リペアって面白くないですか?
匠の技がある。
そういうのを、
伝えたいなと思ったんです。
今までもいろいろなテーマで漫画を描いてきたと思いますが、このタイミングでギターをテーマにした漫画『ギターショップ・ロージー』を描こうと思ったのは?
漫画ってね、数年前まではいっぱいの人間で描いてたんですよ。アシスタントに手伝ってもらって。だから背景とかはスタッフが描いていたんです。でも、今は全部俺がひとりで描いてる。なんでこれができるようになったかっていうと、コンピューターが進化したから。15年くらい前はまだここまで進化してなかった。スキャナーにしてもすべてがある程度のクオリティのところまで来たんですよ。もちろん、音楽の漫画はどこかで1回描こうと思ってたんだけど、ギターって描くのが大変過ぎるんで。俺はなまじっか弾けるから、フレットが一つ足りないとか、6弦がないとか、この曲を演奏しているのにコードが違うとか、そんなんじゃ発表できない。例えば、ストラトキャスターなんて、描くのがメチャクチャ難しい。知らない人が描いたら、写真を渡してもとんでもないものが出来上がってくる。今は写真に撮って、それをスキャンして、加工して、最終的に自分で描くんです。だから形自体は狂わない。それで描けるようになったから、自分の中でGOサインを出したんです。
音楽漫画の中でも、なぜギター・ショップを題材にしようと考えたのですか? 通常はバンドの成功物語などが多いですよね。
リペアって面白くないですか? 匠の技がある。ネジをちょっと回しただけで音が違ったり、ちゃんとした人がセットアップするとものすごく弾きやすくなるじゃないですか。そういうのをね、伝えたいなと思ったんです。ビンテージ・ギターだったり、素晴らしい楽器ってどこに違いがあるんだろう?っていうのは、漫画でも伝わるんじゃないかなと思って。漫画なら、ギターに興味を持っていない人でも、興味を持ってもらえるんじゃないかなって。俺はね、ギターをいじる人を尊敬しているんですよ。それと同時にね、ちょっと滑稽なところもあると思う。フェンダーの楽器って、ネジでとまってるんですよ! それを最初に50年代に作ったからすごいすごい!って言って、ものすごいビンテージ楽器だと崇めてる。ネジでとまってるのに(笑)。全然ギブソンの楽器のほうが工芸品としてはよくできてるじゃないですか。その合理性の中に生まれた量産品の楽器を真剣に、この何十年も崇めて直してっていうこの滑稽さ(笑)。PAFにしたって昔と材質が同じにならないとか言うわけじゃないですか。同じ楽器は現在の技術を使っても作れない、それって浪漫でしかないですよね。
ギターショップ・ロージーには二人の店員がいますが、これは実在の誰かをモデルにしているのですか?
それはないですね。なんで二人にしたかったかと言うと、音楽の趣味を変えたかったんです。一人はパンキッシュでブリティッシュな音楽が好き。そいつのほうがジャーンって弾いてギターなんて鳴りゃいいんだって言いそうなんだけど、実はギターに対してはすごくこだわっている。お兄ちゃんのほうがAC/DCが大好き過ぎて、こだわりそうなんだけど無頓着っていう。そこに絶対二人のやりとりが生まれると思って描きましたね。
最初の読み切りはリッケンバッカーのラップ・スティールがテーマでしたね。通常有名なのはストラトキャスターやレス・ポールですが、いきなりマニアックでびっくりしました。
俺はね、ストラトキャスターが大嫌いなんです(笑)。最初の読み切りで、ストラトキャスターを取り上げるのは一番日和ってるなと(笑)。まあ長く描くんだったら一度は描くと思いますけど。素晴らしいギターであることは間違いないので。ただ、なぜ素晴らしいかってことを言ってみたいじゃないですか。だって、バネの音がするって言われてますけど、あれはマグレに決まってる、そこも描いてみたいと思いますね。
トレモロのバネまで突っ込んだギター漫画は過去に絶対になかったですよね。リッケンバッカーも、このギターはベークライトでできている!みたいな記述を読んで、思わず笑ってしまいました。
そうそう。ベークライトが昔のテレのピックガードだったとかね、知らない人も多いと思いますよ。昔のテレのピックガードは、塗装してるんです。だから、丸く剥げてくるというね。
70年もたってるのに、
今でも全然使えるんですよ。
最高にロックな音がする。
髙橋先生が一番好きなギターは?
テレキャスターですね。完全にキース・リチャーズの影響です。あと、横に置ける(笑)。テレは、チャキーンとした音で、ボーカルしか弾いちゃいけないギターと子供の頃に教わってきたわけですよ。でも本物のテレキャスターの音って凄まじく美しい音がする。ストラトの何でもできるっていう感じがダメで。でもテレの、たくさんのことはできないっていう態度がいい。やればできるんですけどね。あと、いじるのが簡単ですね。ストラトはフローティングとか、アームが付いている分難しい。テレも結局シンプルな分だけ奥が深かったりしますけど。あと、リッケンのラップ・スティールに出会ったのが、『ロージー』って漫画を描こうと思ったきっかけとしてでかいですね。それまでの、自分の中の情報ではテレキャスターより前はないくらいに思ってた。それ以前には世の中にエレキ・ギターっていうのはなくって、すべてのことはレオ・フェンダーから始まったとちょっと思い込んでいた。で、ラップに出会って調べてみると、30年代後半から存在しているという。なんで、ピックアップが付いたか知っていますか? ハワイアンが人気過ぎて、うしろまで音が聴こえないからってところで始まってるわけですよ。エレキ・ギターの原理はそこじゃないですか。要するにいっぱいの人に聴かせたいから増幅しなきゃいけないっていう当たり前のところから始まってる。そしたら、ラップにピックアップを付けたっていう作業はどうだったのか?ってメチャクチャ気になり出して、このリッケンのB6を手に入れてみたら、メチャクチャカッコイイ音がするわけですよ。ベークライトのボディとホースシュー・ピックアップと相まって、これでしか出ない伸びやかな音がする。70年もたってるのに、今でも全然使えるんですよ。最高にロックな音がする。もう衝撃を受けましたね。だから、テレキャスターより偉い!って思っちゃった(笑)。それを伝えたかったんですよね。こんなにギターを弾いてきても、こんな衝撃的な出会いってあるんだなっていうことを思ったら、これは漫画に描きたいなって。それが大きかったかな。
これからもいろいろなビンテージ・ギターがテーマになっていくのですか?
ギターのことも描くけど、パーツの話もいってみようかなと(笑)。アンプとかエフェクターとかね。ピックアップ職人もいいですよね。〝でっかいエナメル線が見つかった!〟とか言って(笑)。〝それは買え—! これでいくつ作れると思ってたんだ。これは1955年製のエナメル線だぞ!〟みたいな(笑)。やっぱりピックアップってみんな興味があるじゃないですか。じゃないとPAFみたいなことにならないですよ。結局、こういうことって、すごく熱い人間たちの滑稽さなんです。何でもそうですよ。電車が好きな人でも何でもいいんですけど、そこには熱があって滑稽さがあって、それがドラマになる。そういう部分が伝わったらいいなと思いますね。
髙橋ツトム
Profile
たかはし・つとむ。1965年、東京都出身。学生時代にはパンク・バンドを結成し、並行して暴走族にも所属。その後、1989年『地雷震』で漫画家デビュー。『スカイハイ』、『爆音列島』、『SIDOOH/士道』などの作品を手がける。代表作『スカイハイ』はシリーズ連載でドラマ化、映画化されている。現在、ビッグコミックで『JUMBO MAX』、ビッグコミック増刊で『ギターショップ・ロージー』、ヤングキングBULLで『爆音列島』連載中。
『ギターショップ・ロージー』について
2018年に『ビッグコミック』にて読み切りが掲載され、2020年ビッグコミック増刊6月17日号(小学館)より、待望の連載が開始されたギター漫画。ロック好き兄弟が営むギターショップが舞台。店に持ち込まれるギター、依頼主、そして兄弟による三つ巴のヒューマン・ドラマが読者の胸を熱くする。
ビッグコミックで連載中の『JUMBO MAX』の最新単行本1集が11月30日に発売!
作品ページへ>
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本記事はギター・マガジン・レイドバックVol.4にも掲載されています。本誌では、ここで載せきれなかった髙橋先生のギター・コレクションも多数紹介。ぜひ誌面もチェックしてみて下さい! 特集は『クラプトンはやっぱりクリームが最高!』、表紙は富田鈴花、松田好花(日向坂46)が目印!