毎月1人のギタリストの足下を調査する連載企画、『月刊 足下調査隊!』。第6回は[Alexandros]のギタリスト、白井眞輝の巨大ペダルボードをご紹介。2枚のボードからあふれんばかりの大量のエフェクターは、どのようなこだわりでチョイスされたものなのか?
取材/文=伊藤雅景 写真=星野俊
出せない音色はない!?
所狭しとペダルを詰め込んだ超巨大ペダルボード
こちらのボード写真は、2023年12月9日に開催された[Alexandros]のワンマン・ツアー“NEW MEANING TOUR 2023”の東京公演最終日のリハーサル前に撮影されたもの。
エフェクター、スイッチャー、パワーサプライをすべて合わせると、計42台ものギアが詰め込まれた巨大なシステムになっている。
以下、それぞれのボードの接続順を解説していこう。
右/メイン・ボード
【Pedal List】
①FREE THE TONE/JB-21(ジャンクション・ボックス)
②BOSS/BP-1W(ブースター/プリアンプ)
③TONEFLAKE/Super Pre Amp Equalizer MODEL-G(プリアンプ/EQ)
④FREE THE TONE/LB-2(ループ・ボックス)
⑤Jim Dunlop/SW95 Slash Cry Baby Wah(ワウ)
⑥BOSS/FZ-1W(ファズ)
⑦Wren and Cuff Creations/ Your Face Smooth Silicon 70’s Fuzz(ファズ)
⑧Wren and Cuff Creations/The White Elk(ファズ)
⑨DigiTech/Whammy5(ワーミー・ペダル)
⑩FREE THE TONE/ARC-3(プログラマブル・スイッチャー)
⑪BOSS/OD-1(オーバードライブ)
⑫BOSS/SD-1W(オーバードライブ)
⑬BOSS/OD-1X(オーバードライブ)
⑭Subdecay/Harmonic Antagonizer(ファズ/オシレーター)
⑮BOSS/BD-2W(オーバードライブ)
⑯BOSS/DS-1W(ディストーション)
⑰BOSS/BP-1W(ブースター/プリアンプ)
⑱FREE THE TONE/ARC-53M(プログラマブル・スイッチャー)
⑲Mad Professor/Silver Spring Reverb(リバーブ)
⑳BOSS/DM-2W(ディレイ)
㉑BOSS/DD-6(ディレイ)
㉒BOSS RE-2(ディレイ)
㉓Electro-Harmonix/Pulsar(トレモロ)
㉔BOSS/CE-2W(コーラス)
㉕BOSS/DC-2W(ディメンション・コーラス)
㉖FREE THE TONE/JB-21(ジャンクション・ボックス)
㉟Ernie Ball/Mono Volume Pedal(ボリューム・ペダル)
㊱BOSS/MT-2W(ディストーション)
㊲BOSS/TB-2W(ファズ)
㊳Eventide/PitchFactor(マルチ・ハーモナイザー)
㊴FREE THE TONE製アウトプット・セレクター
㊵BOSS/TU-3S(チューナー)
㊶FREE THE TONE/PT-1D(パワー・サプライ)
㊷FREE THE TONE/PT-3D(パワー・サプライ)
合計28台のペダルで構成された白井のメイン・ボード。ブースター(②)、プリアンプ(③)以外のすべてのペダルをプログラマブル・スイッチャー(⑩)でコントロールするシステムだ。なお、メインのボードに入りきらないフィルターや空間系ペダル(㉗〜㉞)はサブ・ボードに配置されている。
シグナルの大まかな通過順は、①→②→③→④→⑩→㊴だ。
ギターの信号はジャンクション・ボックス(①)に入力され、2台のブースター(②)、プリアンプ(③)を通過し、ループ・ボックス(④)へ向かう。
ループ・ボックス(④)は2系統のループが搭載されており、下記の内訳でペダルが接続されている。
LOOP 1 | ワウ(⑤)+ワーミー(⑨) |
LOOP 2 | ファズ(⑥+⑦+⑧) |
④は、ARC-3(⑩)からラッチ信号を受け取ることで、使うループを切り替えることができる。プリセットによって、使用するペダルは適宜セレクト。ギターのシグナルは、ここのループのいずれかを通過したのち、プログラマブル・スイッチャー(⑩)のインプットへ向かう。
プログラマブル・スイッチャー(⑩)では⑪〜㊵のペダルを管理。こちらはおもに歪みが接続されている。各ループの内訳は以下。
L1 | 歪みペダル/メイン(⑪、⑫、⑬、⑭) |
L2 | 歪みペダル/クランチ用(⑮) |
L3 | ブースター(⑯) |
L4 | ブースター(⑰) |
L5 | スイッチャー(⑱)※⑲〜㉞はこちらに接続 |
L6 | ボリューム・ペダル(㉟) |
L7 | ディズトーション/ファズ(㊱、㊲) |
L8 | マルチ・ハーモナイザー(㊳) |
プリセットの内容やペダルの組み合わせは楽曲によって切り替えており、複数のペダルが接続されているループは、直接踏み換えを行なっている。
続いては、空間系ペダルがまとめられたスイッチャー(⑱)の内訳だ。
L1 | リバーブ(⑲) |
L2 | ディレイ(⑳、㉑、㉒) |
L3 | トレモロ(㉓) |
L4 | コーラス(㉔、㉕) |
L5 | サブ・ボード(㉗〜㉞) |
空間系エフェクトは、マルチ・エフェクターを使用せず、それぞれタイプ別のコンパクト・エフェクターを用意しているのがポイント。
ボードに入りきらなかったペダルを配置したサブ・ボードは、ARC-53M(⑱)のL5に接続されている。L5のSENDから、ジャンクション・ボックス(㉖)を経由してサブ・ボードの先頭に向かっている(詳細は後述)。
左/サブ・ボード
【Pedal List】
㉗FREE THE TONE/JB-21(ジャンクション・ボックス)
㉘Line 6/M5(マルチ・エフェクター)
㉙Moogerfooger/MF-101(ローパス・フィルター)
㉚Moogerfooger/MF-103S(フェイザー)
㉛Moogerfooger/MF-105(フィルター)
㉜Moogerfooger/MF-102(リング・モジュレーター)
㉝strymon/CLOUDBURST(リバーブ)
㉞BOSS/RV-200(リバーブ)
メイン・ボードのプログラマブル・スイッチャー(⑱)のL5ループ内に接続されたサブ・ボード。
信号はジャンクション・ボックス(㉗)へ入力され、㉘〜㉞まで番号順に通過し、再度ジャンクション・ボックス(㉗、㉖)を経由後、プログラマブル・スイッチャー(⑱)のL5 RETURNに戻る。
ボード内で唯一のマルチ・エフェクター(㉘)は、Seekerモードのみを使用。白井曰く、“Seekerモードの元になっているZ.VexのSeek Wahも試したんですけど、そっちはいつまでたってもタイム感が合わなくて。だから、これだけはマルチを使っています”とのこと。
本人インタビュー&徹底解説
ボードのテーマは「好きなものを凝縮」
BP-1W(②)の使い方から聞かせて下さい。以前はこの位置にSOLODALLASのTHE SCHAFFER REPLICA(ブースター)を入れていましたよね?
BP-1Wはハムバッカーのギターからシングルコイルに持ち替えた時に、出力差を補正するために使っています。THE SCHAFFER REPLICAはトレブル・ブースターなので、意図しない高音が出てしまって。
なので、ちょっと前まではMXRのMicro Amp(ブースター)に変えていたんですよ。でも、たまたまYouTubeで聴いたBP-1Wの音が凄く良さそうだったので、導入に至りました。
BOSSの技 WAZA CRAFTシリーズでは初のブースター・ペダルですよね。
こういうのが欲しかったんですよ! もちろんMicro Ampも良かったんですけど、もうちょっとだけ音を調整する余地があったら良いなあと思っていたんです。
なんとなくブースターと言われるペダルって、トレブルが出やすいイメージがあるんですよね。その反面、BP-1WはEQの感じも変わらないし、歪み具合もコントロールできるので、理想のブースターですね。あと、モードも変えられるじゃないですか。それも凄く良くて。
BP-1Wのモード(RE/NAT/CE)はどのタイプを使っていますか?
右上のBP-1W(②)はNATで、ブースターとして使うBP-1W(⑰)はCEモードですね。特にCEモードは、BOSSのCE-1をモチーフにしているだけあって、ビンテージ・ライクで、元気すぎないサウンドですね。たぶん、BOSSはこのモードを使ってほしいんじゃないかなと思ってます(笑)。
また、TONEFLAKEのプリアンプ(③)のツマミの位置が、以前の取材時(2022年8月)から大きく変わっていたのが気になりました。
これはアンプをマーシャルのJTM45 Offset reissueに変えた影響ですね。音色は変わっていません。
昔からボードに入っていますよね。やはり、なくてはならないペダルですか?
どうなんでしょう。これはずっとつなぎっぱなしで、オフにすることもできないんで、もはやどれくらい変わっているのかわからないんですよ(笑)。もしかして、はずすとけっこう違うのかな……。
導入時の印象はどうでしたか?
サウンドに色気が出ましたね。今は味つけ程度の設定ですが、強めに掛けると、ニーヴの独特な歪み感がほんのりと出てきます。
では、歪みペダルの使い方を教えて下さい。メインのエフェクターは?
メインのオーバードライブはOD-1(⑪)とSD-1W(⑫)で、SD-1Wがシングルコイルのギター用です。OD-1X(⑬)は、さらにキツく歪ませたい時で、クランチはBD-2W(⑮)ですね。Harmonic Antagonizer(⑭)は、「Mosquito Bite」(2018年)とかで使うファズです。曲によっては掛けっぱなしの場合もありますね。ゲートがしっかり掛かるし、ビット・クラッシャー的な歪み感も気に入っていて。ちなみにこの5台は、どれも単体で使っているペダルです。
OD-1(⑪)の位置にあるペダルは頻繁に入れ替わってますよね。
ここは気分で替えてるんですけど、OD-1を久しぶりに使ったらやっぱり凄く良い音で。ただ、出力が小さいので、レベルはマックス付近まで上げないと使えないです。現行のBOSSのエフェクターと比べると音量は小さいですね。
ブースターはどのペダルを使っていますか?
DS-1W(⑯)とBP-1W(⑰)です。以前、⑯の位置はUNION Tube & TransistorのBumble Buzz(ファズ)だったんですけど、音量が調整できないのと小さすぎて、単体で使うのが厳しかったんです。あれは「クラッシュ」専用のペダルだったというのもあり、DS-1Wを入れました。
ジョン・フルシアンテが使ってるDS-2(ディストーション)も持っているんですけど、技シリーズが出たと知って入手したんです。一旦導入したっていう段階なので、まだそんなに使えていないんですけど、“ここぞ”という時に踏みたいですね。
技シリーズで言うと、発売後即完売してしまったレアなファズ(㊲)が……。
実はあんまり使ってないんですよ。ぶっちゃけ、自慢するために置いてます。“これ持ってるんだぜ”って(笑)。どっちかというと、その隣のFZ-1W(⑥)を多用してますね。これ、めちゃくちゃ好きです。
どういったサウンドで使っていますか?
ファズの音色でギター・ソロを弾きたい時に使います。でも、コード・プレイをしても輪郭がまったく崩れないんですよ。
どんどんBOSS製のペダルが増えていきますね。
BOSSのペダルが凄い好きなんですよ。特に技シリーズは“これがこうだったら良いのにな”っていう部分が改善されていて、痒いところに手が届くというか。あと、BOSSのペダルに共通して言えることは、ギターとアンプの個性を邪魔しない。
自分が使っているマーシャルはめちゃめちゃ良い音で鳴ってくれるんで、個性が強いペダルを入れると、その持ち味が消されてしまう気がするんです。でもBOSSのペダルは、エフェクター自体の個性や音の主張が、良い意味で弱いんですよ。
Harmonic Antagonizer(⑭)みたいに、音の個性が強いペダルも一つの音色として大事なんですけど、やっぱり自分が優先したいのはアンプとギター自体のサウンドなんです。だから、機材を選ぶ順番で言うとエフェクターは3番目なんですよ。ギターが一番大事で、その次がアンプ、最後にエフェクターっていう。なので、その“3番目”に選ぶ機材として一番安心なのがBOSSのペダルなんです。
スイッチャー(⑱)内の空間系ペダルについて聞かせて下さい。Mad Professorのリバーブ(⑲)はわりと濃いめに掛けていますね。
そうですね。これはライブごとに、気分で踏むって感じです。
なるほど。3台のディレイ(⑳〜㉒)はどのように使い分けていますか?
DM-2W(⑳)は味つけ用で、DD-6(㉑)は「LAST MINUTE」などで、テンポを決めてディレイを掛けたい時に使います。 RE-2(㉒)は入れたばっかりで、今は「todayyyyy」専用です。リバーブを足せるので、単体のディレイ・ペダルより幅広いセッティングができそうだなと思っています。
コーラス(㉔)とディメンション・コーラス(㉕)の使い分けは楽曲ごと?
いまだにディメンションの役割がよくわかってないんですけど、この曲はコーラスじゃないなって思った時に使います(笑)。
次はスイッチャー(⑱)から分岐した左側のサブ・ボードについて教えて下さい。
このボードは「VANILLA SKY (feat. WurtS)」を出した頃(2023年7月)ぐらいから使い始めました。メインのボードに入らないけど置いておきたいペダルをこっちのボードに入れてる感じですね。
[Alexandros]は曲間の演出をこだわるので、変わった音色が突発的に欲しくなるタイミングが多くて。なので、それに対応できるように置いてるんです。
Moogerfoogerが4台も並んでいると迫力ありますよね(笑)。
『But wait. Cats?』(2022年)の制作時に狂ったようにエフェクターを集めていて。ここのMoogerfoogerたちは、その時期に買い揃えたものです(笑)。レコーディングで使ってる人はたまにいますが、ライブのステージに置いてる人は少ないですね。
替えを探すのが難しいですからね。
僕らはフェスや屋外のステージも多いんですが、そこにあえて持っていくっていうチャレンジ性みたいな。
どのように使っていますか?
使い場所を決めるってよりも、アドリブで使うエフェクターとして考えてますね。これだけ用意しても、結局一回しか使わないってこともあります(笑)。特にMoogerfoogerのペダルは、踏んでからツマミをいじったほうが面白い音が出るので、設定はどんどん変えていきます。
なるほど。
空間系エフェクターって、つなげばつなぐほど楽しいなって思いますね。何個もつないで1つの音色を作るみたいな。
どんな音が出るのか想像できないですよね。
だからこそ楽しいんです。
白井さんのボードは、アナログ・エフェクターが大多数を占めているところに、こだわりとロマンを感じました。
確かに、デジタル・エフェクターは少ないですね。特にこだわってるわけじゃないのですが……。あんまり好きじゃないかもしれないですね(笑)。
(笑)。
そこまでデジタルに反対してるわけじゃないんですけど、正直テンションが上がらない感じはありますね。
無意識にアナログ・エフェクターを選んでいたんですね。
そうですね。好きなものを集めていったらこうなったっていう。次はMXRのdistortion IIを試したいなと思って探している最中です。そんな感じで、エフェクター欲は尽きないですね。見た目がキャッチーなので、コレクション欲も高まるし、あったらあっただけ楽しめる。夢がありますよね。
でも、ぶっちゃけ空間系のエフェクトは最近のデジタル・エフェクターが強いなって感じます。ディレイとかは音がどこまでも伸びるし、リバーブも物凄い種類があったり。それこそstrymonとかは、今までのペダルじゃ太刀打ちできないかもって思ったりも。まあ、そこは持ちつ持たれつ(笑)。
最後に、このボードのテーマを教えて下さい!
好きなものを凝縮したボードですね。まあ、ギタリストの足下って、みんなそういうものかなと思います。