【会員限定】ブライアン・ジョーンズを象徴する、VOXのティアドロップ・ギター|連載 ローリング・ストーンズにまつわるギターのハナシ。 【会員限定】ブライアン・ジョーンズを象徴する、VOXのティアドロップ・ギター|連載 ローリング・ストーンズにまつわるギターのハナシ。

【会員限定】ブライアン・ジョーンズを象徴する、VOXのティアドロップ・ギター|連載 ローリング・ストーンズにまつわるギターのハナシ。

ザ・ローリング・ストーンズの歴代ギタリストの愛器を紹介していく、会員限定の連載企画! 記念すべき第1回は、ブライアン・ジョーンズのトレードマークだったVOXのMKⅢにスポットを当てていこう。

文=鈴木伸明 Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images

英国のバンドマンから人気を集めていた
VOXが作ったプロトタイプ

ザ・ローリング・ストーンズがシングル「Come On」でデビューした1963年。当時からブライアン・ジョーンズとキース・リチャーズは、VOXのギター・アンプAC30を使用していた(フェンダーのアンプも併用)。

ベーシストのビル・ワイマンはVOXのFoundation Bass(ファウンデイション・ベース)アンプを使用し、メンバー5人全員でVOXのカタログにも登場していたので、VOXはバンドに楽器提供していたのだろう。

すでに大人気だったビートルズもAC30を愛用しており、VOXは勢いのあるブリティッシュ・バンドに目をつけて、早くから声をかけていたと推測できる。ブライアンのティアドロップ・ギターは、このようなVOXとの強いつながりの中で形になっていたようだ。

トーマス・ウォルター・ジェニングスが興したJMI Corporation(ジェニングス・ミュージカル・インダストリー・コーポレーション)は、イギリスのケント州ダートフォード・ロードに工場があり、VOX製品はそこで作られていた。50年代末にギター・アンプAC15、AC30を発売し、61年からギターの製造を開始。62年には五角形ボディのファントム・ギターを発売した。それをベースに新たなボディ・シェイプとしてデザインされたのが、ティアドロップ・ギターだ。プロトタイプを製作したのはJMIで働いていたミック・ベネット。プロトタイプは63年末にはブライアンの手にわたっていた。

VOX MKⅢ、通称ティアドロップ・ギターを手にしたブライアン・ジョーンズ。1965年頃のTV番組出演時のオフショット。
VOX MKⅢ、通称ティアドロップ・ギターを手にしたブライアン・ジョーンズ。1965年頃のTV番組出演時のオフショット。

独創的なボディ・シェイプに
ストラトキャスターのブリッジを搭載

卵を引き延ばしたような独創的なボディ・シェイプは、ヘッドとのバランスも合わせて、ほかにはないインパクトがある。デビュー当時から洒脱なファッション・センスを発揮していたブライアンが、ほかの誰もが持っていない特別なデザインのティアドロップ・ギターに大きな魅力を感じたのは不思議なことではない。

スペック的な面では、ブリッジに注目したい。よく見るとわかるが、50年代のフェンダー・ストラトキャスター用のブリッジを流用している。ハードテイル用ではなく、通常のトレモロ・アーム付きのタイプで、アーム用の穴があったプレート部分をそのままカットしてボディに組み込んでいた。ブリッジ・サドルもストラトキャスター用のものだ。ティアドロップ・ギターのボディ厚はストラトキャスターより薄く、そのまま取り付けるとトレモロ・ブロックがはみ出てしまうため、ブロックの底面が削られていた。当時、VOXギターのラインナップの中でこのブリッジが採用されたのは、このモデルだけだ。

のちに市販されるMKⅢは、オクターブ調整可能な6駒のブリッジと、ビグスビーB5をシンプルにしたような外観のハンク・マーヴィン・トレモロ・ユニットがテイルピースに搭載されていた(復刻モデルはストラト・タイプのブリッジを採用)。

ピックアップはシングルコイルが2基。2ピックアップというのも特徴的で、当時市販されていたVOXのギターはシングルコイルが3基のモデルが多かった。コントロールは1ボリューム、1トーン、3wayピックアップ・セレクターという、いわゆるテレキャスターと同様のスタイルが採用された。

当時のほかのモデルと同様にゼロ・フレットを採用。ピックガードはミラー・タイプのオリジナル形状。ボディ裏はほかのVOXギターと同様に、バックル傷を防ぐ黒い布製のパッドを装着できるようになっていたが、ブライアンは取りはずして使用していたようだ。ボディ裏にコントロール・カバーが付いており、そこから飛び出たアース線が直接トレモロ・ブロックにつながれていた(ノイズを抑えるために弦アースを取るのだが、通常アース線はボディ内部を通してつながっている)。このあたりはプロトタイプならではの手作り感の残る仕上げだった。

ブライアンがこのティアドロップ・ギターを初めて人前で使ったのは、1964年7月11日、ヨークシャー地方のブリドリントンで行なわれたライブと言われている。以降は様々なステージに登場するようになり、当時のテレビ出演では、「It’s All Over Now」でスライドをプレイする際にこのティアドロップ・ギターをよく使用していた。

ブライアン・ジョーンズの1965年6月のTV番組出演時のショット。ティアドロップ・ギターのネックはメイプル、指板はエボニー、ボディはマホガニー製と言われている。
ブライアン・ジョーンズの1965年6月のTV番組出演時のショット。ティアドロップ・ギターのネックはメイプル、指板はエボニー、ボディはマホガニー製と言われている。

ほかにも12弦ティアドロップ・ギターや
小型12弦マンド・ギターも所有

ブライアンは、ティアドロップ型の12弦ギターも所有していた。こちらのテイルピースは、市販品と同じハンク・マーヴィン・トレモロ・ユニットが搭載されている。ブライアン所有器は2ピックアップだが、のちにⅫというモデル名で製品化された12弦ギターは、3ピックアップ仕様だった。

ブライアン・ジョーンズはVOXのティアドロップ・シェイプの12弦ギター、MKⅫもプレイしていた。1965年頃、ギターを手にしたミック・ジャガーと共に。
ブライアン・ジョーンズはVOXのティアドロップ・シェイプの12弦ギター、MKⅫもプレイしていた。1965年頃、ギターを手にしたミック・ジャガーと共に。

ティアドロップ・ギターを手がけたJMIのミック・ベネットは、マンドリン・サイズのエレクトリック12弦ギター、“Maodo Guitar(マンド・ギター)”を製作し、65年にはブライアンの手元に届いている。ブライアンは、このマンド・ギターを『Aftermath』(66年)収録の「Mother’s Little Helper」のレコーディングで使用。曲間で聴ける印象的なフレーズは本器によるものだ。余談ではあるが、同じ楽器をビートルズのジョージ・ハリスンも所有しており、64年『Beatles For Sale』収録の「Words Of Love」の印象的なイントロで同様のサウンドが鳴っている。

ロック史を語るうえで大変貴重なブライアンのティアドロップ・ギターは、現存している。1984年にサザビーズのオークションに出品され、ハードロックカフェが落札。現在はロンドンの倉庫で大切に保管されているそうだ。

今の感覚から見てもかなり際立つ独特なシェイプは、伊達男ブライアン・ジョーンズによく似合っていた。むしろこのギターが様になるになるギタリストは、その後のロック・シーンを見渡してもそうそういない。新しいギターを生み出そうとしていたVOXとブライアンの感性が共鳴したティアドロップ・ギターは、今なお色褪せない存在感を保ち続けている。

ハードロックカフェによる所有コレクションの解説動画。ブライアン・ジョーンズのティアドロップ・ギター(実物)について語っている。