無二のヘヴィ・リフを生み出した、悪魔の二本角。トニー・アイオミのSG 無二のヘヴィ・リフを生み出した、悪魔の二本角。トニー・アイオミのSG

無二のヘヴィ・リフを生み出した、悪魔の二本角。トニー・アイオミのSG

1961年の登場以来、世界中で長きにわたり愛され続けているギブソンSG。その逸話や魅力を、ギタリストとの物語をとおしてお届けする“ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集”。第4回は、ブラック・サバスのトニー・アイオミ。彼とギブソンSG&SGタイプの物語をお届けしよう。

文=細川真平 Photo by Ian Dickson/Redferns

偶然手に入れることが出来た左利き用のSGスペシャル

 ロックの楽曲において、リフの重要性は言うまでもない。リフこそがロックをロックたらしめていると言っても過言ではないほどだ。

 だからこそ、ロックの名曲と名リフは切っても切れない関係性があるが、ブラック・サバスの楽曲群は、レッド・ツェッペリンと並ぶほどに名リフの宝庫と言っていいだろう。

 リフ・メーカーとしてのジミー・ペイジとトニー・アイオミを大雑把に比較すると、ペイジのリフには躍動感があり、アイオミのリフにはおどろおどろしさと、地を這うような重厚感がある。それは、オカルティックなヘヴィネスを目指したブラック・サバスには、なくてはならないものだった。

 その印象的なリフを奏でてきたのが、ギブソンSGスペシャルであり、同タイプのギターたちだ。

 しかし、ブラック・サバスの同名デビュー・アルバム(1970年発売。邦題は『黒い安息日』)以前は、ストラトキャスターがアイオミのメイン・ギターだった。

 ただし、サブとしてSG(モデル詳細は不明)を所有。地元バーミンガムで1967年に購入したもののようで、左利きのアイオミは右利き用のそのギターをひっくり返して使用していた。当時、左利き用のギブソン製ギターは、イギリスでは手に入れるのが難しかったと彼は語っている。

 しかし、ある日彼は、バーミンガムに“左利き用のSGを使用している右利きの男”がいるという情報を得た。まるで鏡に映ったかのように、アイオミとまったく逆のことをしている人物が、偶然にも近くに存在したわけだ。

 そこで彼は、この男にコンタクトを取る。その結果、バーミンガムのある駐車場で、それぞれのSGを携えて初めて会った二人は、その場で合意し、互いのSGを交換。

 こうしてアイオミは、左利き用のSGスペシャルを手に入れたのだった。

 アルバム『Black Sabbath』は1969年10月に、わずか1日でレコーディングされたが(もう1日はミックスに充てられた)、最初に「Wicked World」(当時はイギリス版アルバムには収録されず、シングル「Evil Woman」のB面曲に。アメリカ版アルバムには収録)を録ったところでストラトキャスターのリア・ピックアップが故障し、音が出なくなる。

 そのため仕方なく、他の曲ではSGスペシャルを使用することに。しかしそれが思いのほか良く、このギターこそがブラック・サバスの世界を作り上げるのに適任だとアイオミは気づいたのだろう。

 こうして、SGスペシャルが彼のメイン・ギターとなる。

“モンキー”を持つトニー・アイオミ。(Photo by Ian Dickson/Redferns)

 このスペシャルは1965年製。バイオリンを弾いているサルのイラスト・ステッカーがボディに貼られていることから、“モンキー”と呼ばれるようになった。

 このステッカーがいつ貼られたかは不明だが、1970年撮影とされるライブ写真ですでに貼られていることが確認できる。もしかしたら、アイオミが入手した時点で前オーナーによって貼られていたという可能性も否定はできない。

 入手後の改造としては、フロント・ピックアップをジョン・バーチというギター・ビルダーが製作したP90タイプのカスタム品、“Simplux”に交換。これはメタル・ケースに入った仕様になっており、これに合わせてリア・ピックアップもリワインドの上、同じくメタル・ケースに格納された。

 また、指板をポリウレタン・ラッカーでコーティング。アイオミは工場勤務時代の事故で右手中指と薬指の先端を失い、そこにサックを嵌めて演奏するようになったが、そのサックが滑りやすいようにコーティングしたようだ。

ブラック・サバスの第1次黄金期を築いた“モンキー”の行方

 トミーは“モンキー”を、1975年までレコーディングでもツアーでも愛用した。つまり、ブラック・サバスの第1次黄金期を築いたのがこのギターだった。

 しかし、このギターにはチューニングが不安定で、ハウリングを起こしやすいという問題点があったようで、1975年ごろには引退。前述のジョン・バーチが製作したSGタイプにメインの座を譲ることになる。

ジョン・バーチが製作したSGタイプ。(Photo by Paul Natkin/WireImage)

 引退した“モンキー”はその後、ずっとケースに仕舞われたままだったが、アイオミはそれを不憫に思い、多くの人に見てもらったほうがいいと考えて、ハード・ロック・カフェに寄贈(正確な時期は分からないのだが、2010年代のことだと思われる)。そして、ニューヨーク店に展示されることになった(現在も展示されているかどうかは不明)。

 展示された“モンキー”の写真を見ると、もとはブリッジとテール・ピースが分かれた仕様だったのが、一体式であるバダス・ブリッジに交換され、テール・ピースを留めてあったネジ穴が空いたままになっていることが分かる。

 この改造がいつなされたのかは不明だ。ケースに仕舞いっ放しだったとアイオミは言っているが、実際にはこうした改造も施し、少しは使用をしていたのだろうか?(引退直前に改造されていた可能性もなくはないが)

 ところで、“モンキー”が初期ブラック・サバスの重く、激しく、ダークなサウンドを作り上げたことは間違いないが、アイオミのサウンド・メイクに欠かせないエフェクターとして、レンジマスター(トレブル・ブースター)がある。

 ブルース・ブレイカーズ時代のエリック・クラプトン、ロリー・ギャラガーらが愛用したことで、60年代半ば以降のブリティッシュ・ロック・サウンドにおける重要な隠し味となったこのデバイスは、アイオミ・サウンド=ブラック・サバス・サウンドにも絶対に欠かせない。

 そのため、“モンキー”の素の音はなかなか分からないが、もしそれを知りたければ、『Paranoid』(1970年)に収録されたサイケデリックな異色曲、「Planet Caravan」を聴くのが良いだろう。

 アイオミはここでは珍しくレンジマスターを使用しておらず、これもまた珍しくクリーンめのトーンでややジャジィな演奏を繰り広げている。
なるほど、これが“モンキー”の本来の音かと思わされると同時に、圧倒的なリフ・メーカーであるアイオミの、そうではない意外な一面も楽しめるはずだ。

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