1965年のキースとブライアンを魅了したファイアーバードⅦ(後編)|連載 ローリング・ストーンズにまつわるギターのハナシ。 1965年のキースとブライアンを魅了したファイアーバードⅦ(後編)|連載 ローリング・ストーンズにまつわるギターのハナシ。

1965年のキースとブライアンを魅了したファイアーバードⅦ(後編)|連載 ローリング・ストーンズにまつわるギターのハナシ。

ザ・ローリング・ストーンズにまつわるギターの物語を紹介していく連載。代表曲「(I Can’t Get No)Satisfaction」(1965年)が生まれた60年代中期にブライアン・ジョーンズとキース・リチャーズの2人が手にしていたギブソンのファイアーバードの逸話をお届けしよう。

文=鈴木伸明 Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images

入手したばかりのファイアーバードをレコーディングに投入

ローリング・ストーンズはミシガン州からLAに移動し、RCAスタジオズでレコーディングの続きに取りかかった。記録では5月12日と13日の2日間。チェスで録音した「(I Can’t Get No)Satisfaction」の出来はいまひとつだったようで、テンポを変更してキースがリフを弾き直し、まったくアレンジの変わった楽曲として再レコーディングされた。イントロから鳴り響くあの名リフで使用されたのが、MaestroのFZ-1 Fuzz Toneだった。あのフレーズは、ホーンのメロディ・ラインを意識して作られたというのは有名な話である。

キースはこの時、入手したばかりのファイアーバードⅦに加えて、59年製レス・ポール・モデル、62年製エピフォン・カジノなども用意しており、「(I Can’t Get No)Satisfaction」のレコーディングではファイアバードⅦを使ったという説が有力だが、真相は定かではない。ただ、現場にファイアーバードⅦがあったのは間違いない。使用アンプはフェンダーのShowmanと言われている。

バッキングではギブソンのヘリテージを使用。ファイアーバード、Fuzz Tone、さらにアコースティック・ギターと、数日前にギブソンで手に入れたばかりの楽器を本番のレコーディングでいきなり使用していた点も興味深い。この曲ではブライアン・ジョーンズもギブソン・ヘリテージをプレイ。さらにハープ、ピアノ、オルガンを演奏した。

この時のRCAのレコーディング風景をとらえた写真では、ブース内でキースとブライアンの2人ともファイアーバードを弾いている姿がある。さらに65年5月15日の米ウェストコーストのTV番組『Hollywood A GO-Go』に出演して「The Last Time」を演奏した際には、2人でファイアーバードを手にしていた。

1965年、テレビ番組出演時のショット。珍しくキース・リチャーズとブライアン・ジョーンズの2人ともがファイアーバードを抱えている。
1965年、テレビ番組出演時のショット。珍しくキース・リチャーズとブライアン・ジョーンズの2人ともがファイアーバードを抱えている。

余談だが、“I can’t get no satisfaction”という歌詞はキースが考えたそうで、チャック・ベリー「30 Days」(1955年)の“If I don’t get no Satisfaction from the Judge”という歌詞から引用したそうだ。

その後のローリング・ストーンズとファイアーバード

ギブソンのファイアーバードが登場したのは63年。フライングV、エクスプローラーといったオリジナル・シェイプが不振となり、ギタリストのレス・ポールとの契約の関係でレス・ポール・シェイプが廃止、ソリッド・ギターとしてはSGシェイプのみを製造していた時期だ。

市場ではフェンダーの人気が高まっており、復権をかけてギブソンが登場させたのがファイアーバードだった。デザインは、クライスラーでカー・デザインを手がけていたレイ・デートリッヒに依頼。左右非対称のボディは優雅な曲線を描き、スルー・ネック構造で両サイドが一段低くなっているボディ・トップは高級感を醸し出していた。

ペグはヘッドの裏側にツマミがあるバンジョー・スタイルのものを採用。ピックアップは高域に特徴のあるミニ・ハムバッキング(ゴールドはPU-740、ニッケルはPU-720)を搭載。ファイアー・バードもレス・ポール・ジュニア/スペシャル/スタンダード/カスタムと同様に、ピックアップの数、ポジション・マーク、テイルピースなどの違いでⅠ、Ⅲ、Ⅴ、Ⅶのバリエーションが用意されていた。キースとブライアンが使用したⅦは最上位モデルだ。

革新的すぎたデザインや価格が高かったせいか、市場では苦戦を強いられる。65年には早くもモデル・チェンジが行なわれ、左右をひっくり返すという驚異のデザイン変更で生まれ変わった。ボディ・トップはフラットに、ピックアップはピックガードにマウント、セット・ネック、クルーソン・ペグなど、生産効率が見直されることに。これにより、初代はオリジナル・リバース、後期はノン・リバースと呼ばれている。

キースとブライアンは、 65年のそのあとのツアーでもファイアバードⅦを使用した。特にブライアンがステージでプレイしている写真はいくつも残っている。さらにブライアンは、のちにノン・リバースの66年製ファイアーバードⅢとⅦも手に入れてステージで使用するようになる。

キースは、66年以降にファイアバードをプレイすることはほとんどなくなるが、盗難にあったという説がある。74年リリースの「It’s Only Rock’n Roll」のMVでは、キースはノン・リバースのファイアーバードⅢを手にしている。また、2021年にはキースのオフィシャルSNSにオリジナル・リバースのファイアーバードⅦをプレイしている姿が掲載された。当時と同じギターであるかは不明だが、キースが弾くファイアーバードのサウンドを今後聴けるかもしれないと想像するのは、楽しいものだ。

近年のライブでは、ロン・ウッドがオリジナル・リバースのファイアーバードⅦをステージでプレイしている。