『ロックンロール・サーカス』にも登場する、キース・リチャーズのハンド・ペイントが施されたレス・ポール・カスタム 『ロックンロール・サーカス』にも登場する、キース・リチャーズのハンド・ペイントが施されたレス・ポール・カスタム

『ロックンロール・サーカス』にも登場する、キース・リチャーズのハンド・ペイントが施されたレス・ポール・カスタム

テレキャスターを筆頭に、様々なギターを愛用してきたザ・ローリング・ストーンズのキース・リチャーズ。その中の1本に、印象的なルックスを持つギブソン・レス・ポール・カスタムがある。抽象的なペイントが施された1957年製の1本について、その出自から近年の動向までを紹介しよう。

文=細川真平 Photo by Keystone Features/Hulton Archive/Getty Images

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1966年に初めて登場した、3PU搭載の57年製

2023年10月、オリジナル・アルバムとしては18年ぶりとなる、ザ・ローリング・ストーンズのニュー・アルバム『Hackney Diamonds』がリリースされた。これは、“21世紀最高のロックンロール・アルバム”だと個人的には思っている。

もちろん、21世紀はあとまだ数十年も残っているが、それでもあえてそう言いたくなるほどの、あまりに素晴らしい内容だった。

チャーリー・ワッツが亡くなって初めてとなる本作(彼がプレイした曲も2曲は収録されているが)を最高のものにした要素の1つに、キース・リチャーズの健在ぶりがある。手指の関節炎を患っているという話に不安もあったが、蓋を開けてみると、先行シングルでありオープニング・ナンバーの「Angry」で聴かせてくれた、ロック魂がほとばしるような熱いギター・ソロを始め、随所に名プレイが光っていて、安心するどころか、大きな喜びをもたらしてくれた。

さて、そのキースも、一時はレス・ポール・カスタムをメイン・ギターとしていた。

最初に登場するのは、1966年。この年の9月に、アメリカのTV番組『エド・サリヴァン・ショー』にストーンズが出演した際に、キースは57年製で3ピックアップ(PAF)搭載のカスタムを使用している。このギターはその後のツアーでもメインで使われたが、1967年のツアー中に盗まれたためキースはまったく同仕様のカスタムをロンドンで購入したと言われている。

ただし、盗難はされていないという説もあるようで、このあたりの真相は定かではない(つまり、ここからお話しするカスタムが、彼にとって1本目なのか2本目なのかは定かでないということを念頭にお読みいただきたい)。

恋人が施したハンド・ペイント

1967年11月にアルバム『Their Satanic Majesties Request』が発表されたが、ここでカスタムが使われていることが、レコーディング風景を収めた写真からわかる。ただし、この時にはまだ、ストックのブラック・フィニッシュのままだった。

このギターが次に現われたのは、翌1968年に製作・公開された、ジャン=リュック・ゴダール監督によるドキュメンタリー映画、『One Plus One』内でのことだった(アメリカなどでは『Sympathy for the Devil』のタイトルで公開)。ここでは、ブライアン・ジョーンズが辛い扱われ方をしていることが目撃でき、当時のストーンズの内情が垣間見えるのだが、それはまた別の話なのでここでは置いておこう。

この映画に登場した時、キースのカスタムのボディには、ハンド・ペイントが施されていた。これはキースと、恋人であるアニタ・パレンバーグの手によるものだった。

キース・リチャーズの1957年製レス・ポール・カスタム
ペイントが施されたキース・リチャーズの1957年製レス・ポール・カスタム(Photo by Nigel Osbourne/Redferns)。

抽象絵画的と言っていいだろう、燃え上がる大地のようなものの向こうに三日月と太陽が描かれている。また、ボリュームとトーン・ノブには星が描かれているのだが、これは日本人にとっては、あるビールの銘柄を思い起こさせるかもしれない。カスタム特有の真っ黒のトップ・ハット・ノブだからこそ、ここに星を入れるという着想をキースは得たのだろう。いずれにしても、現代アート作品のような趣があるペイントとなっていた。

ボディのアップ
コントロール・ノブには星マークがあしらわれている。

時を経て美術的価値が見出される

スタジオ・アルバムでは、1968年の『Beggars Banquet』、1969年の『Let It Bleed』でこのカスタムがメインで使われていると思われる。また、1968年にストーンズが製作した映像作品『Rock and Roll Circus』の中でもこれを見ることができる。

ただし、1969年7月のハイド・パークでのブライアン追悼コンサートでの写真を見るとわかるように、この頃キースはギブソン・フライングVやES-330なども導入していたので、『Let It Bleed』でのメインがどれかということになると、やや特定しづらいことも事実だ。

このペイントされたカスタムは1970年の秋頃まで使われたが、まったく同じ仕様のカスタム(もちろんペイントはされていないもの)が新たに登場し、それ以降は使用されることがなくなった。そしてその後、どこかのタイミングでキースはこれを手放した、もしくは盗難されたなどと言われてきた。

だが、このカスタムは再び人前に姿を現わすこととなる。

それは2019年のことで、この年の4月8日から10月1日まで、ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催された“Play It Loud: Instruments of Rock & Roll”という企画展内で展示されたのだった。

この時に、“Collection of Keith Richards”というクレジットがこのギターにはつけられていた。ということは、(ずっとかどうかはわからないが)このカスタムはキースが所有していたということになる。キース・ファンにとっては、なんとなく嬉しくなってしまうような話だ。

キースがこのギターをペイントした実際の理由はわからないが、1967年、キースとミックとブライアンは麻薬所持・使用容疑で逮捕・起訴され、コンサート活動ができない状況にあった(前述のとおり、アルバム『Their Satanic Majesties Request』は完成させているが)。それで時間を持て余していたために、“ギターにペイントでもしてみようか”ということになったのではないかとも言われている。

もしそれが本当だったとしたら、そんな理由でペイントを施されたギターが、しかもMoMA(ニューヨーク近代美術館)ならまだわかるが、由緒あるメトロポリタン美術館に展示されたというのも、キースらしい痛快な話だと思える。

キース・リチャーズ
ドキュメンタリー映画『One Plus One』の撮影風景。1968年6月、オリンピック・スタジオにて。

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