Interview|真壁陽平“セッション名手”が秘めるエディ愛 Interview|真壁陽平“セッション名手”が秘めるエディ愛

Interview|真壁陽平
“セッション名手”が秘めるエディ愛

国内屈指のセッション・ギタリストもエディ愛に溢れる人物だった。真壁陽平───藤井フミヤや斉藤和義、あいみょん、米津玄師のサポートなど、さまざまなアーティストから絶大な信頼を集めている名手だ。これまでフェンダー・ジャズマスターをトレードマークとしていた彼だが、ここ数ヵ月、ストライプ柄のギターを持ってステージに立つようになっている。仕事で求められるギターの方向性は違えど、エディの影響をたっぷり受けている真壁に、その秘めた熱い愛情を語ってもらおう

取材/文=近藤正義


初めて見たエディ・ヴァン・ヘイレンの写真は、角刈りの渋いオヤジでした(笑)。

ヴァン・ヘイレンのリアルタイム体験はどのあたりからでしたか?

 1995年の『バランス』からです。だから、初めて見たエディ・ヴァン・ヘイレンは、角刈りの渋いオヤジでした(笑)。僕がギターを始めた頃、習いに行っていたギター教室で先生から何枚かロックのアルバムを教えてもらって、僕はエクストリームのアルバムを、友人はヴァン・ヘイレンのアルバムを買ったんですよ。それをふたりで貸し借りした時に聴いたのが、1stアルバム(『炎の導火線』1978年)で。その時の印象は、僕には曲のタイプとしてロックンロールやブルースの色合いが濃く感じられて、時代的にちょっと古い音楽なのかなと思いました。でも聴けば聴くほど、いろんな点での凄さに気づいて好きになっていったんです。

当時コピーはしましたか?

 エディのギターは独特のノリがあって真似しづらいので、あまりコピーはしませんでした。リフはカッコ良いので真似してましたけどね。でも、「イラプション」だけはしっかりとコピーしましたよ。ああいうエディの派手な面は聴く側にとってもわかりやすいので、やればそれ風に聴こえますから(笑)。でも、エディのギターの本当の難しさは、あのスピード感とリズムのウネリです。インプロも、破綻するギリギリ手前でタイム感をキープしながら疾走している感じ。だからスリリングなんですよ。

音の空間があるからこそ、エディのやっていることが鮮明に聴き取れる。

デビュー・アルバムのサウンドについての感想は?

 初期のアルバムは左チャンネルにギターがあって、右チャンネルがスカスカ(笑)。しかもダビングもほとんどないという潔さ。ただ、この状態でもギターが多彩なコード感を出しているんですよね。パワーコードだけでなく、いろいろ変形を加えてコード感を出しながら、オブリやソロも弾いている。それをしっかりと聴かせるためにも、あえて音を埋めていないんだと感じますね。音の空間があるからこそ、エディのやっていることが鮮明に聴き取れるんだと思います。

エディのギターについては、どの頃のサウンドがお好きですか?

 やはり、初期のマーシャルを使ったサウンドが一番カッコ良いと思います。『5150』あたりからはデジタル感が強くなってきて、低音と高音が強調されたドンシャリなサウンドになっていきますからね。そのあと、どんどんモジュレーションのかかったクリーンなサウンドに変わっていって、最終的にはまた初期のサウンドに戻っていったという印象があります。初期のあの歪み方が好きでいろいろと調べていたんですが、最近、ヴァン・ヘイレンのマルチ・トラックが出回っていて、それを聴くとギターはそれほど強く歪んでいないんですよね。それなのにあのサステインとフィードバックですから、いかに絶妙な歪みなのか、ということです。

5150クレイマー型のコピー・モデルを買ったんですよ。

真壁さん自身のギター・プレイへの影響はあるんですか?

 僕は普段の仕事でこういう音楽をやっているわけではないんですが、それでも影響されていますね。“こういうギターを弾きたい”と思わせるんですよ。実は近年になってから、5150クレイマー型のコピー・モデルを買ったんです。バナナヘッドのヤツですね。で、ピックアップをエディと同じくPAFに付け替えたんですが、すごくハウリングを起こしてしまって。でも、ロウ漬けしたら直ってくれたので、納得して……そんなことをやって、ハマっています(笑)。先日、斉藤和義さんのレコーディングの仕事でヴァン・ヘイレン風のソロを弾いてくれと言われた場面がありまして、文字どおり僕の “炎の導火線” にも火が点いてしまったわけです(笑)。ライブでも、そのギターで弾くと、視覚的にもアピールできてウケています(笑)。

前述のバナナヘッド・モデルを持ち、ステージ上で“エドワード・ジャンプ”!

ヴァン・ヘイレンのライブを観に行ったことはありますか?

 最後の来日公演となってしまった2013年の東京ドームを観ました。やっと生で観られた、という気持ちでした。“今、あのギター・サウンドが聴こえている!”とか、“エディって本当にいたんだ”って感じましたね(笑)。あまりにも遠い存在の人だったので、エディのことを実在しない架空のキャラクターだと思っていたのかもしれません(笑)。選曲も超ベストなセットリストで、とても楽しかったな。でも、エディはロック・スターなのに衣装が普段着というのが面白いですよね。

ロック・バンドのすべてがヴァン・ヘイレンの影響下にある。

好きなアルバムはどれですか?

 一番よく聴いたのは1stアルバムですが、カッコ良いなと気づいたのは『1984』です。全曲、素晴らしいと思います。曲では「ドロップ・デッド・レッグス」のコード感が子供の頃から大好きなんですよ。

エディの演奏で、最も好きな一瞬を教えて下さい。

 「ハウス・オブ・ペイン」の後半で、一瞬ソロがメロディアスになる箇所です。僕にはエディのギターは “叫ぶ” とか “吠える” というイメージがあって、あまり歌い上げるというか “泣き” を感じないんですが、この曲ではそんなテイストも盛り込まれているように思うんですよ。もう1曲あげるなら、「トップ・ジミー」のソロがめちゃめちゃ好きです。これは、破綻するギリギリで展開しながらもスピード感が保たれているんですよね。

これからエディのギターに触れるであろう次世代のギター・キッズに、彼の凄さを教えるとしたら?

 ジミ・ヘンドリックスと並ぶ、エレクトリック・ギタリストの代表ですね。最もわかりやすいアイコンです。ロック・バンドのすべてがヴァン・ヘイレンの影響下にあると言ってもよいと思いますよ。特に初期のバンドとしてのアンサンブルは、とても参考になります。現代のロックは音数の多いサウンドが主流ですが、ほとんどダビングのないシンプルな編成の基本を勉強するにはピッタリです。聴けば聴くほど、新しい発見があります。それと、ギターを改造しまくって、自分だけのモノを作ってしまうオタクさもすごいですよね。実際、ギターのパーツに関してはいくつか特許も持っていますし。まぁ、凄い要素はたくさんあるのですが、何よりもヴァン・ヘイレンは最高にカッコいいロックバンドだったんですよ。

最後にエディが亡くなってしまったことに対する気持ちをひと言、お願いします。

 ロック界は宝を失いました。もう生の演奏や新作を聴けないのは、寂しいとしか言いようがありません。もし存在するのであれば、未発表曲も聴いてみたいですね。

真壁陽平が最も好きなエディの“一瞬”

真壁がグッとくる「ハウス・オブ・ペイン」のソロをモチーフにした参考譜例がこちら(参考CDタイム=1:25〜1:34)。ここで一瞬だけメロディアスにキメるエディのニクさ!

COLUMN:幅広い世代から求められるセッション・ギタリストとエディ・ヴァン・ヘイレン

2020年3月、真壁陽平が自身のTwiitterにアップした「暗闇の爆撃(Eruption)」が大きな反響を呼んだのは記憶に新しい。細かい譜面上の難関もさることながら、驚くべきは倍音たっぷりに煌くトーンとうねるようなフレーズのタイム感。根本的だが実は本当に難しい部分をあぶり出していたことには、“さすが!”とうならせるモノがあった。

1979年生まれの彼は、ヴァン・ヘイレンの体験は90年代の半ばからという、バンド後期からの参入組。世代的にヌーノ・ベッテンコート、ポール・ギルバート、スティーヴ・ヴァイなどテクニカル系のギタリストに憧れてギターを練習した世代だ。その後、バンドの先輩たちからクラシック・ロック、ソウル、ファンクの名盤を教えてもらったりしながら、幅広い音楽を吸収していく。

そして、プロとなってからの彼は各方面からオファーを受ける人気ギタリストになった。斉藤和義や藤井フミヤ、米津玄師のツアーやレコーディングを始め、幅広い年齢層のアーティストからのファースト・コールが絶えない。その理由は、おそらくこうであろう。テクニカル系のギター・ミュージックもルーツに持つだけに、技術的にはおそろしいくらいにうまい。そこへ彼が生まれる前のロックやソウルの名盤からのエキスを吸収したのだから鬼に金棒。それだけではなく、その“うまさ”をポップスの中に見事に溶け込ませる類稀なるセンスを持っているのだ。

彼が弾くのびのびとした自由なギター・プレイを聴くと、なぜかエディのことを思い出すから不思議だ。インタビュー中に、笑顔でギターについて語っている彼を見ていてもそう思う。何かエディと似た雰囲気を持っている、愛すべきキャラクターなのだ。

彼は普段の仕事で、ヴァン・ヘイレンのようなハードロックを主体にしているわけではないし、使っているメイン・ギターもフェンダー・ジャズマスター。しかし、蓋を開けてみれば彼の心にはエディ愛が溢れていた。一見、つながりはなさそうなのだが、彼もしっかりとエディの影響を受けていたのである。

『ギター・マガジン2021年1月号』
特集:追悼 エディ・ヴァン・ヘイレン

12月11日発売のギター・マガジン2021年1月号は、エディ・ヴァン・ヘイレンの追悼特集。全6篇の貴重な本人インタビューを掲載しています。

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