ジェフ・ベックの謎ストラト! ミニ・スイッチが搭載された、“シェクター・アッセンブリー・ストラト” ジェフ・ベックの謎ストラト! ミニ・スイッチが搭載された、“シェクター・アッセンブリー・ストラト”

ジェフ・ベックの謎ストラト! ミニ・スイッチが搭載された、“シェクター・アッセンブリー・ストラト”

ジェフ・ベックが1978年にスタンリー・クラークを伴って来日した際に使用したストラトキャスターは、ホワイトのボディにローズ指板のネック、エレクトロニクスにはSCHECTER製のアッセンブリーが組み込まれた1本だった。キャリアのごくわずかな期間でしか登場していないため、本器の詳細は不明。現在得られている情報から、このストラトの仕様を考察していこう。

文=細川真平 Photo by Koh Hasebe/Shinko Music/Getty Images

パーツの年代がバラバラな“SCHECTERアッセンブリー・ストラト”

ジェフ・ベックは1978年に、ジャズ/フュージョン畑の超絶ベーシスト、スタンリー・クラークを伴って来日した(ドラムスはサイモン・フィリップス、キーボードはトニー・ハイマス)。ジェフはスタンリーの75年のアルバム『Journey To Love』で、タイトル曲のほかに「Hello Jeff」という、まさにジェフありきのナンバーにゲスト参加している。1975年と言えば、ジェフが『Blow by Blow』でジャズ・ロック/フュージョン期に全面的に突入した年。そんな彼にとってスタンリーのプレイはこの上なく魅力的に映ったようで、この共演もジェフからのアプローチがきっかけだったという。

ジェフ・ベック
Photo by Koh Hasebe/Shinko Music/Getty Images

この時の来日ツアーで使用したのが、SCHECTERのアッセンブリーを搭載したストラトキャスターだった。ネックはスモール・ヘッドで、スラブ貼りのローズウッド指板だから、1959年後期から1962年後期のものと思われる。しかしボディは、ピックガードを留めるネジが8本という1959年前期までの仕様となっていて、ネックとボディの年代が合っていない。もちろん、この黒のアルミ製ピックガードはSCHECTER製だろうから、ネックとボディの年式は合っていて、ピックガードのみが違う年代の仕様を持っている可能性もある。だが、ピックガード左のフロントとセンター・ピックアップの間のネジ位置は1959年前期までとそれ以降では違っているので、わざわざネジ穴を開け直したとは考えにくい。そう考えると、ネックは1959年後期〜1962年後期製、ボディは1954〜1959年前期製ではないかと思われる。またフィニッシュは、写真で見る限り、その質感からしてリフィニッシュの可能性が高いように思われる。と、こうした要素を考え合わせると、ボディからしてSCHECTER製だった可能性も捨て切れなくなるのだが、これに関しては何とも言えない。

それより何より、このストラトの最大の特徴は、前述したSCHECTERのアッセンブリーだ。太くてフラットなポール・ピースを持つ3基のピックアップは、SCHECTER“F500N”。これらをコントロールするために、3つのミニ・スイッチが付いていた。

このミニ・スイッチは、それぞれがどの(どれらの)ピックアップを選択し、どういう組み合わせの音が出るのかなどについて、今ひとつ不明確だ。これまでも書物やネットに解説はいくつも出ているものの、これが絶対に正しいと言えるものがない。まずもって分からないのが、このミニ・スイッチが2ウェイなのか、3ウェイなのかなのだが、両者が混在しないと説明が成り立たないものあり、混乱が生じてしまう(実際に2ウェイと3ウェイが混在していたのかもしれないが)。なので、ここでは最も言われている説を中心にしながら、考察を加えてみたい。

メーカー独自の解釈で作られていたコピー・モデルのサーキット

まず、ネック側のスイッチは、フロントとセンター・ピックアップを直列に接続、つまりハムバッカーにするのと、それをオフにする選択ができるようになっている。真ん中のスイッチは、フロント・ピックアップかセンター・ピックアップかを選択。ブリッジ側のスイッチは、リア・ピックアップの選択と、それをオフにする選択。この説明であれば、すべてが2ウェイで事足りることになる。

しかし、ここで問題になるのは真ん中のスイッチで、これがフロント・ピックアップかセンター・ピックアップの選択しかできないとなると、常にどちらかのピックアップが鳴っていることになる。それだとリア・ピックアップのみを鳴らすことができなくなるので、あり得ないはずだ。そうするとこれは、オフ・ポジションのある3ウェイ・スイッチだったと考えるのが正しい気がする。また、ブリッジ側のスイッチにピックアップの逆相を選ぶ(フェイズ・アウト・サウンドを作る)機能があったとする説もあるのだが、だとするとこれも3ウェイの必要がある。そしてこの場合には、ネック側スイッチでフロントとセンターの直列接続を選んだ場合に、このブリッジ側スイッチで片側のピックアップの位相を反転させることになるはずだ。しかし、であればフロント側スイッチを3ウェイにして、そこにこの機能を割り当てたほうが分かりやすい気がするのだが……。

などなど、考え始めるとどんどん混乱してきてしまう。ちなみに、このサーキットの配線はセイモア・ダンカンによるものだという説もある。真偽のほどは不明だが、ジェフとセイモアとの関係性を考えるとない話ではない。また、このストラトは1マスター・ボリューム、1マスター・トーンとなっており、それらのノブにはテレキャスター用と思われるメタル・ノブが使用されている。

このギターは当時、ジェフ・ファンの間で非常に大きな注目を集め、いくつかの日本のメーカーからコピー・モデルが出るほどの人気だった。コピー・モデルのサーキットについては、詳細が不明だったために、独自の解釈で作られていたようではあるが。

しかしジェフ本人は、1977〜79年の間しかこのストラトを使用しておらず、それも決してメイン・ギターではなかった。初導入したのはヤン・ハマー・グループとのジョイント・ツアー中のこと。彼らの分厚いサウンドに対抗するためには、もっと太さと多彩さが必要だと思ったのかもしれないし、それはスタンリーとの共演でも同じことが言えそうだ。しかし結局、“俺には必要ない、これなしで問題なくやっていける”と思い、それで使用をやめた、というのが正しい推論のような気がする。

ジェフ・ベック
Photo by Paul Natkin/Getty Images

追記

このSCHECTERアッセンブリーを搭載したストラトについて、有力情報が寄せられたので追記したい。これは1978年のジェフ来日時に、実際にこのストラトに触れた方の情報が基なので、信憑性は高い。

まず、このストラトは(ボディもネックも)1961年前後のフェンダー製とのこと。本文中に触れたネジ穴の件だが、このギターにはSCHECTER製の年式が合っていないピックガードが無理やり付けられており、大きな写真で見ると分かるのだが、左側のセンター・ピックアップの近くと、右側のくびれ部分の穴にはネジがはまっておらず、下のホワイト・フィニッシュが見える状態になっていた。なので、“1961年前後のフェンダーのストラトに、ネジ穴の合っていないピックガードを持つSCHECTER製のアッセンブリーを搭載したもの”、が正しい。

またミニ・スイッチは、ネック側だけ形状が違って円筒形で、上部に赤い樹脂が埋め込まれたものだった。これは2ウェイだ。その他の2つは上部が長方形の、上に行くに従って広がる四角柱で、3ウェイになっている。それぞれの機能は下記のようになっていた(ネック側から1、2、3としている)。

  1. On-On / フロント・ピックアップ選択 – フロント&センター・ピックアップの直列接続(ハム)選択 ※1は、2がフロントを選択している場合のみ有効となる
  2. On-Off-On / フロント・ピックアップ選択 – オフ – センター・ピックアップ選択
  3. On-Off-On / リア・ピックアップ選択 – オフ – リア・ピックアップの逆位相選択

まとめてみると、2でフロントかセンターを選択でき、フロントが選択されていれば、1でフロントのみ、もしくはフロント&センターの直列接続(ハム)を選べる。フロントだけを鳴らしたい場合には、1と2の両方でフロントを選択しなければいけない。リアのみを使いたい場合には、3でリアを選択しつつ、2はオフを選択する必要がある(2でフロント以外を選択すれば1の機能は働かない)。2でセンター、3でリアを選んだ場合には、センターとリアの並列接続になり、3でリアの逆位相を選べばフェイズ・アウト・サウンドとなる。

このようになかなかややこしい仕組みになっており、どうせならセンターとリアの直列接続もあったほうが良かったのでは?という疑問なども湧いてはくるのだが、実際のところこうなっていたとのことだ。この時の来日ステージを観たお客さんの中には、ジェフも使いづらそうにこのミニ・スイッチをいじっていたという証言をされている方もいらっしゃって、結局はそれが、このストラトがメイン・ギターになれず、短期間で使用されなくなったことの一番の原因かもしれない。