1961年の登場以来、世界中で長きにわたり愛され続けているギブソンSG。その逸話や魅力を、ギタリストとの物語をとおしてお届けする“ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集”。第6回で取り上げるのは、フランク・ザッパの魔改造SGだ。
文=細川真平 Photo by Gai Terrell/Redferns
“Roxy”とともに理想のサウンドを追い求めたザッパ
膨大な作品数や、多様な音楽性、またそれに対する多彩なアプローチのために、アーティストとしての全容を把握することが困難にすら思えるフランク・ザッパ。特異な風貌や、アバンギャルドさ、複雑さ、加えて歌詞のユニークさが日本人には伝わりにくいという理由などもあって、なかなか取っつきにくい存在だと思っている方も多いはずだ。
だが、一度ハマると抜け出せないのがザッパ・ワールド。味わっても味わっても新たな味が染み出てきて、リスナーを音楽的な悦びの中で幻惑し続ける。
だが、ギタリストとしての彼は、かなり過小評価されているのが実情だ。総合的なアーティストとしての部分が際立ちすぎているからこそだろうが、ギタリストとしての才能も桁違いで、これを聴かないのはもったいなさ過ぎると言える。
そのザッパが使用したギターは数多くあるが、その中で特に、1970年代に使用した2本のSG(1本はSGタイプ)は忘れられない。
1973年に彼は、キャリア中で最重要作の一つと目されるアルバム『Over-Nite Sensation』(名義は彼がリーダーのマザーズ・オブ・インヴェンション)を、1974年には全米ビルボード・チャート10位という、彼にとって最大のヒットとなった『アポストロフィ (‘)』(本人名義)を、同年にはライブ名盤『Roxy & Elsewhere』(フランク・ザッパ・アンド・ザ・マザーズ名義)を発表。
この乗りに乗っていた時期に彼が愛用したギブソンSGが、通称“Roxy”。これはもちろん、このギターがジャケットに写っている『Roxy & Elsewhere』のタイトルに由来している。Roxyは、このライブ盤に収録された多くの演奏が録音された、ハリウッドにあるライブハウスの名前だ。
理想のサウンドを追求するための改造魔と言ってもいい彼だから(ギター・マガジンWEBの改造レス・ポール特集ページを参照のこと)、このギターにももちろん、いくつかの改造が施されている。
まず、このSGはもともとスタンダードではなく、P-90ピックアップ搭載のスペシャルで、1960年代前半のモデル。ピックガードがラージに変更になるのが1966年からだから、それよりも前のものということになる。そのピックアップをハムバッカーに変更。これはセイモア・ダンカン製だという噂もあるのだが、ダンカンが会社として設立されたのが1978年だから、もし替えられたとすれば、それ以降の話ではないだろうか。
ただいずれにせよ、このピックアップは4芯仕様で、コイル・タップとフェイズ・アウトが可能。そのためのミニ・スイッチ2個が、ピックガード上のホーンの近くに設けられている。
また、ヘッドストックが白っぽいのも特徴。当時のヘッドストックは、ホーリー材の平板にGibsonロゴ・インレイが仕込まれ、それがヘッドストック表面に貼られていたが、その塗装が剥がされ、ホーリー材本来の色が剥き出しになっている。また、ネック裏側も塗装が剥がされており、こちらはマホガニーの地色が露出。
そして、チューン・オー・マティック・ブリッジに、Lyreのビブラート・ユニットが搭載されていた。アームは平べったい形状のものだが、彼はこれを外していたり、後ろ側(ボディ・エンド側)に回したりして、あまり使用していなかったようだ。
『Roxy & Elsewhere』を聴けば、このギターがどれほど多彩なサウンドを生み出すことができるかを、もちろんザッパの素晴らしいプレイとともに、味わうことができる。
魔改造が施されたSGタイプ“Baby Snakes”
さて、このギターの次にザッパの愛機となるのが、“Baby Snakes”だ。1979年にザッパの映画『Baby Snakes』が公開されたが、ここにはニューヨークの劇場でありライブハウスでもあるパラディウムでの1977年のライブの模様が収録されていた。“Baby Snakes”はそこで使用されていたために、映画名から取ってこう呼ばれるようになる。
見た目はSGスタンダードだが、実はギブソン製ではなく(ロゴはGibson)、Bart Nagelという、サンフランシスコ在住のギター製作者が作ったもの。アリゾナ州フェニックスでのライブのとき、バックステージに持ち込まれたこのギターを、ザッパは500ドルで購入した。
特徴としてはまず、フレット数が23本。そのために、フロント・ピックアップの位置は通常よりやや下にずらされている。5フレット目のポジション・マークは星形で、12フレット目は輪っかを4つ組み合わせたような意匠(その他はドット)。ブリッジは、当時のギブソンの新製品であるハーモニカ型のワイド・トラベル・チューン・オー・マティックを使用。また写真を見ると、ボディ表面に共色に近いながらも別の材でできた薄い板が貼られているようだ。また、ブリッジ下部左右には、デザイン的な要素が施されている。
このギターは購入後、ザッパの機材モディファイを手掛けていたRex Bogueによって、様々なサウンドが出せるようにかなり手を加えられた。18デシベルの音量アップが可能なプリアンプと、Dan Armstrongのリング・モジュレーターであるGreen Ringer、トレブルとベース別のイコライザーの回路を内蔵。加えて、コイル・タップ、フェイズ・アウト機能も追加された。そのため、コントロール部には多くのミニ・スイッチが並んでいる。その姿を見るだけで、“Roxy”も多彩なサウンドが出るように改造されてはいたが、それでは飽き足りなくなった(もしくはザッパの進化にギターが対応しきれなくなった)のだろうと想像させられる。
『Baby Snakes』の映像商品は手に入りにくいが、サウンドトラック・アルバムもあるので、ぜひそちらでこの魔改造されたSGタイプのサウンドを体験してみていただきたい。
ちなみにこの2本とも、1993年のザッパの逝去後は、息子でギタリストのドゥイージル・ザッパが保管している。
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