『足下調査隊!』番外編|西田修大が語るペダル選びの基準とは? 『足下調査隊!』番外編|西田修大が語るペダル選びの基準とは?

『足下調査隊!』番外編|西田修大が語るペダル選びの基準とは?

ギタリストの足下を調査する不定期連載企画、『月刊 足下調査隊!』。第7回では西田修大のペダルボードをフォーカスしたが、本記事では本編には収まりきらなかったトークを番外編としてご紹介。西田が語るペダル選びの基準とは?

取材/文=伊藤雅景 撮影=大谷鼓太郎

『足下調査隊!』 / 西田修大のペダルボード
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Interview

“意図しない色付けを避ける”っていう
考え方を大切にしています。

西田修大の“2ndボード”
西田修大の“2ndボード”

ここまで話を聞かせてもらいましたが、この2ndボードは1stボードとはペダルの種類や雰囲気がまったく違うんですね。

1stボードと同じペダルは、NSD、HEDRA、MT-2、DIG、Tensorだけですね。ほかのペダルに関しては、仮に役割は同じでも1stボードとはできるだけ違うものを選んでいます。完全な代替品というより、“こっちはこっちで良いよね”っていうシステムを作りたくて。今はこのボードの使用頻度のほうが多い時期もあるくらい気に入っています。

2021年1月に撮影された、西田の“1stボード”
2021年1月に撮影された、西田の“1stボード”

ペダルの接続順も想像できない順番でした。

僕はペダルをかなり頻繁に踏み分けるので、プレイアビリティ重視の置き方になってますね。頑張ってパッチ・ケーブルを引き回してもらいました(笑)。ペダルの数を減らしてコンパクトにしたかったんですけど、結局なかなか大量になっちゃいましたね……。

ペダル選びの基準などはありますか?

“柔軟性”を意識しました。1stボードは“その音しか出ません”みたいな頑固で我の強いペダルが多いんですけど、こっちは1台で複数の役割を担える機種が多いですね。あと、こっちのボードはバイパス音が良さそうな新しい機種を選んで入れているので、バイパス音の印象が1stボードと全然違います。

新しい機種が多いということは、1stボードに比べてハイファイになってるんですか?

うん、そう言っていいと思います。どっちのボードも好きなんですけどね。特に感じるのは、こっちのほうが弾いた時の手のニュアンスが失われないっていう部分です。

それに貢献してるペダルを挙げるとすると?

正直、これくらいの数を直列でつなぐと、もう具体的なファクターがどうというより全部つないで鳴らした時の雰囲気重視かも(笑)。例えば、名越(由貴夫)さんのボードとかも凄い数が直列でつながれているじゃないですか? でも、いつもとことんギターらしい、めちゃくちゃ良い音だし、名越さんとバイパス音の話をした時も“日々全部の要素を悩むけど、最終的にはフィーリングだよね”みたいな結論になったので、もうそれが大事だとなってます(笑)。

1stボードは、それこそ名越さんから影響を受けてFulltoneのSupa-Trem(トレモロ)をバッファー代わりに常時オンにしていますけど、こっちではそういったペダルはないです。いくつかバッファーも試してるんですけど、結局その機種のカラーが付くのが苦手で、まだしっくりくるものがないんですよね。色んな機種を試しきれてないっていうのもあるんですけど。

逆に入れないようにしたペダルはありましたか?

通すだけで露骨に音が変わるペダルは避けています。バイパス音が好みじゃないものはモディファイを加えてみたりもしました。僕はいわゆる音痩せより、バッファーがかかることによる音の変化のほうが気になることが多いので、そこは慎重に考えていますね。

なので極論を言うと、バッファーで変に音が変わっちゃうんだったら痩せてくれていい。ジョン・フルシアンテも、あの数のペダルを直列でつないでも超かっこいい音を出していますし!

音痩せよりも変化が気になると。

バイパス音の話は本当に難しいですよね。最近はトゥルー・バイパスとバッファード・バイパスが選べるエフェクターも多いじゃないですか?

例えばHEDRAをバッファードにすると音の方向性が一気に変わって、狙ってない方向に行くんですよ。なのでHEDRAはトゥルー・バイパスにしておかなきゃいけないんですけど、そうするとオンにする時に“ボン”とノイズが出ちゃう(笑)。しかもそれは一概にトゥルー・バイパスとバッファード・バイパスで括れる話ではなく、各機種ごとに傾向が違ったりする。

課題は常にたくさんあるし、悩み続けているので結論を出すのは難しいですけど、僕はまず“意図しない色付けを避ける”っていう考え方を大切にしています。そういう意味では、ここにいるやつらは全部大丈夫。

“狙ってない方向に行く”とは、具体的にどういった変化だったのでしょうか?

エレキ・ギターの弦って鉄じゃないですか? “鉄弦の振動を磁石で拾ってる感が減る”という感じですね。ハイファイで美しい質感でも、中にはエレキ・ギターを弾いている鉄弦感や手ざわりが減っちゃうバイパス音もあると思っていて。

なるほど。

1stボードはそういう部分をまったく気にせず、出したい音が出せるペダルを好き放題につないでるし、その良さも確実にあるんですよね。しかも、いわゆる音痩せがサウンドメイクの一部、時に要として機能していることもたくさんあると思ってます。

でもこのボードは、鉄弦が持つ画素数みたいなものをできるだけ残したかった。直列だし劣化してるに違いないけど、“鉄弦を触って鳴らした音を拾っているよ”っていう情報は残っていてほしい……みたいな願いを込めてますね(笑)。

ハイファイとローファイの良い混ざり具合というか……。

うん。さらにその上で、このボードの前後にも結局ペダルを色々つなぐんですけどね(笑)。この1枚を核に、演奏する音楽によってペダルを足し引きしていきます。例えばChase Blissのペダルはどこへ行くにも必ず持ち歩いてますよ。

ボード外のペダルの変化も、
自分にとって日々の大きな楽しみですね。

Chase Blissのペダルは色々な種類を持っていますよね。

Chase Blissのペダルは大好きだし、もう必須ですね。それ以外だと最近はOrigin EffectsのCali76(コンプレッサー)にハマってます。あとはEmpress EffectsのHEAVYもはずせないですね。ジャズマスターで、ぶ厚いディストーションが欲しい時にはその2台が大活躍してくれます。

左から、Empress Effects / HEAVY(ディストーション)、Origin Effects / Cali76-CD(コンプレッサー)
左から、Empress Effects / HEAVY(ディストーション)、Origin Effects / Cali76-CD(コンプレッサー)

それぞれの使い方を教えて下さい。

HEAVYはどんな状況でもヘヴィな音を作れるペダルですね。環境を選ばず頼れるペダルです。Cali76でアタックを少しつぶして、サステインをグッと伸ばして、そのうしろにHEAVYをかますと、しっかりぶ厚くなります。乱暴に言っちゃうと、ジャズマスターの波形自体を無理矢理ハムバッカーに近づけるというか。

この2台は昔から持っているんですか?

そうですね。でもコンプレッサーは昔から使い方がよくわかっていなくて、いまだにわからない部分もたくさんあります(笑)。今はギターで使うペダルコンプレッサーに関しては、“アンプやエフェクターに入れる前の波形を見合う形に調節するもの”という認識で使ってますね。そう考えてから使える場面が増えてきたんですよ。

コンプレッサーを使う時に、ドライとウェットでの音量差はつけていますか?

聴感上ではわずかに上がってるって感じなんですけど、基本的にゲインはユニティになるようにしてます。

コンプレッサーをHEAVY以外と組み合わせることも?

あらゆるものと組み合わせますよ。同期と一緒に演奏する時なんかは、クリーンなボリューム奏法やリバース・エフェクトとの組み合わせで特に映えます。あとはノイズを目立たせたい時も踏んでますね。“オケに対してどう混ぜるか?”と考えると使いどころが見えやすくなりました。オケとの混ざりが良ければいいというわけではないので、そこの調整も兼ねていますね。常時オンではないですが、比較的使用頻度が高いです。

重要な役割ですね。それこそボードの中に入れてしまいたいですね(笑)。

そうなんですよ(笑)。でも、レコーディングでは使わなかったり、1stボードの時にも持ち出すことがあるので、バラバラで持っていたほうが使いやすいんです。

ボード外に置くほかのペダルも教えて下さい。

おもに使うのはこのあたりですね。特に最近はZ.VexのOctaneをよく踏んでます。僕はZ.VexのFuzz Factoryが大好きなんですけど、特に好きな個体は1stボードに組み込んじゃっているので、どうせなら違う機種を楽しもうと思ってOctaneをZ.Vex枠として用意してます。ボード外のペダルの変化も自分にとって日々の大きな楽しみですね。

取材時に西田が持ち込んでくれた愛用のペダル達。Z.VexのOCTANE 2(ファズ)は左端。
取材時に西田が持ち込んでくれた愛用のペダル。Z.VexのOctane 2(ファズ)は左端。