシリーズは、TLタイプのブリッジ・プレートに厚みを持たせ、ネック側の端をしっかりとネジ止めしたChoptankブリッジ、そのブリッジを改造(半分にカットし蝶番でつなぐような構造にして、ボールベアリングを挟む)したChesapeake Tremといったオリジナル・ブリッジと、648mmスケールのギターには珍しいセットネック構造の採用によって、“無限に続くほど”と言われるサステインを獲得。両シリーズともに、ほかのどのギターとも違うオリジナルのサウンドを持っていると評価され、ナッグスの名声は高まった。

 しかし、ナッグスはやたらと規模を拡大する路線には興味がないようだ。スタッフは元PRSの者が多く、従業員は10名と、決して多くはない。ナッグスの会社としての目標は、素晴らしいギターを作り続け、ビジネス規模を身の丈以上に拡大していかないこと。需要と供給を把握し、過度に市場に自分たちのギターを供給せずにやっていきたいという。“さまざまなモデルのギターを合計1万本くらい作ってきたかもしれませんが、そのすべてについて言えることは「とにかく鳴るギター」を作ってきたということです”とは、ジョー・ナッグスの言葉だ。規模ではなく、品質を追求する。それがナッグスの流儀だ。